大洲市の民生委員、充足率100%の裏にある担い手不足

大洲市総合福祉センターの建物
大洲市総合福祉センターの建物(撮影: OZU LIFE MEMO)
メモう

民生委員さんって、お給料ゼロなんだよ。法律でそう決まってるの。

それでも大洲は定員がぜんぶ埋まってて、全国では珍しいほうなんだって。メモう!

3行でいうと調べた資料 6本

  • 大洲市の民生委員は定数163人全員が委嘱済みで、充足率100%(全国平均91.7%)
  • ただし法律で「給与は支給しない」と定められた無給の仕事。実費の活動費だけ
  • 1人あたり約118世帯・約231人を見ている。次の改選は3年

これは大洲市議会が公開している中継動画(YouTube)の内容をもとにしている。

令和8年6月の定例会で、桝田和美議員が民生委員・児童委員の担い手不足について質問していた。

答弁によると、大洲市は定数163人全員の委嘱を達成し、充足率は100%該当箇所は動画の52分28秒あたりから。リンクをクリックするとその位置から再生される)。

これは全国平均の91.7%を大きく上回る数字だ。ただ、この「100%」を素直に喜んでいい話なのかどうか、順に見ていく。

そもそも民生委員とは何なのか

先に前提を整理する。民生委員は、地域住民の相談に乗ったり、見守りが必要な世帯を行政につないだりする、地域福祉の窓口役だ。

ひとり暮らしの高齢者の様子を定期的に見に行く。生活に困っている家庭の話を聞いて、市の窓口や社会福祉協議会につなぐ。

災害のときに支援が必要な人の名簿を扱う。児童委員も兼ねているので、子育ての悩みも受ける。

朝あいさつしてくれる近所の人、という印象とはかなり違う。実際にはかなり重い個人情報を預かる役割だ。

根拠になっているのは民生委員法(昭和23年法律第198号)で、身分は「特別職の地方公務員」

任期は3年。直近では令和7年12月1日に全国一斉改選が行われたばかりだ。

お金はもらっているのか。答えは「給与はゼロ」

一番気になるところだと思うので、はっきり書く。

民生委員法第10条に「民生委員には、給与を支給しないものとする」と明記されている。

地方公務員でありながら、法律で無給と定められている。完全なボランティアだ。

ただし、まったくの持ち出しというわけでもない。活動にかかる実費として「活動費」が支給される。

交通費、電話代、研修に行く費用といったものにあてるためのもので、報酬ではない。

大洲市の答弁では、県の補助に市の財源を上乗せして支給しており、令和3年度に増額したと説明されていた。

整理すると、「給与はゼロ。実費の一部が出る」というのが正確なところになる。

見守りも相談も地域行事の手伝いも、報酬ではなく、その人の時間で回っている。

163人という定数は、市が勝手に決めた数字ではない

「充足率100%といっても、目標が低いだけではないのか」。当然の疑問だと思う。ここを確かめた。

定数は市が自由に決められるものではない。民生委員法第4条により、厚生労働大臣が定める基準を参酌して、都道府県の条例で定めることになっている。

その基準が、平成13年6月29日の通知(雇児発第433号・社援第1145号)に書かれている。

  • 東京都区部及び指定都市: 220~440世帯ごとに1人
  • 中核市及び人口10万人以上の市: 170~360世帯ごとに1人
  • 人口10万人未満の市: 120~280世帯ごとに1人
  • 町村: 70~200世帯ごとに1人

大洲市は人口10万人未満の市なので、120~280世帯ごとに1人が基準になる。

実際の世帯数を当てはめてみる。住民基本台帳で令和8年7月31日現在、大洲市の世帯数は19,227世帯(人口37,725人)だ。

  • いちばん少なく設定した場合(280世帯に1人): 19,227÷280=約69人
  • いちばん手厚く設定した場合(120世帯に1人): 19,227÷120=約160人
  • 大洲市の実際の定数: 163人

