大洲の視点 ・ 出典: 大洲市議会会議録/四国運輸局 自家用車活用事業許可事業者一覧/大洲市 公共交通機関(情報源日付: 2026-07-31) ・ 約15分で読める
大洲のタクシー会社、とうとう2社になったんよ。
長浜と肱川からは、もう消えたの。
ライドシェアの許可は出とるけど、担い手は内子町の会社なんだって。
3行でいうと調べた資料 29本
伊予大洲駅前に、タクシーが1台も待っていない。
そんな時間帯が、当たり前になった。
これは体感の話ではない。市議会の記録に、はっきり残っている。
「以前は、伊予大洲駅前で時間帯を問わず客待ちのタクシーを見かけないということはまずなかったんですが、ここ最近、明らかに客待ちタクシーの台数も減っております」
令和6年(2024年)9月の市議会。一般質問で、議員がそう切り出した。夜間を中心に、電話で配車を頼んでもすぐには対応できないケースが増えている、とも述べている。
同じ日の午後、別の議員も同じ問題を取り上げた。高齢者が午前中に病院へ行きたいのにタクシーが捕まらない。外国人観光客がタクシーを拾えずに困っている。そういう声だ。
1日のうちに、2人の議員が続けて同じことを聞いた。それくらいには深刻だった、ということだと思う。
そこで「日本版ライドシェア」の出番ではないのか、という話になる。
調べてみたら、答えは思っていたより複雑で、そして最後にひっくり返った。
市の答弁は具体的だった。
「既に長浜や肱川地域の事業所は廃止されており、今年に入って大洲地域の事業所の一部も廃止されております。現在の市内の一般タクシーは2業者となっている状況で、運輸局への登録台数とともに、運転手不足により実際の稼働台数も減少しているように見受けられます」
市内で一般のタクシーを走らせている会社は、2社しかない。しかも登録している台数より、実際に動かせている台数のほうが少ない。運転手がいないからだ。
議員側の発言では、長浜地区と肱川地区でタクシー業者が廃業したこと、宇和島ハイヤーが大洲市から撤退したことが挙げられている。
その宇和島ハイヤーは、大洲からの撤退では終わらなかった。愛媛新聞は2024年12月5日、同社が翌2025年1月15日で廃業すると報じている。理由は「人口減や高齢化で経営厳しく」。大洲営業所を引き上げた会社そのものが、その年のうちに無くなった。
会議録は社名を書いていない。そこで、公開されている資料を突き合わせた。
1社目は有限会社安全タクシー。本社営業所は大洲市東大洲992番地で、これとは別に大洲の中町にも営業所を持つ。市が公表している「障がい者タクシー利用助成券が使用できる会社一覧」を開くと、【一般タクシー】の欄に載っているのはこの1社だけだ。助成券は乗車1回500円分で年間24枚が交付される。つまり市の福祉の仕組みに正式に組み込まれている会社である。
2社目は肱南タクシー(有限会社肱南タクシー)。営業所は大洲市北只1503-1で、この住所は肱南グループの所在地でもある。同グループは松山空港のリムジンバスやハイヤー・タクシーを扱っていて、肱南タクシーはそのタクシー部門にあたる。同じ住所には「肱南無線協同配車協会」もあり、地図サービスで「大洲タクシー」の名前で案内される電話番号は、この配車協会の番号と同じだった。かつて別々だったタクシーが、いまは1つの窓口にまとまっているように見える。
違いを一言でいえば、安全タクシーはタクシー専業で市の助成券を扱う会社、肱南タクシーはバスもやるグループの一部門、ということになる。
では、どちらが大きいのか。正直に書くと、分からなかった。四国運輸局が公表している統計は県や交通圏の単位で、会社ごとの車両数や運転者数は載っていない。2社とも自社サイトに会社概要のページを置いていない。市の答弁が言う「運輸局への登録台数」も、数字そのものは会議録に出てこない。ここは、公表資料で確かめられる範囲を超えている。
分かったのは、消えた側の顔ぶれだ。長浜と肱川の事業者、宇和島ハイヤーの大洲営業所。市内に残ったのは大洲の中心部の2社で、周辺部にはもう会社がない。
これは大洲だけの現象ではない。国土交通省の統計を見ると、全国の法人タクシー運転者は平成16年度の381,943人をピークに、ずっと減り続けている。令和4年度は214,972人。ピークからおよそ44パーセント減った。コロナ禍の落ち込みはとくに急で、令和元年度の261,671人が令和3年度には221,849人になっている。2年で約4万人が消えた。
なぜそこまで減ったのか。給与の仕組みに理由がある。参議院の調査室がまとめた資料によれば、タクシー運転者の9割以上が歩合給の適用を受けていて、稼いだ運賃がそのまま収入になる。そのタクシーの輸送人員が、令和元年度の12億2,800万人から令和2年度の7億5,200万人へ、1年で4割近く落ちた。収入も同じだけ落ちた。年間所得が300万円を切る年が2年続き、人が辞めた。
