大洲の視点 ・ 出典: 大洲市役所 ・ 約7分で読める
13年前に決まったことが、去年になって「違法」とされたんよ。
問題になったのは金額じゃなくて、専門家に聞かずに決めた手続きのほう。
市が電話で口座番号を聞くことは絶対にないから、そこは気をつけて。 のみこめた?
3行でいうと調べた資料 8本
大洲市が令和8年8月3日に、「生活保護基準の改定に伴う追加給付」というお知らせを出した。
過去に生活保護を受けていた世帯に、お金を追加で支給するという内容。
市のページを読んだだけだと「国が決めたので払います」以上のことが分からなかったので、そもそも何があってこうなったのかを調べてみた。想像していたよりずっと大きな話だった。
話は平成25年(2013年)にさかのぼる。国は生活保護のうち、食費や光熱費といった日常生活費にあたる「生活扶助基準」を、平成25年から27年にかけて段階的に引き下げた。下げ幅は平均6.5%、最大で10%。
削減された総額は約670億円。当時は生活保護の不正受給報道が相次ぎ、いわゆる「生活保護バッシング」と呼ばれる空気が社会に広がっていた時期でもあった。
自治体問題研究所の解説も、その空気の中で引き下げが行われたと整理している。
引き下げの計算方法は2つあった。ここが分かりにくいところなので、分けて書く。
ひとつは「ゆがみ調整」。年齢や世帯人数ごとの支給額のバランスを、実際の消費実態に合わせて調整するというもの。
もうひとつが「デフレ調整」。こちらは物価が下がった分だけ、機械的に支給額を下げるという方式だった。
厚生労働省が独自に算出した平成20~23年の物価下落率4.78%が使われている。
670億円のうち約580億円、つまり大部分がこのデフレ調整による削減だった。
そして最高裁が違法と判断したのは、デフレ調整のほうだけ。ゆがみ調整については違法性を認めていない。「引き下げ全部が違法になった」と読むのは正確ではない。
令和7年(2025年)6月27日、最高裁判所第三小法廷(宇賀克也裁判長)が全国の訴訟について統一判断を示した。
ここが今回いちばん面白かった点なのだが、最高裁は「引き下げた金額が低すぎる」とは言っていない。問題にしたのは決め方の手続きのほうだった。
理由はこうだ。物価下落率を指標のひとつにすること自体は許される。
ただし物価の動きは、生活保護を利用している世帯が実際に何にいくら使っているかという消費の実態を捉えるには限界がある。
それまで厚労省は別の方式で基準を改定してきたのに、今回に限って物価下落率だけを直接の指標にする新しいやり方に切り替えた。
にもかかわらず、専門家がそろう社会保障審議会の基準部会で審議されていなかった。
最高裁はこれを「専門的知見との整合性を欠いた」とし、厚生労働大臣の判断の過程に過誤・欠落があったとして、当時の保護決定処分を取り消した。
つまり「専門家に諮らずに計算方法を変えた」という一点で、13年前の決定がひっくり返ったことになる。
この裁判は「いのちのとりで裁判」と呼ばれている。29都道府県で、1,000人を超える生活保護利用者が原告になった、かなり大規模な集団訴訟だった。
最高裁までに出た下級審の判決は43件(地裁31件・高裁12件)。原告側の成績は27勝16敗で、6割を超えて勝っていた。
そして自治体問題研究所の解説によると、訴訟の途中で232人の原告が亡くなっている。提訴から最高裁判決まで、およそ12年かかった裁判だった。
判決を受けて厚生労働省は、当時使われたデフレ調整のマイナス4.78%と、あらためて算定した消費実態にもとづく調整のマイナス2.49%との差額を、追加で給付することを決めた。
大洲市の対象は、平成25年8月から平成30年9月のあいだに生活保護を受給していた世帯と、その後も一定の条件に当てはまる世帯。
現在も受給中の世帯は申請不要で、市が職権で令和8年9月以降に支給する。
すでに受給を終えている世帯は令和8年8月1日~令和9年7月30日のあいだに申し出が必要になる。
国の方針では現受給世帯への支給は令和8年3月から順次となっており、大洲市の9月以降という記載とは時期がずれている。
これは国の方針を受けて市が実際の事務処理を進めるタイミングの差だと思われる。
調べていて意外だったのは、この追加給付の中身が、いま批判されているということ。
日本弁護士連合会は令和8年1月23日の会長声明で、厚労省の対応策の撤回を求めている。理由は2つあった。
ひとつは、差額の計算に使われたマイナス2.49%という数字の出どころ。
これは裁判の終盤で、国側がデフレ調整を正当化する根拠として持ち出したものの、最高裁が採用しなかった数字だという。
