大洲の視点 ・ 出典: 一般社団法人キタ・マネジメント「令和7年度実績報告」(情報源日付: 2026/06頃) ・ 約8分で読める
大洲に泊まる外国人、2年で5倍近くに増えたんよ。
でも全体の宿泊数は目標に届いてないの。宿の人手が足りなくて部屋を開けられないから。
住民の満足度だけが下がってる。
3行でいうと調べた資料 7本
大洲市の観光地域づくり法人「キタ・マネジメント」が公開している令和7年度実績報告を読んだ。
数字を3年分並べて比較できる資料になっていて、伸びているところ・伸び悩んでいるところがはっきり見える内容だった。
まず宿泊者数の推移。
全体の宿泊者数はほぼ横ばいだが、インバウンドだけを見ると2年で約4.8倍。
訪日外国人の来訪が観光全体を下支えしている構図がはっきり出ている。
観光消費額も24.0億円→33.3億円→33.8億円と令和6年度に大きく伸び、その水準を維持している。
ここでいう観光消費額は、市全体の数字だ。市の戦略会議資料には「歴史的建造物の活用」という区分の観光消費額として3億4,600万円(令和5年度)という別の数字も載っているが、あちらは古民家再生事業に紐づく分だけを数えたもので、範囲がちがう。
実は市はこの年、宿泊者数14万人という目標を掲げていた。実績の118,013人は、その84%にとどまり、目標には届かなかった。
報告書によると、市内宿泊施設への聞き取りで「労働者確保が困難で、すべての部屋を運営できていない」ことが伸び悩みの主因として挙がったという。
一方でインバウンドは目標2,000人に対し実績5,263人、達成率にすると263%と大幅に上回っている。
人手不足で客室の稼働そのものが頭打ちになる中、インバウンド需要だけが目標を置き去りにするほど伸びている、というのが実態のようだ。
14万人という数字は高すぎないか。気になったので、目標そのものの出どころをたどった。
根拠は第2期大洲市観光まちづくり戦略ビジョンにあった。重要目標達成指標(KGI)として、こう書かれている。
| 区分 | 計画年 2023 | 1年目 2024 | 2年目 2025 | 3年目 2026 |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 115,740 | 140,000 | 150,000 | 160,000 |
| インバウンド | 1,100 | 2,000 | 3,000 | 4,000 |
つまり14万人は、基準の115,740人から1年で約21パーセント増やすという設定である。3年目には16万人まで積み上げる形になっている。低い目標ではない。
この目標の立て方を理解するには、ひとつ前の計画を見る必要がある。
第1期戦略ビジョンは平成31年から令和5年までの5年間。そこでもインバウンド宿泊者数が指標になっていた。達成状況がそのまま載っている。
| 年 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 計画数 | 600 | 700 | 1,000 | 2,000 | 3,000 | 4,000 |
| 実数 | 628 | 976 | 101 | 47 | 158 | 1,100 |
| 達成率 | 104% | 139% | 10% | 2% | 5% | 27.5% |
コロナ前は、目標を超えていた。2018年は104パーセント、2019年は139パーセント。順調だった。
そして2021年の実数は47人。達成率2パーセントである。ビジョン自身も「令和2年に世界的な新型コロナウイルス感染拡大に伴う入国規制が実施されたことから」と書いている。
5年目の2023年でようやく1,100人まで戻したが、それでも計画の4,000人に対して27.5パーセント。第1期は、5年のうち4年をコロナに持っていかれた計画だった。
そう見ると、第2期の目標の性格が変わって見える。あれは「伸ばす」目標ではなく、「失った4年を取り返す」目標だったのではないか。基準にした2023年の115,740人自体が、コロナから戻りきっていない年の数字である。
そして令和7年度、インバウンドは5,263人まで来た。第1期が5年かけて届かなかった4,000人を、第2期の実質2年で超えている。置き去りにされたのは目標のほうだったということになる。
いっぽう全体の宿泊者数のほうは、人手不足で客室を開けられないという別の壁に当たっている。外から来る人は戻った。迎える側が戻っていない。数字の形は、そう読める。
情報発信の面でも急激な伸びがあった。
特にメディア露出換算額は令和7年度だけで前年の約2.7倍に伸びていて、Japan Travel・ Japan Guideといった訪日外国人向けサイトへの記事掲載など、海外メディア戦略が本格化してきたことが うかがえる。
