大洲のいま ・ 出典: 大洲市議会中継配信(YouTube) ・ 約8分で読める
大洲高校の普通科、1年で希望する子が半分近くまで減ったんだ。
理由は私立の学費がタダになったから。
「公立は安い」という理由が消えちゃったの。
3行でいうと調べた資料 4本
これは大洲市議会が公開している中継動画(YouTube)の内容をもとにしている。
令和8年6月の定例会で、中野寛之議員が大洲高校の定員割れについて質問していた。
答弁で出てきた数字がこれだ。令和8年度の県立高校入試で、大洲高校普通科の最終志願倍率は0.51倍。
該当箇所は動画の20分47秒あたりから(リンクをクリックするとその位置から再生される)。
前年度は0.94倍だった。1年で0.43ポイント下がっている。
市側は背景として、次の2点を挙げていた。
1つ目は人口減少の話で、これは前から続いている。この年に急に効いたのは2つ目のほうだ。
では「無償化拡充」で具体的に何が変わったのか。国の資料まで戻って確認した。
高等学校等就学支援金の制度を変える改正法は、令和8年3月31日に成立し、4月1日に施行された。
つまり大洲高校の入試があった年度から、ちょうど新制度が始まっている。
文部科学省の令和8年度予算資料に、新制度の中身がはっきり書かれていた。
旧制度と比べると、変わったのは2か所だ。1つは私立の上限が39万6,000円から45万7,200円へ、6万1,200円引き上げられたこと。
もう1つは所得制限が消えたことで、これまで年収910万円以上の世帯は私立でほとんど支援を受けられなかったのが、全世帯対象になった。
ここが決定的だと思う。公立高校の授業料はもともと年11万8,800円で、それは前から支援されていた。今回の改正で動いたのは私立側だけだ。
結果として何が起きたか。「公立は安いが、私立は高い」という、これまで公立を選ぶ最大の理由が、制度の上では消えた。
授業料が両方ゼロなら、あとは学校の中身と通学のしやすさだけで選ばれることになる。
松山の私立高校が持っているのは、大学進学実績や部活動や設備といった、規模でしか作れない魅力だ。
そこに大洲から通う、あるいは下宿する。倍率0.51倍という数字は、この選択が実際に起きた結果だと読める。
なお、この制度に投じられている予算は高等学校等就学支援金交付金だけで5,800億円。国全体の話としての規模も大きい。
大洲市が何もしていなかったわけではない。答弁では、これまでの取り組みが並べられていた。
議員からはカヌー部を軸にした全国募集の提案もあった。市側は「高校側の理解と協力体制の構築が必要」として、今後の検討課題とする考えを示している。
県立高校なので市が単独で決められない、という事情もここに出ている。
この件を、誰かの責任にするのは難しい。順に考えていくと、そうなる。
生徒と保護者は悪くない。授業料が同じなら、より良いと思う環境を選ぶのは当然だ。むしろ選択肢が増えたのはいいことでもある。
現場の先生も悪くない。チャレンジプログラムも駅前整備も懇談会も、地道に積み上げられてきた。
日々の授業や部活動での指導は、志願倍率という数字にはほとんど映らないところで続いている。
それでも数字が動いてしまうのは、努力が足りないからではない。
無償化という制度自体も、悪い制度ではない。家庭の経済状況で進路が決まってしまう状況を減らすというのは、正しい方向だと思う。
それでも、結果として地方の県立高校が定員割れという形でしわ寄せを受けている。全員が正しく動いた結果として、地方の高校だけが痩せていく。
この構図がいちばん厄介だと思う。「現場の取り組み」と「制度の設計」がかみ合っていない。
定員配分や公私間のバランスは大洲市単独では動かせないので、これは県や国のレベルで考える必要がある話だ。
一つだけ、手がかりになりそうなことがある。文部科学省の資料には「新たな制度の検証については、法施行後、3年以内の期間に十分な検証を行った上で、必要な制度の見直しを実施」と明記されている。
見直しの機会が、制度そのものの中に最初から組み込まれているということだ。
地方の公立高校で何が起きたかというデータは、その検証に載せられる材料になる。
大洲高校の0.51倍という数字は、嘆くためだけの数字ではなく、3年以内に国へ届けるべき記録でもあるはずだ。
地元の高校が定員割れというニュースは、大洲に住む身としては他人事とは思えない。
市内の中学生が地元の高校を選ばなくなっている、という現状は、率直に重い。
ただ、原因を追っていくと、悪者が一人も見つからなかった。だからこそ、制度の側で解くしかない話なのだと思う。
この記事は市議会の中継動画をもとに書いた。 その後、同じ定例会の会議録が公開されたので原文で読み直したところ、 動画では聞き逃していた大きな前提があった。