日弁連は「これを再減額の根拠に用いることは本判決の判断を蔑ろにするもの」と批判している。
もうひとつは対象の範囲。原告になった人だけを「特別給付」として別扱いする点について、「違法とされた本引下げによる不利益は全ての生活保護利用者が等しく被っている」として、全員への補償を求めている。
最高裁が違法と認めたところまでは決着がついた。ではいくら、誰に返すのかという部分は、いまも動いている話ということになる。
「国の決めた基準」が13年越しに違法認定される。しかも理由が「専門家に諮らなかったから」という手続きの不備で、その間ずっとその基準のもとで暮らしを組み立てざるを得なかった人たちがいた。
調べてみて、市のお知らせ1枚の背後にこれだけの話があるのかと思った。
なお大洲市は、「市や厚労省が電話で口座番号を聞くことは絶対にない」という注意喚起もあわせて出している。
「お金が戻ってきます」という話は詐欺の入口になりやすい。対象になりそうな方は、市の窓口で直接確認してほしい。
市のお知らせが出たのは令和8年8月3日だった。 その5か月前、3月の定例会で、市はやり方をすでに説明していた。
令和8年度の当初予算に「生活保護扶助費追加支給事業」という項目があり、 委員会でその中身が問われている。 市の説明は、この記事で書いた経緯とぴたり一致していた。
平成25年度から実施された生活扶助基準改定に関する最高裁判所の判決を受けて国が新たな水準を設定したことにより、当時給付した扶助費との差額が発生するため、当時の受給者に対してその差額分を追加で支給するものである
大洲市議会 令和8年3月定例会(4日目)会議録 委員会報告
対象になる期間も、はっきり述べられている。 「主に平成25年8月から平成30年9月までの5年間に給付を受けていた方」である。
委員が「対象者への通知は行っているのか」と尋ね、市が手順を答えている。 この部分がいちばん実用的だと思うので、そのまま整理しておく。
| いまの状況 | どう受け取るか |
|---|---|
| いま生活保護を受けている | 現在の支給額に上乗せして給付される |
| いまは受けていない | 随時、申請が必要 |
| 市外へ転出している | 同じく申請が必要 |
いま受けている人は黙っていても入るが、抜けた人は自分で申請しないと入らない。 13年前の話なので、当時受けていていまは受けていない人のほうが多いはずである。 そちらが申請制になっているというのが、この制度のいちばん大事なところだと思う。
もう1つ、面倒な条件も説明されていた。 対象の期間に別の自治体へ転出していて、複数の自治体で受給期間がある場合は、 それぞれの受給期間に応じて各自治体へ給付申請を行う必要があるという。
大洲で3年、よそで2年なら、両方に申し込む。 5年間のあいだに引っ越した人ほど、手続きが増えることになる。
支給までの段取りも述べられていた。 当初予算が可決されたあと、まず支給システムの改修を行い、 それから世帯ごとの給付額を算定する。 市のお知らせが8月まで出なかったのは、この作業があったからだと考えられる。
この制度が何人に関わる話なのかを知りたくて、市の数字を探した。 受給世帯数そのものは会議録から見つけられなかったが、 そのまわりの規模が分かる数字があった。
令和6年3月の定例会で、市の教育部門が就学援助の状況を答えている。 経済的な理由で通学が困難な家庭に、学校生活に必要な経費を援助する制度である。
| 区分 | 令和6年2月末の人数 |
|---|---|
| 要保護(生活保護を受けている世帯の児童生徒) | 7人 |
| 準要保護(生活保護に準ずる程度に困窮していると認められる児童生徒) | 446人 |
| 合計 | 453人 |
7人と446人。約64倍の開きがある(この割り算は自分でやった)。 生活保護を受けている子どもの外側に、それに準ずる困窮が、はるかに大きく広がっている。
市はこの認定率も出していた。 大洲市15.46%。厚生労働省が公表している令和4年度の実績と比べると、 愛媛県13.15%、全国13.96%である。
市の言葉では「これらと比較しましても決して低い数字でないのが現状でございます」。 大洲は、県より全国より高い。
13年前の基準引き下げが違法とされ、その差額が返ってくる。 その話を追いかけてきて、最後に出てきたのがこの15.46%だった。 返ってくるお金の話と、いま困っている人の話は、別々に続いている。
この記事をサイトに掲載した日: 2026/08/18