大洲の視点 ・ 出典: 大洲市議会会議録/総務省 電波利用ポータル「無線局等情報検索」(情報源日付: 2025-12-16) ・ 約8分で読める
去年できたばかりのトンネルの中、じつは圏外なんよ。
市議会も全会一致で国に意見を出してる。
大洲には、災害のとき孤立するかもしれない集落が97あるの。
3行でいうと調べた資料 9本
大洲でスマホがつながりにくいのは、どこか。
そして、基地局はどこに建っているのか。
この2つを調べてみたら、答えの見つかり方がまるで違った。つながらない場所は、公式の記録にはっきり残っていた。基地局の場所は、どこにも書かれていなかった。順に見ていく。
令和7年12月の大洲市議会に、1件の陳情が出ている。陳情第1号「愛の森トンネル」及び「敷水トンネル」の通信環境整備に関する陳情書だ。
総務企画委員長の報告によれば、陳情の趣旨はこうである。令和7年7月25日に供用開始されている両トンネルにおいて、スマートフォンなどの一般通信機器が圏外となり、緊急時の通報や対応が困難であることを懸念している。非常電話は設置されているものの、通信環境の多様化は人命救助や二次被害防止に重要である——だから愛媛県と関係機関に意見書を出してほしい、と。
この2本のトンネルは、山鳥坂ダムの建設にともなう付替道路(県道小田河辺大洲線)の一部で、大洲市肱川町にある。愛の森トンネルが約2,128m、敷水トンネルが約832m。ダム工事で沈む道の代わりに造られた、まだ真新しい道路だ。
委員会での議論も記録されている。委員からは「夜間は交通量が少なく、事故や火災発生時の発見、対応が遅れるおそれがある」「積雪や凍結時は事故発生のリスクが高く、トンネル内で事故が発生した場合などに携帯電話が使えないと現場との連絡が困難となる」といった意見が相次いだ。「特に、山間部のトンネルでは、通信環境の整備が住民の安心感にも直結する」という声もあった。
なかでも印象に残ったのは、次の一言だ。「本来であれば市全体にあるトンネルの通信状況を把握した上で論議すべき課題であるが、地域の切実な要望を踏まえると、今回の陳情は採択すべきである」。裏を返せば、市内のトンネルがどこも通じるのかどうか、まとめて調べられてはいないということになる。
陳情は全会一致で採択された。同じ12月定例会の最終日には、委員会提出第1号議案「愛の森トンネル及び敷水トンネル内の通信環境整備に関する意見書の提出について」も上程され、起立全員で可決されている。
つまり、2026年現在いちばん確実に「大洲市内で圏外になる」と公式に記録されている場所は、できたばかりの新しいトンネルの中である。
同じ令和7年12月定例会で、災害時の孤立集落について質問が出た。市長の答弁に、はっきりした数字がある。
孤立集落とは「中山間地域や沿岸地域などの集落において、土砂災害等の要因により、道路交通及び海上交通による外部からのアクセスが途絶え、人の移動や物資の流通が困難もしくは不可能な状態」と定義される。そのうえで市長はこう述べた。「本市におきましてもその多くは山間部に位置しておりますけれども、孤立する可能性のある集落、97集落ございます」。
質問した議員は、前提としてこう指摘している。「我が市においても7割以上が中山間地域であります」「山間地域は、積雪による倒木で道路や電線の寸断など、携帯電話も使用できず、孤立状態が長期化いたします」。
これに対して市が用意しているものも、答弁で具体的に語られている。孤立集落における通信手段の確保について、市長はこう答えた。「通常の固定電話回線や携帯電話通信網が使用できない場合に備えまして、山間部などのコミュニティセンターや支所に衛星携帯電話を16台配備し、現地との連絡手段として活用することとしておりまして、年1回通信訓練を行っているところであります」。
通信以外の備えも並んでいる。能登半島地震で孤立集落への物資輸送が難航した教訓から、令和6年度にパンやビスケットなどの食料と飲料水を倍増させ3万食・3万リットルの備蓄に。空からの支援として、平成30年度に上須戒地区と戒川地区、令和2年度に今坊地区へヘリポートを整備。令和5年8月には民間ヘリコプターを活用するための包括連携協定も結んでいる。
議員が提案した衛星インターネット「スターリンク」について、市長は「有効な通信手段の一つであると考えています」「かねてより検討をさせていただいておりますが、現在整備しております衛星携帯電話と有用性、そしてコスト面などを比較しながら、今後も引き続き検討してまいりたい」と答えている。導入は決まっていない、というのが2026年3月時点の到達点だ。
ここで全国の数字を見ると、話が見えやすくなる。
総務省が公表している「携帯電話を利用できない不感地域の状況について」(令和6年度末現在)によれば、携帯電話のサービスエリアの居住人口の割合、いわゆる人口カバー率は99.99%。ほぼ全員がエリア内、ということになる。
ところが同じ資料は、こうも書いている。エリア外の居住人口は全国で約0.56万人。そしてエリア外集落は526箇所。しかも「居住人口10人以下の集落が全体の75.1%」だ。
