大洲のいま ・ 出典: 広報おおず2026年4月号 ・ 約7分で読める
上須戒にできた新しい公民館、大洲で初めての作り方なんよ。
木の板を交互に重ねた材料でできてる。
災害のときの避難所にもなるんだって。
3行でいうと調べた資料 13本
昭和46年に建築された旧上須戒コミュニティセンターは、長年にわたり地域住民の活動拠点として、また 災害時の指定避難所として利用されてきたが、施設や設備の老朽化が課題になっていたそうだ。
そこで旧上須戒小学校跡地へ移転・新築し、2月27日に落成式が行われたと広報おおず2026年4月号に 載っていた。地元住民や関係者など約40人が出席したという。
個人的に「へえ」と思ったのが、二宮市長のコメント。「大洲市で初めてCLTパネルを採用し、木の温かみを 感じられる親しみやすい施設となった」とのこと。
CLTというのは、複数の木材の板を交互に重ねて接着し、強度と安定性を高めた構造材で、交差させることで 軽量でありながら地震や風に対する耐性だけでなく、耐荷重性も優れているらしい。
「CLTパネルで一番有名な建物って何だろう」と気になって調べてみたところ、一般の知名度でいうと東京2020オリンピック・パラリンピックの舞台になった国立競技場が有力候補だと思う。
選手更衣室のロッカーや休憩スペースのベンチ、屋外エレベーターの外壁などにCLTが使われていて、林野庁のページでも国産木材活用の代表事例として紹介されている。
ただし国立競技場は建物全体がCLT構造というわけではなく、内装・外装の一部での採用にとどまる。
一方、建築業界的な「CLTの到達点」として名前が挙がるのは、大林組が2022年に横浜に建てた研修施設「Port Plus」。
柱・梁・床・壁まで含めて上部構造をすべて木造とした、高さ44m・地上11階建ての「日本初の高層純木造耐火建築物」で、床にはCLTパネルが使われている。
CLTを構造材として本格的に使い切った、国内屈指の規模の建物だと思う。
CLTを使った建築は令和6年度末までに全国で1,482件竣工していて、公共施設への導入も珍しくなくなってきている。
兵庫県林業会館は、CLTと鉄骨を組み合わせたハイブリッド構造の都市型オフィスビルとしては国内初とされていて、パネルとガラス壁を交互に並べた市松模様の外観が特徴的だ。
ほかにも、CLT耐震壁を使うことで柱を減らし、広い空間と高い耐震性を両立させる建物が各地に出てきている。
さいたま市大宮区に2025年9月に竣工したテナントビルや、CLT耐震壁で耐震改修した尾鷲市役所本庁舎(三重県)などが例だ。
上須戒コミュニティセンターも、そうした全国的な木造公共施設の流れの中にある一例と言えそうだ。
大ホールは天井の高さを約3m確保し、柱や梁とCLTパネルの壁を見えるよう組み合わせた空間になっているそうで、 写真を見る限りかなり気持ちよさそうな造りだった。
建設の経過を見ると、令和5年10月に移転改築事業基本計画を策定してから、令和7年5月に着工、令和8年1月に 竣工、令和8年3月に供用開始と、意外と時間をかけて進めてきたプロジェクトだったことが分かる。
施設概要は木造平屋建て、敷地面積1,588.59㎡、延床面積402.22㎡、建設工事費は監理業務含め2億2,688万5千円。
大ホールのほか、小会議室・調理室・図書コーナーなど、さまざまな活動に対応できる部屋を備えているとのこと。
上須戒自治会長の古宅守男さんは「地域住民が長年待ち望んでいた新しい施設が完成したことを大変うれしく思います。 本施設が、世代を超えて人と人をつなぎ、地域住民の交流の場として、誰もが気軽に集い学び合える場として親しまれ、 笑顔が広がる地域の拠点となることを願っております」と話していたそうだ。
「災害時の指定避難所」でもあるという点も含めて、こういう地道な公共施設の更新こそ、暮らしの安心を 支えているんだなと思う。
この建物には、記事に書かなかった機能があった。 令和8年3月の定例会で、市長が招集の挨拶の中で述べている。
大洲市の公共施設として初となるCLT工法を採用し、工期の短縮や軽量化を図るとともに、断熱性と木のぬくもりが感じられる施設が誕生いたしました。地域の様々な活動やイベントに利用できるほか、停電時には屋根の上に設置された太陽光発電設備や蓄電池により、電気の供給ができる体制を構築しております