年齢の問題も重い。同じ資料によれば、令和5年のタクシー運転者の平均年齢は59.7歳。全産業労働者の43.9歳より15.8歳も高い。40から44歳の層は、全体の1割にも満たない。
全国では、その後わずかに持ち直した。令和6年度の国土交通白書は「運賃改定により経営基盤が回復したこともあり、令和5年3月末に底を打ち増加傾向にある」と書いている。タクシー運転者の平均年間給与も、令和4年の361万円から令和6年の418万円に上がった。愛媛県でも令和7年12月19日から運賃が13.26パーセント引き上げられ、普通車の初乗りは1.0キロまで600円になっている。
ただ、大洲では持ち直していない。令和7年(2025年)9月の議会で、市はこう答えている。「タクシー事業者の新規確保は極めて難しいものと認識しております」
ここを整理しないと、話が噛み合わない。日本でライドシェアと呼ばれているものは、根拠の条文からして2つに分かれる。
1つが日本版ライドシェア(自家用車活用事業)。道路運送法第78条第3号にもとづく許可制で、令和6年(2024年)3月に創設された。実施主体はタクシー事業者だ。運転する人は第一種免許(普通免許)と所定の研修があればよく、二種免許は要らない。ただし運行管理も、車両の整備管理も、事故が起きたときの運送責任も、すべてタクシー会社が背負う。目的は「タクシーの輸送力供給の補完」だ。
もう1つが公共ライドシェア(自家用有償旅客運送)。道路運送法第78条第2号にもとづく登録制で、こちらは平成18年(2006年)からある古い制度だ。実施主体は市町村やNPO法人。目的は「交通空白地等における移動手段の確保」だ。令和5年12月に運用が大きく見直され、運賃の上限もタクシーの5割から8割に引き上げられた。
ざっくり言えば、前者は「タクシー会社がやる」、後者は「役所やNPOがやる」。
そして大洲市は、後者をとっくにやっている。
四国運輸局が公表している愛媛運輸支局の自家用有償旅客運送者登録簿(令和8年3月31日現在)に、大洲市の名前がある。登録年月日は平成19年9月28日。運送の種別は「交通空白地有償運送」。事務所は大洲市役所と河辺支所の2か所で、車両はセダン等7両とバス6両の合わせて13両。運送の区域には、平野町野田、菅田町、新谷、長浜町出海・櫛生、肱川町、河辺町など40を超える地名が並んでいる。
つまり、国が「公共ライドシェア」という呼び名をつける17年も前から、大洲は同じ制度で車を走らせていた。いま走っているデマンド型交通の一部が、それにあたる。
では、そのデマンド型交通とは具体的にどういうものか。市のホームページの「公共交通機関」の欄には、肱川・河辺地域、出海・櫛生、平野、大川・菅田、今坊、柳沢・新谷、久米、豊茂、上須戒・五郎、南久米と、10地区分の案内が並んでいる。
仕組みは地区ごとにほぼ共通だ。運行は週2日で、たとえば今坊地区は毎週月曜と木曜、上須戒・五郎地区は毎週月曜と水曜。乗るには事前の利用登録が要る。予約は利用日の7日前から前日の16時までに、大洲市デマンド交通予約センター(0893-23-9990、受付9時から16時)へ電話する。運賃は地区内150円、地区外300円で、小学生以下と障がいのある人はそれぞれ100円と200円だ。
市が議会で示している導入基準は「運行回数を週2日、1日最大2往復を最低限のサービス水準として保障」というものだ。つまり週に2日、その日に地区と町なかを2往復する便がある、という設計になる。乗りたいときに乗れる車ではなく、決まった曜日に予約して乗る車だ。
令和4年のアンケートでは、目的地を増やしてほしい、運行範囲を広げてほしい、予約なしで乗りたい、という要望が上位に並んだ。市の答えは「これらの要望への対応は困難な状況」だった。
そして、このデマンド型交通の一部を実際に走らせているのが、市内に残った既存のタクシー事業者である。市が令和7年3月の答弁で「本市の既存のタクシー事業者にはデマンド型交通の一部を担っていただいておりまして」と言っているのは、このことだ。
では、日本版ライドシェアのほうはどうなのか。
議会では令和6年9月と令和7年3月、少なくとも2回きちんと質問が出ている。市の答えははっきりしていた。
令和7年3月の答弁を、そのまま引く。
「その実施にはタクシー事業者による教育、運行管理、運送責任などが求められておりますが、本市の既存のタクシー事業者にはデマンド型交通の一部を担っていただいておりまして、新たな業務を担うことは難しい状況にありますし、新たな事業者の参入も見込めない現状を踏まえますと、現時点での導入は困難であるものと考えております」
