大洲の視点 ・ 出典: 大洲市議会 令和元年9月定例会 会議録ほか ・ 約7分で読める
大洲城に泊まれるの、知ってた? 2名で132万円からなんよ。
そのお金がどこへ行くのか、市が議会で数字を出してた。
市に入るのは10%くらいなんだって。メモう!
3行でいうと調べた資料 10本
大洲城に泊まれる。それも1泊で百万円を超える。この話は全国ニュースにもなったので、知っている人は多い。
では、その百万円はどこへ行くのか。
観光の記事は「話題になった」で終わりがちだ。この記事はそこから先を追いたい。 そして、この「どこへ行くのか」には、はっきりした答えが残っていた。 大洲市議会の令和元年9月定例会で、議員が「宿泊料のうち何%が市に入り、何%が維持・保全に回るのか」と正面から質問し、 商工観光部長が数字で答えている。会議録は市のサイトに全文が残っている。
料金の仕組みはこうだ。基本は1名55万円(税込)で、2名以上からの受付になるため、最低でも1泊100万円を超える設定になる。
そこに宿泊者を1名追加するごとに、大人(中学生以上)11万円、小学生5万5千円、未就学児3万3千円が加算されていく。
この「追加1名あたり11万円」という料金の内訳は、日経クロストレンドの取材記事でも同じ数字が確認できたので、当時の実際の価格だったと見てよさそうだ。
ここに専用花火の打ち上げや肱川遊覧といった追加プログラムを重ねると、支払額はさらに上がる。 ただし、平均していくらになるのかを示した公表資料は見つけられなかった。 市の会議録にも、キタ・マネジメントの実績報告にも、1組あたりの平均単価は出てこない。 後に触れる令和7年度の実績(12件・23,201,818円)から割り戻すと1組あたり約193万円になるが、 これは年度合計を件数で割っただけの数字で、内訳は分からない。
事業の開始日は2020年7月23日。これは市が議会で答えている。 当初は同年4月に市民向けのプレイベントを予定していたが、感染症の影響で中止になり、 2020年6月時点の予約は国内から1件だけだった。華やかに始まったわけではない。
今の公式サイトの料金表を見ると、2名利用時はおひとり66万円(税込)、つまり2名1泊132万円からという表示に変わっていて、当時の「基本55万円+追加1名ごとに加算」という仕組みから、人数に応じた1人あたり単価制に見直されていることが分かる。
その後の実績を、キタ・マネジメントの令和7年度実績報告で見つけた。
令和7年度のキャッスルステイの販売実績は12件・23,201,818円。
1組あたり平均すると約193万円になる。 市が当初見込んでいた「年間30日程度」には届いていないが、 開始時の目標だった年間の実施が12件まで戻っていて、 売上は2,300万円を超えている。少なくとも「話題だけで終わっていない」ことは、この数字が裏づけている。
ちなみに同じ報告書には「OZU STORIES」(大洲城下町再生の物語をめぐるコンテンツ)52件・125万円、「大洲城ナイトツアー」7件・10.8万円という実績も載っていた。
大洲城は総工費13億円のうち5億円が住民の寄付で賄われ、天守を支える柱の多くに住民が寄付した檜などの 木材が使われている「地域住民の思いが籠った宝」だという記述にも、あらためて考えさせられた。
そういう場所を、ただの見学施設で終わらせず、「1617年加藤貞泰の入城」を再現する滞在体験として活用する発想の転換が、このプログラムの核にあるらしい。
臥龍山荘でも「朝のもてなし」として、かつての迎賓機能を再現した体験が用意されているとのこと。
面白いのは、ここに至るまでのプロセスがかなり慎重だったという点。
ただし、慎重に進めたことと、市民に受け入れられたことは別だった。 会議録には、寄付でよみがえった城を宿にすることへの反発が、そのまま残っている。 市長自身も「市民の皆様への説明につきましては、本来もう少し早い段階から始めるべきではございました」 「説明が十分にできていなかったことにつきましては重く受けとめており」と答弁している。 にぎやかなニュースの裏で、こういうやり取りがあったことは記録しておきたい。