大洲市議会 令和8年3月定例会(1日目)会議録 二宮隆久市長
屋根に太陽光発電、そして蓄電池。 停電しても電気が使える避難所として作られている。
CLTを選んだ理由も、ここでは「工期の短縮や軽量化」と「断熱性」が挙げられている。 木の温かみだけの話ではなかった。
上須戒だけが特別に建て替えられたわけではない。 市には整備の順番がある。令和7年12月の定例会で、その全体像が説明されていた。
基準は令和5年11月に決定した大洲市地域自治組織再編方針にある。 「1つの自治会組織に1つの施設を設置する」こと、そして 旧耐震基準の施設から計画的に整備することである。
その順番が、そのまま答弁に出ていた。
| 時期 | どこを |
|---|---|
| 令和7年度(整備中) | カヌー艇庫を備えた肱南地域交流センターと上須戒コミュニティセンター |
| 令和8年度 | 大川コミュニティセンターの設計(平成30年7月豪雨で被災。大川地区復興まちづくり計画にもとづく) |
| 令和9年度 | 大川の新築工事 |
| 令和10年度以降 | 特に老朽化の著しい出海・白滝・豊茂地区のほか、五郎地区 |
なぜ急ぐのか。数字が別の定例会に出ていた。 令和7年6月の定例会で、市はコミュニティセンター30施設のうち12ほどが耐震化できていないと答えている。
4割が旧耐震のままということになる。 上須戒と肱南も、もともとはその中に入っていた。 市の説明では、次は「昭和40年代に建てられた物」から順に手をつけていく方針である。
新しい施設の考え方も述べられていた。 トイレの洋式化と多目的トイレ、手すりとスロープ、 2階建て以上ならエレベーター、そして授乳室やおむつ替えスペース。 さらに蓄電式の太陽光発電設備と防災備蓄倉庫である。 上須戒に付いた太陽光と蓄電池は、この方針どおりのものだったことになる。
調べていて、この地区についてもう1つ知ったことがある。 上須戒には、ヘリポートがある。
令和7年12月の定例会で、市長が孤立集落への備えを説明する中で述べていた。 大洲市には災害のときに孤立する可能性のある集落が97ある。 その対策の1つが空からの支援で、 平成30年度に上須戒地区と戒川地区へ、令和2年度に今坊地区へヘリポートを整備したという。
道が切れたら、上須戒には空から行く。 その地区の避難所が、停電しても電気の使える建物に建て替わった、という話になる。 点でつながっている。
最後に、正直に書いておきたい数字がある。
住民基本台帳(令和8年3月31日現在)で、 上須戒地区の人口は303人である。 建設費の約2億2,689万円をこの人数で割ると、 1人あたり約74万9,000円。延床402平方メートルは1人あたり1.33平方メートルになる。 この2つの割り算は自分でやった。
数字だけ見れば、高く見えるかもしれない。 ただ、この割り算にはあまり意味がないとも思う。 避難所は、人数で割って必要かどうかを決めるものではないからだ。 97ある孤立しうる集落の1つで、ヘリポートまで整備されている地区である。 そこに人が住んでいる限り、逃げ込む場所は要る。
もう1つ、時間の話も添えておく。 建て替え前の旧上須戒コミュニティセンターは昭和46年(1971年)の建築だった。 新しい建物が使われ始めた令和8年まで、55年。
その55年のあいだに、上須戒の人口は大きく変わっている。 市議会の会議録によれば、上須戒村の人口は 昭和29〜30年ごろに1,732人、平成26年11月末で486人だった。 そして令和8年3月末は303人。 昭和30年ごろと比べると82.5%減っている計算になる(自分で計算した)。
1,732人の村に建てた昭和46年の公民館と、303人の地区に建った令和8年のコミュニティセンター。 同じ場所に、まったく違う前提の建物が建っている。 CLTを使って軽く、短い工期で、停電しても電気が使える建物になったのは、 たぶんその違いと無関係ではないのだと思う。
この記事をサイトに掲載した日: 2026/07/30