理屈は通っている。日本版ライドシェアは、タクシー会社が運行管理を引き受けないと1台も走らない制度だ。担い手が市内に2社しかなく、その2社はすでにデマンド型交通の一部を担っている。新規参入も見込めない。だから、できない。
前年の令和6年9月には、別の懸念も示されていた。「タクシー運賃より低い額の料金設定が可能であるため、既存のタクシー事業者への影響も懸念される」。だから「導入に当たりましては慎重に慎重を期する必要がある」。残った2社の経営を細らせては本末転倒だ、という判断だ。
運転手を増やす手も打ってはいる。市内の公共交通事業所に運転手として就職する移住者には、家賃補助が出る。ただ令和7年9月の議会で、市はこう認めた。「ただ、実績がございません」。同じ質疑で、市内の介護タクシー(福祉タクシー)が11事業所・17台あることも明らかになっている。
一方、松山では動いていた。四国運輸局は令和6年10月4日、松山交通圏でタクシー会社8社に日本版ライドシェアを許可した。四国で初めてだった。金曜と土曜の16時台から翌5時台まで、不足車両数は46台。この数字は「当該営業区域内のタクシー車両数の5パーセント」を不足とみなして算出されている。
ここまでは、「大洲はまだこれから」という話に読める。
ところが、四国運輸局が公表している「自家用車活用事業許可事業者一覧」(令和8年7月31日現在)を開くと、愛媛県の欄に大洲交通圏という区分があり、そこに2社が載っていた。
令和7年4月7日に立川タクシー(本店営業所)、令和8年5月28日に池田タクシー株式会社(本社営業所)。
市が議会で「現時点での導入は困難」と答えたのが令和7年3月。大洲交通圏で最初の許可が下りたのは、その約1か月後の令和7年4月7日だった。
ただし、この2社はどちらも内子町の事業者だ。池田タクシーの本社は内子町五十崎、立川タクシーは内子町川中にある。大洲市内の2社ではない。
タクシーの営業区域は市町村ではなく「交通圏」の単位で決まる。内子町の事業者が「大洲交通圏」として許可されている以上、この区域は大洲市と内子町にまたがっている。制度の上では、大洲市内でも日本版ライドシェアの車が走れる状態になっているということだ。
許可は「この時間帯に、この台数まで」という枠で出る。一覧に載っている大洲交通圏の枠は、3つに分かれている。
大洲交通圏の日本版ライドシェアの許可枠(令和8年7月31日現在)
つまり、いちばん多い時間帯でも同時に動けるのは2台。しかもこれは「許可された上限」であって、実際に何台走っているかを示す数字ではない。実際に大洲市内でどれだけ走っているかは、この一覧からは分からなかった。伊予大洲駅前の客待ちの列が復活する、という規模ではない。
それでも、時間帯の設計は目を引く。「月から金の8時から10時、14時から17時」は、議会で挙がっていた「高齢者が午前中に病院へ行きたいのにタクシーが捕まらない」に重なる。「月から日の17時から23時」は、「夜間を中心に配車を頼んでもすぐ来ない」に重なる。都会の金曜夜の飲み会需要とは、明らかに別の設計になっている。
うまくいっている例はある。ただ、想像よりずっと小さい。
京都府京丹後市の丹後町では、NPO法人が運営する「ささえ合い交通」が平成28年(2016年)5月から走っている。配車にウーバーのアプリを使った日本初の公共交通として知られ、8年間無事故という実績もある。それでもドライバーは当初の18人から13人に減った。平均年齢63歳。75歳の年齢制限を超えた人から順に引退していく。利用回数は2022年度が約1,100回、2023年度が約1,400回。1日あたりにすると4回前後だ。行政からの運行経費の支援は受けていない。
兵庫県養父市の「やぶくる」も有名だ。国家戦略特区の規制緩和を使い、平成30年(2018年)5月に始まった。受付と点呼をタクシー会社が担い、LINEで健康状態とアルコールチェックを確認する仕組みで、運賃はタクシーの約50から80パーセント。エリアを広げた令和6年度、利用者は月68から100人まで伸びた。前年度のほぼ2倍だ。それでも登録ドライバーは8名、車両は8両。準備にかかった時間も長い。特区の提案が平成27年秋、検討会議の設置が平成29年6月、運行開始が平成30年5月。9回の会議を重ねて2年半かかっている。
愛媛県内にも事例がある。国土交通省の資料には、宇和島市の日振島地区が公共ライドシェアの例として載っている。交通事業者が不在だった地区で、導入によってドライバーが0人から4人、車両が0両から1両になった。ゼロが1になる、という規模の話だ。
うまくいかなかった例も見ておきたい。
