大洲の視点 ・ 出典: 東京都立大学大学院 修士論文(2023年) ・ 約17分で読める
10年前、城下町は「崩壊寸前」って言われてたんよ。
救ったのは、若い人たちの「10年借りる」という発想。
売るでもなく、自分で管理するでもない、三つ目の道だったの。
3行でいうと調べた資料 16本
以前「空き家率19.2%の衝撃」という記事を書いたが、その空き家をどうやって実際に活用まで持っていくのか、 具体的な仕組みを知る機会があった。
大洲市の官民連携まちづくりを分析した修士論文(東京都立大学大学院・手塚真人氏、2023年3月)によると、 2016年頃、大洲の旧城下町エリアの町並みと景観は「崩壊寸前の危機的状況」にあったという。
かなり強い表現だが、それだけ切実だったということなんだろう。
その状況に対して2017年4月、地域の若者を中心に「YATSUGI(やつぎ)」が結成された。
内閣府のNPO法人ポータルサイトで確認すると、NPO法人としての設立認証年月日は2018年9月13日。 まず若者たちの活動があって、法人格はあとから付いてきたという順番だ。
町家や古民家の清掃、空気の入れ替え、障子の張り替えといった、すぐにできる簡単な修繕活動を していたそうだ。
空き家の所有者の多くは首都圏や関西など他地域に住んでいて、頻繁に維持管理に来られない。
そこにYATSUGIが関わることで、建物の傷みの進行を遅らせつつ、所有者との関係づくりにもつながったという。
所有者への聞き取りで分かったのは、「歴史ある建物を残したい気持ちはあるが、維持管理が大変で、活用の仕方も分からず、相談先も分からないから、取り壊しを検討している」という本音だったそうだ。
これはきっと、大洲に限らず全国の空き家所有者に共通する悩みだと思う。
合意形成を後押ししたもう一つの仕組みが、「サブリース(転貸)」という手法。
歴史的建築物の活用を担う(株)KITAは、手がけた34棟のうち約半分を所有者から購入し、 残り半分はこのサブリース方式で、所有者と10~15年の定期借地権の契約を結び、その借りた 権利をさらに活用事業者へ貸しているという。
この方法だと、維持管理費や固定資産税の支払いに苦しんでいた所有者は、その負担から解放されるだけでなく、 10~15年後には改装された建物を取り戻すこともできる。
「今すぐ売る」でも「自分でずっと管理する」でもない、第三の選択肢があることが、合意形成に大きく 貢献したとの考察だった。
改修技術の話も興味深かった。2018年当時、大洲には古民家改修を手がける設計事務所や工務店がなかったため、 松山市の設計事務所や地元工務店を、兵庫県丹波篠山で長年古民家改修を手がけてきた専門家のもとへ研修に 送り、技術を習得してもらったという。
ちなみにこの松山の設計事務所は、前職で愛媛県八幡浜市の日土小学校 (戦後の木造建築として初めて重要文化財に指定された名建築)の修復に関わった経歴を持つとのこと。
大洲の古民家再生の裏に、県内の別の文化財保存の経験がつながっていたというのは、ちょっとした発見だった。
(株)KITAでは今も毎年「町家活用改修事業研修」を開いて、技術を地域の工務店に伝承し続けているそうだ。
「空き家問題」というと制度や補助金の話になりがちだけど、実際に城下町を動かしたのは、 次の3つの具体的な行動だったんだと分かる。
大きな計画より先に、まず人が動いていたという順番が印象に残った。
ここまで読むと、うまくいった話ばかりのように見えるかもしれないが、実際にはかなり泥臭い交渉の積み重ねだったようだ。
「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」は、複数の古民家を離れた場所に分散させたまま1つのホテルとして運営する「分散型ホテル」だ。空き家再生の事業化プロセスを取材した別の記事によると、その開業にあたり、13億円という巨額の投資を、無担保・無保証で融資してもらう交渉に成功したのだという。
地方の空き家再生でこの規模の融資を無担保で引き出すのは、簡単なことではないはずだ。
現場レベルの苦労も生々しい。空き家の所有者が複数の相続人にまたがっていて、全員の合意を取り付けるだけで時間がかかるケース、所有者本人が認知症になってしまい、そもそも契約行為自体ができなくなってしまうケースもあったという。
建物の側でも、長屋のうち1室だけ所有者が違うために、室内に新しく境界の壁を作って、残りの部分だけを借り受けるといった、法律と現場の間を縫うような物理的な工夫も必要になる。
