大洲の視点 ・ 出典: 経済産業省「関係者から指摘された書店活性化のための課題」・JPO書店マスタ管理センターほか(情報源日付: 2025-01-28) ・ 約11分で読める
大洲に本屋さんは何軒あると思う?
新刊が並んどる店で数えたら1軒、学校に納める店と古本屋を入れたら3軒。
数え方を決めんと、答えが決まらんかったんよ。
3行でいうと調べた資料 16本
大洲市に書店は何軒あるか。
数えはじめて最初に分かったのは、この問いには答えが1つではないということだった。
新刊を平積みにしている店。学校や病院にだけ本を納める店。古本を買い取って売る店。雑誌だけを何冊か置いているコンビニ。全部「本を売っている場所」ではある。どこで線を引くかで、答えは1軒にも3軒にもなる。
だから先に、数え方を4通り決めた。そのうえで、営業していることを店の公式サイトで確認できた店だけを数えた。地図アプリや電話帳サイトには、もう無い店がそのまま残っていることがある。実際、この記事を書く途中でそれに引っかかった。その話はこのあとすぐ出てくる。
いちばん狭い数え方から始める。「ふらっと入って、棚を見て、新刊を買って帰れる店」だ。全国の統計が「書店数」と呼んでいるのも、この形の店である。あとで詳しく書くが、業界の台帳では書店区分11「書店店舗」という札が付く。
この定義で、2026年9月5日時点の大洲市内は1軒だった。
明屋書店 大洲店である。公式サイトの店舗一覧に、愛媛県大洲市東大洲661-2、営業時間10時から22時と載っている。同じ一覧を数えると明屋書店は愛媛県内に17店あり、そのうち大洲市にあるのはこの1店だけだ。
数えるにあたって困ったのは、「無い」ことの確かめ方だった。
大洲市には長く宮脇書店 大洲店があった。2009年3月の市議会でも、建設農林部長が市道の位置を説明するときに「国道56号の宮脇書店入り口から」と言っている。道の説明に使えるほど、誰でも知っている目印だったということだ。
ところが2026年9月5日に宮脇書店の公式サイトを開くと、愛媛県の店舗一覧には12店が並んでいて、そこに大洲市の店は入っていない。松山市3店、今治市3店、西条市2店、新居浜市・宇和島市・八幡浜市・砥部町に各1店。大洲は無い。
いっぽうで、地図サービスや店舗情報サイトを検索すると、宮脇書店大洲店の住所も電話番号も営業時間も、いまも出てくる。閉店したことを書いていないページのほうが多い。
閉店がいつだったのかは、公式の発表を見つけられなかった。だからこの記事では「いつ閉店した」とは書かない。書けるのは、2026年9月5日現在、宮脇書店の公式店舗一覧に大洲市の店は載っていない、という事実だけである。
次に線を1つ外す。「店頭でなくてもいい。本を売ることを商売にしている事業所」まで広げる。
すると篠崎書店が入る。有限会社篠崎書店、本部事務所は大洲市東大洲406番地の篠崎ビル2階。公式サイトを持っていて、そこにこう書いてある。「愛媛県、南予地域の学校・病院・企業様に書籍・雑誌・専門書の販売を行っています」。小中高への教科書テキスト、図書室の本の購入、進路指導書、選書会。病院には医学書と専門書を定期配達する。企業には研修資料を届け、社内の書籍売店の運営も請け負う。
これは外商と呼ばれる商売だ。店頭に客を待つのではなく、本のほうが学校や病院へ出ていく。公式サイトが告知している営業時間は月曜から金曜の9時から17時で、土日祝は定休である。ふらっと立ち寄って漫画を買う場所ではないが、大洲の子どもが教室で開いている教科書が、この会社を通っている可能性は高い。篠崎ビルの1階では系列のトレーディングカード専門店「CARD BOX大洲店」とパソコン教室も動いている。
ここまでで2軒。
3つめの線は古本だ。BOOKOFF 愛媛大洲店が大洲市若宮558-1にある。ブックオフの公式サイトに、営業時間10時から20時、駐車場70台と載っている。新古書店なので新刊は基本的に扱わないが、「本を売っている店」であることに変わりはない。
これを入れて3軒。
4つめは、コンビニやスーパーの雑誌棚まで入れる数え方だ。
この線を引いた瞬間、数えるのをあきらめた。市内のコンビニ全店を1軒ずつ確認する手立てがなく、しかも雑誌の取り扱いを公式に明示している店はほとんどない。ドラッグストアやホームセンターのレジ横も同じである。
ただ、この線が無意味なわけではない。経済産業省の資料は、コンビニに書店を併設する「LAWSON マチの本屋さん」を参考事例として1ページ割いて紹介している。ローソンは2014年から書店併設店を始め、2021年からは取次大手の日本出版販売と組んで「書店空白地」を中心に広げてきた。書店だけでは経営が成立しなくてもコンビニと併設すれば収益の柱が立つこと、書店があることで通常のコンビニより広い商圏から客が来ること。この2点が利点として挙げられている。実際、書籍・雑誌の合計売上が全国のローソン平均の約20倍になる店舗もあるという。