163人は、国の基準のいちばん手厚い側で計算した約160人を、さらに上回っている。

1人あたりの担当は約118世帯、人口でいえば約231人という計算になる。

つまり「目標が低いから100%になった」わけではない。むしろ逆で、国の基準の上限いっぱいに近い、手厚い定数を設定したうえで、それを埋めきっている。

通知には「管内人口や面積、地理的条件、世帯構成の類型等を総合的に勘案して、地域の実情を踏まえた弾力的な定数設定」に留意するようにとも書かれている。

大洲市は面積が432平方キロメートルあり、肱川・河辺の山間部や長浜の海沿いまで抱えている。

世帯数だけでは測れない広さがあるぶん、人数を厚めに置いているのだと思う。

それでも「楽観できない」と市も認めている

では安泰かというと、そうではない。市側自身がこう答えている。

「民生委員推薦準備会や地域の皆様からは、候補者探しに苦慮しているとの声が寄せられている」。

163人埋まったのは結果であって、探す過程は綱渡りだったということだ。 3年ごとの改選のたびに、この作業が繰り返される。

全国の状況を見ると、危機感の理由が分かる。令和7年12月1日の一斉改選では、全国の定数24万971人に対して委嘱数は22万880人。 欠員は2万91人で、初めて2万人を超えた。 全国のおよそ12人に1人分の枠が、埋まっていない。

大洲市の対応としては、活動報告書などの提出書類の簡素化や、オンラインを活用した会議・研修による負担軽減が進められている。

報酬を出せない以上、打てる手は「負担を減らす」方向しかない、という制約の中での工夫だと思う。

正直に言うと、民生委員という仕事の中身を、この質問を追うまでよく知らなかった。

調べ終えて残ったのは、単純な事実だ。大洲市の163人は、法律で給与を支給しないと定められた立場で、1人あたり約118世帯・約231人を見ている。

その人たちが、ひとり暮らしの高齢者の様子を見に行き、困っている家庭の話を聞き、災害時の名簿を預かっている。

充足率100%という数字は、制度がうまくいっている証拠であると同時に、引き受けてくれる163人がいまはまだいる、というだけの数字でもある。

次の改選は3年後だ。それまでに、この163という数字の重さを忘れないようにしたい。

引き受けてくれている方々には、素直に、ありがとうと言いたい。

「1人あたり119世帯」は、平均でしかなかった

この記事では「1人あたり約118世帯」と書いた。 その数字がどれくらいあてになるのかを、別の定例会の会議録が教えてくれた。

令和7年9月の定例会である。改選の3か月前にあたる。 議員が同じ割り算をしていた。 市内の世帯数1万9,374世帯を163人で割ると平均119世帯。 そのうえで、こう続けている。

しかし、計算上では2倍を超えている地域もありますし、お一人の担当数が半分以下の50世帯以下の地域もあるのが現状となっております。また、同じ自治会の中でも地域割りがあり、お一人が300世帯以上担当されている民生委員さんもいるのではないかと推測をしております

大洲市議会 令和7年9月定例会(3日目)会議録

50世帯以下の人もいれば、300世帯以上の人もいるかもしれない。 平均119世帯という数字は、そのまん中を取っただけのものだった。

この差が効いてくるのは、国が示している目安があるからだ。 市の答弁によれば、民生委員の定数は 「民生委員1人当たり280世帯内」という基準を参考に決めるとされている。

平均の119世帯なら、この基準の半分以下におさまる。 だが議員が推測する300世帯以上の人がいるなら、その人は基準を超えていることになる。 平均が基準内でも、個々がそうとは限らない。

定数を決めているのは、市ではなく県だった

では、その163人という数はどこで決まるのか。 これも同じ答弁ではっきりしていた。

「同定数は、市の意見を聴取した上で県の条例により定めるものとされております」。 市が決めているのではない。 市にできるのは、意見を出して要望することまでである。

その手順も述べられていた。市は民生児童委員協議会会長会で協議を行い、 県に定数の要望を出した。その結果、令和7年12月1日の一斉改選以降も 163人で据え置きと決まった。