カナダ・オンタリオ州のイニスフィルは、バス路線を作る代わりにウーバーの運賃を町が補助する仕組みを2017年5月に始めた。人口密度の低い郊外の町だ。利用は伸びた。2017年12月に月5,000回、2018年は平均7,000回、2019年3月には約10,000回。ところが費用も伸びた。2018年が64万カナダドル、2019年が85万カナダドル。当初検討されていたバス2路線の年間費用61万カナダドルを、あっさり超えた。町は2019年4月、固定運賃を1ドル上げ、補助額を5ドルから4ドルに減らし、1人あたり月30回という乗車上限を設けた。月間の利用は約8,400回に落ちた。2024年の論文は、補助付きの配車サービスは公共交通の代替にはならなかったと結論づけている。
学術研究のほうは、地方部にもっと冷たい。
トロント大学のホールらは、全米の都市圏を対象に、ウーバーが参入する前後で公共交通の利用者数がどう動いたかを比べた。平均すると、ウーバーは公共交通の「補完」だった。参入から2年後、利用者数は5から28パーセント高くなっていた。ところが都市圏の大きさで分けると、結果が逆転する。人口が中央値(約28万人)より小さい都市圏では、ウーバーの参入で公共交通の利用が5.7パーセント減った。大きい都市圏では0.8パーセント増えた。裏返せば、まちが小さいほど、ライドシェアは公共交通を食う側に回りやすい。
日本の現場でも、壁は同じところにある。国土交通政策研究所の研究官らが自家用有償旅客運送の団体に行った全国調査では、「ドライバーの不足」と「ドライバーの高齢化」が、どの類型でも継続上の課題の上位に挙がった。制度が緩んでも、運転する人がいなければ車は動かない。
数字でも確認できる。日本版ライドシェアは令和7年6月8日時点で全国137地域、登録ドライバー8,751人、制度創設からの累計運行回数は781,388回。これに対して、令和4年度のタクシー輸送人員は9億2,800万人だった。単位は違うが、桁が3つ以上ちがう。一方、公共ライドシェアは令和7年3月末で645地域・788主体・5,571台。全自治体の3分の1強が導入している。数の上で地方に広がっているのは、公共ライドシェアのほうだ。
正直に言えば、いまのところ間に合っていない。
国内で初めて運転者を乗せないレベル4の自動運転移動サービスが始まったのは、福井県永平寺町だ。令和5年(2023年)5月21日、廃線跡を歩行者用道路にした約2キロの区間で運行を始めた。車両は電動カートがベース。時速12キロで、道路に埋めた電磁誘導線をたどって走る。運賃は大人100円、中学生以下50円。
ところが同じ年の10月29日、事故が起きた。走行ルートの左側に停めてあった自転車に接触した。乗客4人と自転車の運転者にけがはなかったが、運行は自主的に止められた。ブレーキ自体は作動していたという。カメラの認識性能を上げるなどの対策を経て、再開は令和6年(2024年)3月16日になった。
そして永平寺町の公式ページには、いまこう書かれている。「令和8年3月末をもって自動運転車両およびシステム等の保証と保守の期間が満了することに伴い、4月1日以降の運行については、当面の間運休」
日本で最初のレベル4は、いま止まっている。技術が壊れたからではない。保証と保守の期間が切れたからだ。ここが現実的で、そして重い。
国が期待していないわけではない。国土交通省は令和6年7月に「交通空白」解消本部を立ち上げ、自動運転移動サービスに取り組む箇所を2027年度までに100か所にする目標を掲げている。ただしこれは「取り組む箇所」の数だ。
調べていて一番こたえたのは、大洲でライドシェアが広がらない理由が、制度でも予算でもなかったことだ。
制度はもう用意されている。国は運輸局の職員を全国の自治体に回らせ、令和6年5月時点で未着手だった622市町村を、同年12月には24市町村まで減らした。大洲交通圏にも、すでに許可は出ている。
足りないのは、その制度を回す人のほうだ。運行管理を引き受けるタクシー会社と、実際にハンドルを握る人。ライドシェアはタクシーの代わりではなく、タクシー会社が生き残っていることを前提にした仕組みだから、順番としては、安全タクシーと肱南タクシーの2社が2社のまま踏みとどまれるかどうかが先に来る。
いま大洲で確実に動いているのは、10地区で週2日・1日2往復のデマンド型交通と、内子町の2社が持っている合計4台分の許可枠だ。地味だが、これが現実の持ち駒になる。
市は令和7年9月の議会で、こう言っている。「一度路線廃止となれば、再開は非常に困難でございます」
バスの話として出た言葉だ。ただ、タクシーにもそのまま当てはまる。大洲では実際に、長浜と肱川からタクシーが消えて、いまも戻ってきていない。
この記事をサイトに掲載した日: 2026/08/30