建築基準法や消防法といった法規制への対応も一筋縄ではいかなかったようで、「若者たちが動いて、サブリースで貸し借りする」という仕組みの美しさの裏には、こうした地道な調整の積み重ねがあった、ということのようだ。
なお、サブリースの具体的な賃料水準までは、今回の調査で確認できる公開資料の範囲では分からなかった。
YATSUGIは今もあるのか、2026年8月時点で改めて調べ直してみた。
まず法人としての存続について。内閣府の「NPO法人ポータルサイト」には今もYATSUGIの登録ページが 存在していて、解散した法人の一覧にも名前は見当たらなかった。少なくとも法人格が消えているわけでは なさそうだ。
もう一つ、YATSUGIの活動のあと2018年7月に設立された一般社団法人キタ・マネジメント(大洲市の観光地域づくり法人)の公式サイトも見てみた。「古民家再生 #YATSUGI - 地域の若者たちのクリエイティブな活動から始まった大洲のまちづくり」という一文が、2026年8月時点でも掲載されている。
サイト自体も直近まで更新が続いていて(2026年7月1日に「令和7年度実績報告」を公開、7月17日にも新しいお知らせを掲載)、YATSUGIは今も大洲のまちづくりの「原点」として、現在進行形で語られている団体のようだ。
ただし、YATSUGI単独の直近の活動報告(会員数や個別イベントの開催状況など)までは、今回の調査では見つけられなかった。
今の主な担い手は、YATSUGIから発展した(株)KITAや一般社団法人キタ・マネジメントに移っている面もありそうで、YATSUGIという名前と発想は生き続けているものの、組織単体としての今の活動規模までは正直よく分からなかった、というのが今回調べた範囲での正確なところだと思う。
この記事は「今すぐ売る」でも「自分で管理」でもない第三の選択肢として、 10〜15年のサブリースを紹介した。 では、市の側の空き家対策はどう動いているのか。 市議会の会議録に、実績の数字があった。
令和7年6月の定例会で、副市長が空き家バンクの実績を答えている。
| 項目 | 数 |
|---|---|
| 平成29年度の本格運用開始以降の物件登録 | 296件 |
| そのうち契約が成立したもの | 165件 |
| うち売買 | 150件 |
| うち賃貸 | 15件 |
成立率は55.7%。登録された物件の半分強が動いている計算になる (この割合は2つの数字から自分で出した)。
注目したいのは、その中身のほうである。 売買150件に対して、賃貸は15件。ちょうど10倍の開きがある。
空き家バンクという仕組みは、実際にはほとんど「売る」で動いている。 この記事で書いた「所有者は手放したくないが、管理もできない」という状態の人にとって、 売買が9割を占める仕組みは、まだ答えになっていない。 サブリースという第三の道が生まれた理由が、この15件という数字に出ていると思う。
なお、いま市のホームページに載っている物件数も答弁に出ていた。 令和7年12月の定例会で「現在49件の物件を掲載しております」という説明がある。
その空き家に、誰が入るのか。移住者の数も同じ答弁に出ていた。
令和2年度から令和6年度までの直近5年間で、375人。 単純に割ると年に75人である。
県内での位置づけも述べられていた。 東予や中予地方への移住者が多く、南予地方はその2割から3割程度にとどまる。 前年度と比べると中予は増えているが、南予と東予は減っているという。
一方で移住に関する相談件数は増えているとも述べられていた。 「自然の中での生活や1次産業の魅力などの声も多く聞かれるようになりました」。 問い合わせは増えているが、実際に来る人は減っている。
市が打っている手も挙げられていた。 令和4年度から移住コーディネーターを置いていて、 令和7年度からは2名を3名に増員し、役割も拡充した。 南予9市町でつくるえひめ南予子育て移住促進協議会で移住フェアなども行っている。
この記事はうまくいった側の話である。 うまくいかない側の話も、同じ議会に出ていた。
議員が、危険な空き家の除去補助について指摘している。 いまの補助は対象が限られていて、 「市内では、そのような条件に合致しない、老朽化が進み倒壊の危険性が高まっている空き家が多くあります」と。
進まない理由も具体的だった。 「その建物を取り壊す費用だけでなく、取り壊した際に発生する産廃物を処分するための費用がかかり、 所有者に係る負担が増大となり、除去が進まない要因となっています」。