ただし資料の時点で全国合計30店にとどまる。2024年4月には、書店がない自治体である富山県中新川郡立山町の役場と連携した出店もあった。コンビニの雑誌棚を「書店」と数えるかは趣味の問題だが、コンビニを書店にしてしまう動きのほうは、すでに現実に走っている。
数えられなかったことは、そのまま書いておく。4通りのうち3通りまでは数えられて、4通りめは数えられなかった。
大洲の1軒という数字が多いのか少ないのか。全国の物差しを当ててみる。
書店の数を年度ごとに数えているのは、一般社団法人日本出版インフラセンター(JPO)の書店マスタ管理センターだ。ここが公開している「年度別 書店数推移」に、1994年度からの数字が並んでいる。
この表の注記に、数え方がはっきり書いてある。「書店店舗(書店区分:11 ※海外店、スタンド、売店、複合店含む)として登録されているものを集計」。つまり報道で「全国の書店数」と言われる数字は、業界の共有台帳で区分11の札が付いた店だけを足したものだ。
同じセンターの「登録軒数表」を見ると、この札が全部で5種類あることが分かる。2026年8月18日時点で、11「書店店舗」9,928件、12「外商・営業所」945件、13「本部・事務所」514件、14「ネット店」114件、「その他」990件。合計1万2,491件が台帳に載っている。「その他」にはコンビニエンスストアや出版社、取次の登録が入る。
この記事の前半で、店頭・外商・古本・コンビニと線を引き直したのは、思いつきではない。業界の台帳が最初からそう分けている。 全国の書店数として報じられる9,928という数字は、外商だけで営業している945件を含んでいない。大洲市で篠崎書店を数に入れるかどうかで迷った、あの迷いと同じものが、全国の集計にも組み込まれている。
書店店舗の数に戻る。1994年度は2万1,154店。そこから増え続けて、1998年度の2万4,237店がピークだった。あとはひたすら減る。2003年度2万880店、2013年度1万5,602店、2023年度1万918店。そして2025年度は9,993店で、集計開始以来はじめて1万店を割った。
ピークからの減り方を計算すると、2万4,237店から9,993店で58.8パーセント減。1998年度から2025年度までの27年で、およそ6割が消えたことになる。この割り算は自分でやった。集計が始まった1994年度と比べる場合は31年で52.8パーセント減で、こちらは5割強になる。どちらの年を起点に取るかで印象が変わるので、両方書いておく。
途中の年も見ておく。2020年度1万2,343店、2021年度1万1,952店、2022年度1万1,495店、2024年度1万417店。ここから年ごとの減り幅を引き算すると、391店、457店、577店、501店、424店。一気に落ちた年があるのではなく、毎年同じくらいずつ削られている。
減少は止まっていない。さきほどの「登録軒数表」によれば、書店店舗の数は2025年8月19日時点の1万250件から、2026年8月18日時点の9,928件へ減った。前年比96.9パーセントである。同じ1年間の閉店は530軒だった。
この表にも、ちゃんと但し書きが付いている。「『登録軒数』=新規開店軒数ではありません」「『閉店軒数』には、閉店日不明のものなどは含まれておりません」。数える側も、自分の数字が何を数えていて何を数えていないかを、わざわざ書き添えている。
背景の数字も政府の資料に載っている。経済産業省の資料によれば、紙の出版物の売上は1996年の約2.7兆円から2022年には約1.1兆円まで落ちた。約6割の減少だ。いっぽうネット書店の売上は2013年の約1,600億円から2022年度に約2,900億円へ伸び、本の購入額に占める割合は8.1パーセントから20.5パーセントになった。本が売れなくなったというより、本を買う場所が入れ替わった、というほうが数字には近い。
では「1軒もない自治体」はどれくらいあるのか。出版文化産業振興財団(JPIC)が2024年9月18日に発表した集計で、2024年8月末時点の無書店自治体は全国の27.9パーセント、書店が1軒以下の自治体は47.7パーセントだった。
この数字はよく引用されるが、孫引きせずに一次資料に当たると、少しややこしいことが分かる。