ここに答えがある。人口カバー率という指標では、人が少ない場所はほとんど数に効かない。10人の集落が丸ごと圏外でも、1億2千万人の分母のなかでは0.00001%にもならない。だから「99.99%」と「山に入ると圏外になる」は矛盾せず、同時に成立する。
さらにこの資料には、少し重い区分がある。エリア外人口約0.56万人のうち、「エリア化を要望しない地域」を除くと約0.54万人、エリア外集落526箇所のうち「エリア化を要望しない集落」を除くと477箇所——という書き方だ。つまり、基地局を建ててほしいと望まなかった集落が、全国に49ある。景観や健康不安、あるいは高齢化で必要性を感じないなど理由はさまざまだろうが、統計の上ではそう分類されている。
結論から書く。携帯電話の基地局の正確な住所は、公開されていない。
実際に総務省の「電波利用ポータル」にある無線局等情報検索で確かめた。ここは免許を受けた無線局を誰でも検索できるデータベースで、「携帯電話等基地局(800MHz帯)」という条件も選べる。愛媛県で検索してみると、出てくるのはたった4件だった。
少なすぎる。理由は、詳細画面を開くと分かった。1件目の見出しは「包括免許人の氏名又は名称」となっており、「無線設備の設置場所とすることができる区域」の欄にはこう書かれている——「四国総合通信局管内」。
つまり携帯電話の基地局は1本ずつ免許を取るのではなく、「包括免許」として四国全体を1枚でカバーしている。だから鉄塔1本ごとのレコードは、このデータベースには存在しない。700MHzから2.5GHzまで6つの周波数帯を調べたが、愛媛県で見つかった携帯電話等基地局の免許はすべて包括免許で、個別免許は1件もなかった。
ただし、まったく分からないわけではない。詳細画面には市区町村ごとの局数の内訳が載っている。そこで6帯域ぶんの免許を重複を除いて数え直し、大洲市の行だけを拾ってみた。結果がこれである。
| 事業者 | 大洲市 | 愛媛県 |
|---|---|---|
| KDDI(au) | 53局 | 923局 |
| 楽天モバイル | 52局 | 936局 |
| NTTドコモ | 48局 | 873局 |
| ソフトバンク | 32局 | 718局 |
| Wireless City Planning | 9局 | 733局 |
| UQコミュニケーションズ | 7局 | 314局 |
| 合計 | 201局 | 4,497局 |
700MHz・800MHz・1.5GHz・1.7GHz・2GHz・2.5GHz帯の包括免許を、免許番号で重複を除いて集計したもの。件数が多すぎる3.4GHz帯・3.5GHz帯(5G向け)は含んでいない
意外だったのは楽天モバイルが52局で、ドコモの48局を上回っていたことだ。後発だから大洲は手薄だろう、という予想は外れた。ただしこれは1.7GHz帯だけの数字で、届きやすさは周波数によって違うから、局数がそのまま「つながりやすさ」の順位になるわけではない。
もう一つ。大洲市の201局は、愛媛県4,497局の4.5%にあたる。大洲市の人口は約4万人で、これは県の人口の3%ほどだ。単純計算にすぎないが、人口の割には基地局が多いことになる。山と谷で電波が遮られる土地では、同じ人数をカバーするのにより多くの局が要る——という事情の裏返しだろう。
基地局の場所は分からなくても、「自分の家が各社のエリアに入っているか」は公式に確認できる。各社がサービスエリアマップを公開していて、住所を入れれば色分けで表示される。
NTTドコモはdocomo.ne.jp/area/、auはau.com/mobile/area/、ソフトバンクはsoftbank.jp/mobile/network/area/、楽天モバイルはnetwork.mobile.rakuten.co.jp/area/。いずれも無料で、契約していなくても見られる。
見るときのコツが1つある。4Gと5Gを切り替えて見比べることだ。山あいでは5Gが白く抜けていても4Gは塗られている、ということがよくある。ふだんの通話とLINEなら4Gで足りるので、5Gの色だけを見て「圏外だ」と判断しないほうがいい。
それでも実際に行ってみないと分からない部分は残る。エリアマップはあくまで計算上の予測で、家の向きや、目の前に山があるかどうかまでは反映されないからだ。
いちばん引っかかったのは、「本来であれば市全体にあるトンネルの通信状況を把握した上で論議すべき課題である」という委員の一言だった。
大洲市には、山を抜けるトンネルがいくつもある。そのどこが通じてどこが通じないのかは、誰もまとめて把握していない。今回意見書が出たのは、地元の人が「困る」と言って陳情を出したからである。言わなければ、たぶん何も動かなかった。
人口カバー率99.99%という数字は正しい。正しいけれど、その0.01%のなかに97の集落と、何本かのトンネルがある。統計に映らない場所を可視化する方法は、いまのところ「住んでいる人が声を上げること」しかない——というのが、調べ終えていちばん実感したことだった。
この記事をサイトに掲載した日: 2026年8月24日