市の答弁に、こういう一節がある。
大洲高校の統合に係る新校の開設に必要な準備を進めるための大洲高校に係る新校開設準備委員会に、大洲市のほうから総務課長と学校教育指導監が委員として参加し、新しく統合する大洲高校の魅力化をどのように図っていくのかなどについて検討してまいりました
大洲市議会 令和8年6月定例会(2日目)会議録 西山和幸総務課長
いまの大洲高校は、統合してできた新しい学校である。 再質問の中では「大洲農業高校と大洲高校との委員会」という言い方も出てくる。
0.51倍という数字は、統合したばかりの学校で起きたことだったことになる。 この記事の本文で書いた「中学3年生が40人少なかった」「私立の無償化拡充」に加えて、 学校そのものが新しい形になった時期でもあった。
その準備委員会は今年3月をもって解散している。
準備委員会がなくなった代わりに、6月から新しい会議体が立ち上がる、と市は答えている。 県立高校振興計画後期計画を作るための「地域協議会」である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が入るか | 大洲喜多圏内の市長・町長、市町の教育長、地域住民、小中学校長、高等学校長など |
| 何回 | 年間4回程度 |
| 何を決めるか | 大洲喜多地区にある高校の再編等を含めた今後の方向性 |
「再編等を含めた」という言葉が入っている。 統合が1回で終わる話ではない、ということでもある。
議員はここに注文をつけていた。この協議会は大洲市と喜多郡の全体を扱うので、 大洲高校1校の魅力化という個別の話にはなりにくいのではないか、 市と学校が独自に情報共有する仕組みも要るのではないか、と。
市の答えは、協議会の中でも高校の魅力化は話に上がると思うのでそこでしっかり協議する、 そのうえで大洲高校とは個別に連携を取っていく、というものだった。
「市は何もしていなかったのか」という疑問にも、答弁が答えている。 挙げられていた取組を並べておく。
| 時期 | やったこと |
|---|---|
| 令和5年 | 大洲高校魅力化応援に関する懇談会を開催。市議会、農林水産業、製造業、金融サービス、地域教育などの関係者が意見交換し、意見を取りまとめて高校に提供 |
| 令和6年度から | 大洲市高校生チャレンジプログラム。起業や創業の基礎を学び、自ら課題に挑戦する姿勢を養う |
| 令和7年度 | JR伊予大洲駅の駐輪場を整備 |
| 令和8年6月議会 | 同じ駅にJR通学の生徒が使える待合スペースを整備する予算を計上 |
| 継続 | 高校での学校給食実施についての提案 |
駅の駐輪場と待合スペースが「高校魅力化の取組」として並んでいるのが、 いかにも地方の高校の話だと思う。 通いやすさそのものが、選ばれるかどうかに効く。
議会では、大洲高校でも全国募集をやってはどうか、という提案が出ていた。 同じ市内の長浜高校が、水族館部を看板にして先にやっているからである。
その中身を、市が具体的に答えていた。 生徒が入居する下宿の家賃の支援、入学支度金の支援。 議員はさらに下宿生への夕食・昼食の提供に協力を呼びかけることにも触れている。
全国から生徒を呼ぶというのは、住むところと食事を用意するという話だった。 看板になる部活があるだけでは足りない。
では大洲高校でもやるのか。市の答えは、順番の話だった。
今後魅力化を進めていきたいという、高校の希望や、全国募集に取り組みたいという考えがまず必要となってまいりますので、まず高校のほうと連携を取って確認をしながら(中略)市として解決できることが何があるかと、そのような、今後の全国募集に向けて何かできることはないか、また全国募集をするかどうかというのは、あらゆる機会を通じて検討してまいりたい
大洲市議会 令和8年6月定例会(2日目)会議録 西山和幸総務課長
まず高校が「やりたい」と言うことが要る。 この記事の本文で「県立高校なので市が単独で決められない」と書いたが、 その線がここでもはっきり引かれている。 全国募集は学校と県の判断で、市ができるのは支援と働きかけまでだ、ということになる。
最後に、市の答弁の中でいちばん強い言い方だった部分を引いておく。 市内の中学生が市外の高校へ流出している現状について、 「極めて憂慮すべき事態であると受け止めております」と述べている。
そして議員は、市長がよく言っている言葉として、 「大洲市内で義務教育を終えた中学生が高校卒業までは地元の高校に進学できるように環境を整えたい」を 引いて質問を締めていた。
この記事をサイトに掲載した日: 2026/08/18