一方で、少し気になる数字もあった。住民満足度は88.2%(令和5年度)→93.0%(令和6年度)→88.4%(令和7年度)と、令和6年度をピークに約5ポイント下がっている。
観光客・情報発信の数字がいずれも伸びている中で、住民側の満足度だけがやや後退しているのは、観光地化のスピードに対して地元側の受け止め方が追いついていない部分があるのかもしれない。
資料の中では、二次交通(タクシー等)の調査で「大洲市内に交通空白時間帯が存在する」ことが確認されたとの記述もあった。
観光客が増える一方で、地域の移動手段の課題も同時に見えてきているということなんだと思う。
観光の数字は順調に伸びているように見えるが、「住民満足度」という指標が入っていることで、 伸びの裏側にある課題まで一緒に公表しているのは、この手の実績報告としては誠実な姿勢だと感じた。
インバウンド宿泊者が2年で約4.8倍になった。 では、どこの国から来ているのか。実績報告には内訳が無かったので、市議会を調べた。
令和6年12月の定例会に、答えの手がかりがあった。副市長の答弁である。
その効果といたしましては、今年4月から10月までに大洲城へ約2,700人、盤泉荘へ約2,000人の方が韓国から来訪されておりまして、このほとんどが割引券を利用されております
大洲市議会 令和6年12月定例会(4日目)会議録 徳永善彦副市長
7か月で、韓国からだけで大洲城に約2,700人、盤泉荘に約2,000人。 これは宿泊者ではなく施設の入館者なので、この記事の宿泊者数とは別の数え方である。 それでも韓国からの来訪がかなりの規模で起きていることは分かる。
理由も述べられていた。飛行機とゴルフである。
| 松山空港の国際直航便 | 便数 |
|---|---|
| 韓国・ソウル | 毎日、週14便 |
| 韓国・釜山 | 週6便 |
| 台湾・台北 | 週3便 |
韓国だけで週20便、台北の3便の6倍以上である(この比較は便数から自分で出した)。 そして愛媛県によれば、その年の1月から10月に県内のゴルフ場を訪れた外国人が約1万8,000人、 そのうち約1割が大洲へ来ていて、ほとんどが韓国からだという。
約1,800人。この記事のインバウンド宿泊者5,263人と並べると、 ゴルフ客だけでその3分の1にあたる規模になる (数え方も期間も違うので、そのまま比べられる数字ではない。念のため書いておく)。
ここで、少し食い違うものが見えてくる。
令和6年12月の別の定例会で、市の環境商工部長は誘客のターゲットをこう述べていた。 キタ・マネジメントと連携して欧米豪、香港、台湾の旅行会社や旅行代理店に プロモーションと商談を行っている、と。
同じ議会で市長も、交流人口について 「特に欧米豪をターゲットに、あるいは香港、台湾というようなところをターゲットにしております」 と述べている。
| 相手 | |
|---|---|
| 市が狙っている | 欧米豪、香港、台湾 |
| 実際に大きく来ている | 韓国(ゴルフ客+週20便) |
韓国は、狙っているリストに入っていない。 それでも、割引券の実績としては最も大きな数字が出ている。
これは矛盾ではないと思う。 韓国は「すでに来ている人をどう回すか」の話で、 欧米豪や台湾は「これから泊まってもらう人をどう連れてくるか」の話である。 前者は割引券、後者は旅行代理店への商談。手段も違う。
この記事で見た「インバウンド宿泊者が2年で4.8倍」という伸びは、 たぶん後者の成果にあたる。 泊まる客を増やすことが目的だと市が言っていることは、 別の答弁でもはっきりしていた。 「特に宿泊客を誘客することによって滞在期間の延長及び観光消費額の増加を図る」。
この記事で、全体の宿泊者数が目標の84%止まりで、 主因が宿の人手不足だと書いた。 その人手不足は、市全体の話としても語られている。
市長は令和8年6月の定例会で、既存の観光施設について 「これまでに実施した施設の経営診断結果や利用の状況、施設の老朽度、地域のニーズ等を踏まえ、 優先順位を定めて再整備を含めた維持管理方法を検討してまいります」と述べていた。
増やす話ではなく、選ぶ話になっている。 特に温泉・宿泊施設や交流拠点施設については、 滞在時間の延長と観光消費額の増加に向けた魅力向上策を関係者と協議中だという。
この記事でいちばん引っかかったのは住民満足度だけが約5ポイント下がったことだった。 韓国からゴルフに来る人がいて、欧米豪に商談をかけていて、 それでも宿の人手が足りずに部屋を開けられない。 その全部が、住んでいる人の目には「観光客が増えた」としか見えない。 5ポイントの正体は、たぶんそのあたりにある。
この記事をサイトに掲載した日: 2026/08/08