壊すのにも、ごみを捨てるのにもお金が要る。 この記事で書いたサブリースは「所有者を負担から解放する」仕組みだった。 その負担の正体が、ここにはっきり書かれている。
直せば価値が出る建物と、壊すのにお金がかかる建物。 同じ「空き家」という言葉の中に、この2つが混ざっている。 城下町で成功した仕組みが、そのまま市内全域に効くわけではない理由も、 たぶんここにある。
最後に、この記事の先にありそうな話を1つ。
令和7年12月の定例会で、空き家と農地をセットで渡せないかという提案が出ていた。 市の答えによれば、すでに空き家バンク制度の中で、 土地建物所有者の希望に応じて、附帯物件として農地や山林をセットにした紹介を行っている。 農業委員会からは、売りたい・貸したいという耕作放棄地を含む農地の情報も提供されている。
その耕作放棄地の規模も答弁に出ていた。 令和6年度で約894ヘクタール。増加傾向だという。
空き家と耕作放棄地は、たいてい同じ人が持っている。 家を貸す仕組みができれば、畑も一緒に動くかもしれない。 サブリースという発想が城下町の外へ広がるとしたら、 その先はこの894ヘクタールのほうかもしれないと思った。
発端は、市役所に持ち込まれた取り壊しの相談だった。
キタ・マネジメントの代表理事が、令和7年2月22日に大洲で開かれた内閣官房の会議で、そう説明している。
「もうこれ以上空き家を抱えておくのは限界だということで、市役所に一斉に、取り壊したいのだけれども何かいい補助金はないのかという相談が持ち寄られていたのです。このままほうっておいたら大変なことになります。でも、予算がないのです。」
補助金を出す金がない。壊すのを止める権限もない。
そこで動いたのが誰だったか。同じ説明の、次の一文がそれである。
「そこで、大洲市役所のまちづくり課の一人の若者が立ち上がりました。YATSUGIという家を継いでいく意味のNPOを個人で立ち上げて、地元の若者たちが集まってきて、彼らがお掃除大作戦ということを始めました。」
役所の中の人が、役所の外に器を作った。団体名の「YATSUGI」は、家を継いでいくという意味だという。
その「お掃除大作戦」の実績も、キタ・マネジメントの資料に数字で載っている。16回、13棟、参加者は延べ195人。町家の清掃と、残された荷物の整理の手伝いと、一部の修繕。
大事なのは、資料に添えられたこの一行だ。
「所有者にも参加していただき、建物の歴史や経緯についても情報共有をしています。」
掃除は、所有者に会うための口実でもあった。
次に年1回のイベント「城下のMACHIBITO」を始める。100年前の大洲を再現する催しで、人の来なかった通りに人が集まった。
だが、そこで止まらなかったことが分岐点になる。
「所詮イベントです。イベントが終わってしまったら、また静かな町に戻る。こんなことではこの町を守れないよねと。」
イベントを続けるのではなく、事業にすることを選んだ。宿にしようと試算したら10億円。運営できる人も地元にいない。困って頼った先が、2016年にできたばかりの伊予銀行の地域創生部だった。
そこから先は速い。銀行が探し当てたのが、分散型ホテルの発祥地である兵庫県丹波篠山市。押しかけて学び、初めて出会ってから7か月で連携協定まで持っていった。
役割は4つに割れている。ホテル運営はバリューマネジメント、空き家活用のノウハウと商標はNOTE、お金と人は伊予銀行、補助金を取ってくることは大洲市。
そして法人が立ち上がった経緯が、身も蓋もない。
「大洲市は早速6大臣の同意を得て、補助金のめどをつけました。残りの5〜6億円は伊予銀行が無担保、保証人なしで出しますという口約束ができたので、キタ・マネジメントが立ち上がりました。」
不動産を担う(株)KITAを作ったときの陣容も語られている。社員は2人。社長は32歳の地域おこし協力隊員。その会社に6億円を、担保も保証人もなしで、しかも低金利で貸すという条件だった。
もうひとつ、市役所の側でやったことが述べられている。庁内から人を集めて観光まちづくり課を作り、その中心になった職員を8年間、人事異動させずに据え置いたという。
では、空き家を1軒、実際に使える状態にするには何が要るのか。大洲の資料と国の資料を突き合わせると、7つの段階になる。
| 段階 | やること | ぶつかるもの |
|---|---|---|
| 1 | 所有者を探して会う | 相続で持った人が54.6%。約3割は遠くに住む |
| 2 | 中の荷物を出す | 物置60.3%/仏壇など23.2% |