経済産業省が2025年1月28日に公表した「関係者から指摘された書店活性化のための課題」は、同じJPICの調べとして「書店がない市町村は全体の約27.7%」「書店がないか、1軒しかない市町村は約47.4%」と書いている。JPICの発表とは0.2ポイントほど違う。
さらに、この経産省の資料の巻末には、2024年8月時点の都道府県別の表が付いている。全国自治体1,747(市区町村1,724+特別区23)が分母で、都道府県ごとの無書店自治体の数が並ぶ。この47都道府県の数を自分で足すと486自治体になり、1,747で割ると27.8パーセントだった。
27.7、27.8、27.9。国の資料の本文と巻末の表と、財団の発表とで、答えが微妙に違う。 どれかが間違っているというより、集計した時点と丸め方が違うのだと思う。数え方を決めないと数は決まらない、と冒頭に書いた。それは大洲という市の中だけの話ではなかった。全国の数字でも同じことが起きている。
愛媛県の行も見ておく。無書店自治体は3、無書店率15.0パーセント、1書店以下率35.0パーセント。愛媛県は11市9町の20市町なので、3つの市町には書店が1軒もなく、7つの市町は1軒以下という計算になる(15.0%×20=3、35.0%×20=7)。ただしこれは2024年8月時点の表で、その後に宮脇書店の店舗一覧から大洲市の店が消えている。いま同じ集計をすれば、絵は少し変わっているはずだ。
なお国が書店を政策の対象としてはっきり扱いはじめたのは、そう古い話ではない。経済産業省が書店振興プロジェクトチームを立ち上げたのは2024年3月である。資料の「課題整理の趣旨」にはこう書かれている。「書店は文化の発信拠点であり、多様な考え方を維持し、国力にも影響を与えうる、きわめて重要な社会の資産である」。
大洲の側の動きも記録しておく。
2026年9月の大洲市議会第4回定例会の一般質問通告書に、「大洲市立図書館について」という項目があり、その中の3つめが「市内書店との連携について」だった。市議会が市内の書店を名指しで話題にしている、ということだ。
図書館の側の数字は、このサイトで別に調べたことがある。大洲市民が1年間に図書館から借りる本は1人あたり3.3冊で、愛媛県内11市のうち10番目だった。本も館も足りていないわけではないのに、借りられる数は少ない。店頭のある新刊書店が市内に1軒という状況で、その図書館が書店とどう関わるのかが問われている。
古い会議録をたどると、書店が街の風景の一部だったことがよく分かる。2009年3月の「国道56号の宮脇書店入り口から」もそうだし、2018年3月の定例会では、東若宮付近の踏切を「明屋書店前の踏切」と呼んで通学路の安全が議論されている。住所ではなく書店の名前で場所が通じる。それだけの数と存在感があった。
市が本を「売る側」に立ったこともある。2013年3月の定例会では、西予市・内子町との連携で作った観光冊子を全国の書店で展開する話が出ているし、2019年3月には大洲城のガイドブックを県内と近県の主要書店で販売すると市長が報告している。市にとって書店は、支える対象である前に、情報を届けるための流通網だった。
いちばん手間がかかったのは、店を見つけることではなかった。その店がいまも開いていると証明することだった。
地図アプリにも電話帳サイトにも、大洲の書店は複数出てくる。営業時間まで書いてある。けれど公式サイトの店舗一覧を開くと、そこに載っていない店がある。どちらが正しいかを決める材料は、外から見ているかぎり公式一覧のほうしかない。
そして「無くなった」ことは、誰も発表しない。開店のときはニュースになるが、閉店は静かに起きて、地図サービスの上ではしばらく生き続ける。書店が1軒減ったことを、公式のかたちで確認できる場所は、その店が属するチェーンの店舗一覧しかなかった。
もう1つ、数えてみるまで知らなかったことがある。教科書や図書室の本を運んでいる書店が、店頭を持たずに市内で動いていたことだ。棚の前に立てる店だけを数えていたら、この会社は0軒に数えられていた。
そして、それは自分だけの見落としではなかった。全国の台帳でも「外商・営業所」の945件は「書店店舗」の9,928件と別枠になっている。「書店がない自治体」という言い方が指しているのは棚のある店のことで、本が届く経路そのものが消えたという意味ではない。 逆に言えば、棚が消えたことは、その言葉ではっきり数えられる。
大洲市の答えを、最後にもう一度書いておく。棚を見て新刊を買える店は1軒。外商を入れて2軒。古本を入れて3軒。雑誌を売る場所まで入れたら、数えられなかった。
同じ市を数えて、1軒とも3軒とも言える。数字を出すときに、どのものさしを使ったかを一緒に書かないといけない理由が、自分で数えてみてよく分かった。
この記事をサイトに掲載した日: 2026/09/05