担当の格差については、市はこう答えている。 1人あたりの世帯数や人口に大きな差があるのは事実だが、 1人あたりの面積にも大きな違いが生じている、と。 そのうえでの一文が、この答弁でいちばん誠実だと思った。

民生委員の皆様の御負担の程度は数字だけで一律に計れるものではないと考えており、定数の設定に当たっては、地域の実情に精通され実際に活動を行っている民生委員の皆様の御意見を伺うことが最も重要であると考えております

大洲市議会 令和7年9月定例会(3日目)会議録 上野康広市民福祉部長

50世帯を山の中で回るのと、300世帯を市街地で回るのとでは、 どちらが重いか一概には言えない。そういう話である。

「充足率100%」は、こうやって作られた

この記事の入口だった「充足率100%」が、どうやって達成されたのか。 同じ定例会で、推薦する側に回った議員が、その現場を語っていた。

まず、探す体制のほうから変わっている。 喜多地区の民生委員推薦準備会は、以前は7名だった。 その人数だと、地区内に3つある自治会から1人しか入れない、という問題があった。 そこで市が枠を分け、今回は13名に増やした。 3つの自治会長が全員入れるようになった、という説明である。

そして探し方は、歩いて回るだった。 自治会長と、推薦をお願いする区長と、議員自身の3人で回って 「何とか確保ができた」という。

断られる理由として挙がったものが、生々しい。

言われたこと実際は
「民生委員になったら弁当作りせないけん」それを担当しているのは地区社協。民生委員の仕事だと受け取られている
共同募金の集金国道56号沿いに商店が多い喜多地区は大口募金が集まる。その担当が回ってきて「大きな苦痛になっとる」

民生委員の仕事そのものではないものが、断る理由になっている。 議員は「この民生委員さんと社会福祉協議会の在り方というんですか、 そういうとこも今後考えていかないと」と述べていた。

引き受けられる人が、時代とともに減っている

なり手が減った理由についての説明が、いちばん腑に落ちた。 働き方が変わったからである。

「以前は結局ある程度、60になったら年金ももらってという形が多かったんですけれども、 ほとんど共働きになって、もう70近くまでいないから、なかなかできる人が少なくなっております」。

60歳で仕事を離れて年金で暮らす人が、地域の役を引き受けていた。 その層が、いまは70歳近くまで働いている。 無給の仕事を引き受けられる時間が、そのぶん後ろへずれた。

主任児童委員のほうはさらに難しい、とも述べられていた。 年齢の目安が55歳までとされているためである。 かつては夫の管理職就任に合わせて教員が早期退職する例があったが、 いまはそういう実態がない、という指摘だった。

定年が延びると、地域の担い手がいなくなる。 この記事の本文で書いた「給与はゼロ」という制度は、 誰かに時間の余裕があることを前提にして成り立っていたことになる。

協議会の区割りは、自治会と一致していない

最後に、組織の形について1つ。

民生委員は民生委員協議会という単位で動くが、 これは自治会ごとに作られているわけではない。 旧大洲地区では若宮・五郎・田口の3つの自治会が、1つの喜多民生委員協議会になっている。

議員は、自治会が指定管理者になっていく流れの中で、 協議会も自治会単位に分けたほうがよいのではないか、と尋ねている。

市の答えは、当事者に聞いた結果を尊重するというものだった。 喜多地区の民生委員にはアンケート調査を行って意思を確認したが、 「喜多地区民生委員協議会の総意として現状の区域割りを選択されております」。 だから市としても、いまの区域が活動しやすい区域だと認識している、と。

充足率100%という数字から入って、 平均119世帯の内訳、県の条例、推薦準備会の13名、弁当と募金、 そして70歳まで働く時代まで来た。 100%は結果であって、状態ではなかった。 次の一斉改選は3年後である。