| 3 | 契約を結ぶ | 借地借家法。書面1枚で結果が変わる |
| 4 | お金を作る | 大洲は総額12億円。補助金6億+融資とファンド6億 |
| 5 | 使い道を決めて役所と話す | 建築基準法・消防法・旅館業法 |
| 6 | 直す | 直しすぎると金が尽きる |
| 7 | 貸す | サブリース |
1と2は、気持ちの問題ではなく統計の問題である。
国土交通省の令和元年空き家所有者実態調査によると、空き家をそのままにしておく理由の上位はこうなっている。物置として必要60.3%、更地にしても使い道がない36.7%、好きなときに利用や処分ができなくなる33.8%、リフォーム費用をかけたくない23.8%、仏壇など他に保管場所がないものがある23.2%、他人に貸すことに不安がある18.3%。
サブリースは、この並びに対する回答になっている。
「リフォーム費用をかけたくない」は、借りた側が直すので消える。「他人に貸すことに不安がある」は、借主が個人ではなく会社なので薄まる。そして「好きなときに利用や処分ができなくなる」——これが期限つきの契約で解ける部分だ。
3の契約が、実はいちばん細い。期間が来たら確実に返ってくるという約束は、普通の賃貸借では成り立たない。普通の借家契約には法定更新があり、貸主から終わらせるには正当事由が要る。期間満了で確定的に終わるのは、借地借家法第38条の定期借家のほうである。
しかもこの第38条には第2項がある。更新がなく期間満了で終わることを、あらかじめ書面で説明しなければならない。この説明を落とすと、更新がないという定めだけが無効になり、普通の借家契約として扱われる。
紙1枚で、15年後に家が返ってくるかどうかが変わる。
なお、この記事の本文で「サブリースの具体的な賃料水準までは分からなかった」と書いた点は、その後の調べで一段階だけ進んだ。代表理事は国の会議でこう説明している。
「空き家の所有者と株式会社KITAが、基本的には15年の賃貸借契約を結びます。そして、固定資産税プラスアルファをお家賃として払います。」
賃料の目安は「固定資産税+α」。そして15年という長さの理由も、同じ文の続きに出ている。「銀行に15年で返済する」——つまり返済期間が契約期間を決めている。
固定資産税については、令和3年6月の市議会で市長がこう答えている。
「建物を借り上げてビジネスとして回している以上、所有権はもともとの持ち主に残っておりますから、税金はどうしてもその方に払っていただかなければならない。」
つまり、納税義務そのものは所有者に残る。それが借り上げ料に織り込まれているから、手元の負担としては消える、という仕組みである。
5の役所との話は、宿にする場合がいちばん重い。建築の窓口、保健所、消防の3か所と並行して話を進める必要があり、民間の実務解説では全体で数か月から半年以上が目安とされる。検査済証がない物件の調査だけで数十万円から数百万円かかることもある。古民家は、そもそも検査済証が無いことが多い。
ひとつ追い風もある。2019年6月25日施行の改正建築基準法で、延べ床面積200平方メートル以下の建物を旅館などに用途変更する場合、建築確認の手続きが不要になった。ただし新潟県の説明が釘を刺しているとおり、手続きが要らないことと、法律に適合しなくてよいことは別である。
規制とどう付き合ったかの実例が、同じ議事要旨に残っている。大洲城の城泊で風呂をどうしたか、という質問への答えだ。
「二の丸の空き地に中国からコンテナを4基輸入してきて置いているのです。掘ってはいけないという規制があるので、置くだけだったらいいだろうと。」
史跡なので基礎を打てない。ならば置くだけにする。この発想を、代表理事は「若者の発想です」と説明していた。規制を変えたのではなく、規制に触れない形を探している。
6の改修方針も、費用の話としてつながっている。資料には「ミニマムインターベーション」、つまり元に戻せる直し方と書かれている。掲げているのは「活用のために水周りだけはしっかり直す」「直しすぎない」の2つ。そのうえで耐力壁を入れて建築基準法上の耐震強度は確保するとしている。目指すのはビフォーアフターではなく「ビフォービフォー」だという。
傷を残すのは趣味の話に見えて、工事費を抑える話でもある。
なお、合意形成にも手間がかかっている。城泊のときは事前の説明が足りず大反対運動が起き、市が短期間で35回の住民説明会を開いて誤解を解いたという。天守閣は20年前の木造復元で、復元費13億円のうち5億数千万円は市民の寄附だった。「俺たちの城」と言われる根拠が、金額として残っている。