2019年5月末に市が有識者による「文化財観光施設を活用した歴史体験検討委員会」を組織し、 同年11月8日・9日に天守での宿泊の実証実験を行っている。 その間、市長答弁によれば、自治会連絡会議をはじめ、肱南地区を中心とした地域自治会組織、 大洲史談会、大洲市連合婦人会といった各種団体に説明して回った。
市長は2019年6月の定例会で、「秋に1回、実証実験を行い、その検証を踏まえ、来年度からは 一般観覧に支障のない範囲で年間30日程度の実施を見込んでおります」と述べている。 入浴や厨房の空間は二の丸に整備し、天守そのものには手を加えないという条件つきだ。 一般公開は続けたまま、閉館後の時間だけを使う。思いつきで始めたものではないことがよく分かる。
この「年30日程度」という限定運営、実は裏に理由がありそうだ。
2020年7月に始まった大洲城キャッスルステイは日本で最初に始まった城泊だが、天守そのものを「常設の宿泊施設」にはしていない。
一方、2021年4月に長崎県平戸市に誕生した「CASTLE STAY 懐柔櫓」は、日本100名城の中で初めて常設された城泊施設だという。
つまり大洲は「最初に始めた城泊」、平戸は「最初の常設施設」という違いがある。
大洲が常設化しなかったのは、文化財としての一般公開を続けながら宿泊という新しい使い方も試す、という両立を優先した結果なのだろう。
役割分担も整理されていて、市は実証実験の主催や指定管理者への監督権限を持ち、官民協働組織のDMOキタが 行政機関や地元芸能団体との調整を担い、実際の運営やプロモーションは民間事業者のバリューマネジメント(大阪市)が担当している。
「地域の宝の管理責任は行政、専門的な運営は民間、その間を取り持つのが官民協働組織」という三者の役割 分担が、質の高い体験を成立させているという分析だった。
本題に入る。支払った百万円は、どこへ行くのか。
2019年9月の定例会で、議員が「大洲市には、その宿泊料の100万円のうちの何%が入るのか。 そして、その何%が維持、保全に回されるのか」と質問した。商工観光部長の答弁はこうだ。
今、想定しております宿泊された方から受け取った料金を100とした場合、事業の運用者となりますバリューマネジメントに残る利益の割合は、全体の4%程度、同じく運営にかかわりますキタ・マネジメントに残る利益割合も4%程度、お城や公園の使用料として市に入る割合というのが、全体の10%程度と見込んでおります。残りの82%程度が経費ということになる
大洲市議会 令和元年9月定例会(3日目)会議録
整理するとこうなる。百万円払ったとして、市に入るのは10万円ほど。 運営するバリューマネジメントの利益が4万円ほど、地域DMOのキタ・マネジメントの利益も4万円ほど。 残りの82万円は経費だ。
この82万円の中身も答弁されている。関連施設の整備費の償還、市の伝統芸能の出演者への謝礼、 現地スタッフの人件費、食材。つまり経費の多くは地域に落ちるという説明だった。 「儲けが薄い」と読むこともできるし、「地元にお金が回る設計になっている」と読むこともできる。 どちらか一方だけを取るのは公平ではないので、両方書いておく。
別の議員は、この10%を金額に置き換えて話している。 「大洲城の城主体験事業は100万円で行われます。年間30組で1組で10万円入り、300万円が大洲市に入るといいます」(2020年3月定例会)。 市長が説明していたのは「年間30日程度の実施」なので、 30組という数え方はこの議員が計算のために置いた前提だが、桁感はつかめる。 年に入って300万円。天守の維持費を賄う規模ではない。
ここで最初の問いに戻る。「その何%が維持、保全に回されるのか」。 答弁が明示したのは「お城や公園の使用料として市に入る割合が10%程度」までで、 そのうちどれだけが文化財の保全に充てられるのか、という一段先までは答えていない。 市の説明はあくまで「持続可能な形で文化財の維持、保全に向けての新たな財源を生み出す」という趣旨の言葉にとどまる。 調べた範囲では、この10%の使い道を年度ごとに追える資料は見つけられなかった。
なお、市がこの事業に出した実際の費用も答弁に残っている。 2019年度に行った実証実験の費用が506万3,000円。 本格実施後の運営費は事業者とDMOの負担で、 「この運営に関して事業者に赤字が発生したとしても、市に損害を与えることはございません」と説明されている。
この記事をサイトに掲載した日: 2026/08/01