大洲の人はイントネーションがない」と言われる理由

大洲の中心商店街の通り
大洲の中心商店街の通り(撮影: OZU LIFE MEMO)
メモう

大洲では「雨」と「飴」が同じ発音になるんよ。知っとった?

高い低いの型を持たない話し方なの。

愛媛の中でも、この型なのは大洲だけ。メモう!

3行でいうと調べた資料 6本

  • 大洲では「雨」と「飴」が同じ発音になる。高低の型を持たない「無アクセント」地域だ
  • 愛媛県内のアクセントは4種類に分かれ、型を持たないのは大洲だけ
  • 方言の単語を使わなくても話し方で出身地が分かるのは、このため

大洲の生まれだと知っている人から、たまにこう言われる。

「大洲の人ってイントネーションないよね。やっぱりそうだ」

方言の単語を使ったわけでもないのに、話し方だけで出身地が当てられる。この現象には、はっきりした理由があった。

「雨」と「飴」が、同じ音になる

一番分かりやすい例がこれだ。大洲では「雨」も「飴」も同じ発音になる。

共通語(東京式アクセント)では、この2つは音の高さで区別される。

「雨」はが高くてが低い。「飴」はが低くてが高い。文字にすると同じでも、耳では別の単語として聞こえる。

大洲では、この高低の区別がない。だから「雨が降る」と「飴が落ちる」を、音だけでは区別しない。

言語学の資料では、同じ現象として「橋」と「箸」、「型」と「肩」もピッチで区別されないと説明されている。

文脈で分かるので日常生活では困らない。困らないから、自分が区別していないことに自分では気づけない。

これは「方言」ではなく「アクセントの型」の話

ここが大事なところだと思う。これは方言の単語を知っているかどうかとは、まったく別の話だ。

「ぞんじ」や「がざまつ」のような方言の語彙は、覚えれば使えるし、使わなければ出ない。

世代や地区によって差も大きい。正直に書くと、自分は「ぞんじ」を日常会話で使った記憶がない。

でもアクセントは違う。単語を1つも方言にしなくても、標準語の語彙だけで話しても、抑揚の型そのものが出身地を語ってしまう。だから「イントネーションないよね」と言われる。

方言を使ったから気づかれるのではなく、方言を使っていなくても気づかれるのがアクセントだ。

言語学では、こういう体系を「無アクセント」と呼ぶ。定義は「語あるいは文節ごとに一定したピッチ特徴が観察されない体系」

別名も多く、平板一型アクセント、無型アクセント、崩壊アクセントとも呼ばれる。

「アクセントが下手」でも「なまっている」でもなく、型による区別を持たないという、一つの完成した体系だという点は押さえておきたい。

愛媛県には4種類のアクセントがあり、大洲だけが違う

調べていて一番驚いたのがここだった。愛媛県は、県内でアクセントが4つに分かれている。

  • 東予地方(新居浜・西条など): 讃岐式アクセント。香川県や徳島県北西部と同じ
  • 中予(松山など): 京阪式アクセント。徳島県東部や高知県中部・東部と同じ
  • 南予(宇和島など): 内輪東京式アクセント。高知県西部と同じ
  • 大洲市から鬼北町、高知県檮原町にかけて: 型の区別がない一型式

つまり大洲は、愛媛県の中で唯一「型を持たない」地域ということになる。

しかも周りを見ると、北は京阪式の松山、南は内輪東京式の南予。抑揚のはっきりした地域に、上下から挟まれている。

これで「言われる理由」がきれいに説明できる。京阪式は日本の中でもとくに音の上下が大きいアクセントだ。

その松山の人が大洲の話し方を聞けば、平坦に感じるのは当たり前になる。

逆に言えば、大洲の人が「自分は普通に話している」と思うのも当たり前だ。

「イントネーションがない」と言うのは、たいてい松山か他県の人であって、大洲の人同士では絶対に出てこない指摘だというのが、この分布から見える。

全国の無アクセント地域は、飛び石のように散らばっている

では、大洲だけが特殊なのか。そうではない。むしろ全国のあちこちに、同じ体系の地域が点在している。

  • 東日本: 宮城県中部・南部、山形県内陸部中南部、福島県、栃木県、茨城県、千葉県野田市付近
  • 中部: 静岡県大井川上流域、石川県能登半島、福井県嶺北地方
  • 西日本: 愛媛県大洲市から高知県山間部、長崎県北部・五島列島、佐賀県北部、福岡県筑後地方、熊本県北部・東部、宮崎県ほぼ全域
  • そのほか八丈語(八丈町、青ヶ島村、沖縄県大東諸島)

並べてみると面白い。茨城・栃木・福島宮崎大洲が、同じ仲間になる。

地理的にはまったくつながっていない。関東北部の話し方が平坦だと言われるのと、大洲が平坦だと言われるのは、言語学的には同じ現象だということになる。

西日本の中では、愛媛県大洲市から高知県山間部にかけての一帯が、まとまった分布域の一つとして知られている。

ただし「無アクセント」で決着はついていない

正直に書いておくと、大洲のアクセントをどう分類するかは、研究者の間でも意見が割れている。

愛媛県が編纂した『愛媛県史 民俗 下』には、大洲市とその周辺地域のアクセントについて「一型(無アクセント)」という指摘がある。

一方で、大洲市付近は文節の最初を高く発音する傾向があることから、完全な無アクセントではなく「頭高一型アクセント」と見るべきだという説もある。

方言学者の宮岡大氏による大洲方言の整理でも、この2つの見方が並記されている。

用語の使い分けとしては、平板一型を「無アクセント」、尾高一型を「一型アクセント」と区別することが多い。

決定的な違いとして挙げられるのは、一型アクセントの話者にはアクセントの型の知覚があるが、無アクセントの話者は型を意識していないという点だ。

自分の実感で言えば、「雨」と「飴」を言い分けようとしても差が作れないので、後者に近い気がする。ただしこれは感想であって、根拠にはならない。

語彙の話も、少しだけ

せっかくなので単語のほうにも触れておく。ただし主役はあくまで上の話だ。

広報おおずの方言特集では、「ぞんじ」(かなり、たくさん)「ぞぶる」(川や海でひざ下くらいまで水に浸かって遊ぶ。長浜地区の言葉)、「がざまつ」(落ち着きのない子ども)、「やけん」(~だから)などが紹介されている。

「ぞぶる」は「大洲クラフトコーラ ぞぶる」という商品名にも採用されていて、愛媛県の方言ランキングでも上位に入るくらいには知られている。

個人的にいちばん記憶に残っているのは、小学生のときに知った「カメムシをジャッキーと呼ぶ」という言い方だ。

これを調べてみたら、思わぬところにつながった。愛媛県の方言では、カメムシを「じゃくじ」と言う。

県内の方言ランキングでも上位に入る、そこそこ有名な言葉らしい。

「ジャッキー」という表記そのものは資料で確認できなかったが、「じゃくじ」が子どもの口から口へ伝わるうちに「ジャッキー」に転がったと考えると、音としてはごく自然だ。

断定はできない。ただ、この記事のテーマがまさに「音の話」なので、これ以上ふさわしい例もないと思う。

方言集めというと「知らない単語を知る」楽しさに目が行きがちだ。

でも一番大洲らしさが出ているのは、単語を1つも方言にしていないときの、この抑揚のなさのほうだった。

愛媛の中で大洲だけが型を持たない。気づかないうちに、いちばん強く出身地を語っているのは、たぶん「雨」と「飴」の言い方だ。