YATSUGIが2017年に手作業で始めたことは、その6年後に、法律の器になった。
2023年12月13日に施行された改正空家法で、「空家等管理活用支援法人」という仕組みができた。市区町村が、空き家の活用や管理に取り組むNPO法人や社団法人を指定する制度である。
指定された法人ができることは、そのままYATSUGIの活動と重なる。所有者や活用希望者への相談、所有者から委託を受けての活用や管理、市区町村から委託を受けての所有者の探索。さらに、空き家の財産管理人の選任を請求したり、空家等対策計画に提案したりできる。市区町村長から所有者の情報を受け取ることもできる(所有者の同意が要る)。
先に人が動いて、制度があとから追いかけた形になっている。
なぜ国がそこまでするのか。理由も同じ資料に数字で書いてある。市区町村の62.3%がマンパワー不足を課題に挙げ、58.6%が専門的な知識の不足を挙げている。そして342自治体(35.2%)が空き家対策の業務を外部に出している。出している中身は、実態調査210、空き家バンクの運営108、所有者や相続人の探索56などだ。
役所の中だけでは回らないことを、国の調査が認めている。
同じ改正で「空家等活用促進区域」もできた。区域に指定すると、市区町村が特定行政庁と協議して、幅員4メートル未満の道にしか接していない空き家でも建て替えや改築をしやすくしたり、用途規制をゆるめたりできる。城下町の細い路地は、この接道の壁にまともに当たる場所である。
指定できる区域の類型には、歴史的風致の維持・向上を図るための重点区域が入っている。国が挙げている例は「空家等を周囲の景観と調和する形で観光施設として活用することにより、観光振興や、歴史的風致の維持を向上を図る」。大洲がやったことが、そのまま法律の想定例になっている。
相続でつまずく場合の道具も増えた。財産管理人の選任を裁判所に請求する権利は、従来は利害関係人に限られていたが、改正後は市区町村長も請求できるようになった。相続放棄や所有者不明で止まっていた物件が、動かせる余地が出たことになる。
一方、放っておく側のコストもはっきりしている。管理不全空家等として勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例が外れる。この特例は200平方メートル以下の部分を6分の1に減額するものなので、外れれば税額は最大で6倍になる。
最後に、大洲だけの話ではないことを一つ。広島県尾道市には、2007年に生まれた「尾道空き家再生プロジェクト」がある。大洲より10年早い。
日経BPの取材によると、始まりは6年間かけて空き家を調べたことだった。その結果、「このまま空き家が増え続けたら、尾道らしいコミュニティや景観がなくなってしまう」と感じたのがきっかけだという。2007年に任意団体、翌2008年にNPO法人。この順番は大洲と同じである。再生第1号は坂の途中の通称「ガウディハウス」。2018年時点で法人として20軒を再生し、空き家バンクの成約は約100軒に達していた。
どちらも、危機感が先にあって、法人格はあとから付いている。そして続いたかどうかを分けたのは、そのあと掃除やイベントのままで止まらず、お金の回る形に作り替えられたかのほうのようである。
大洲の代表理事は、城泊の裏方について「一人一人ボランティアなしです。お金を払っています」とも述べていた。ボランティアを制度にしない、という選び方でもある。
東京都立大学大学院修士論文(手塚真人、2023年3月、非公開のため個別リンクなし)
YATSUGI(内閣府 NPO法人ポータルサイト) 一般社団法人キタ・マネジメント公式サイト(YATSUGIの記載・最新更新の確認) 綺麗事では進まない、空き家再生のリアル。愛媛県大洲市はいかにして事業化させたのか【前編】(Regeneration Travel) 大洲城下町再生の物語(一般社団法人キタ・マネジメント、内閣官房 新しい地方経済・生活環境創生有識者会議 第4回 資料2。2017年のYATSUGI設立、キタ・マネジメントの設立2018年7月2日、丹波篠山市をモデルとした構想、再生した歴史的建造物32棟の記載) 大洲市議会 令和7年6月定例会 会議録(2日目)— 空き家バンクの登録296件・契約成立165件(売買150件・賃貸15件)、5年間の移住者375人、南予は東予中予の2〜3割、移住コーディネーターを2名から3名へ、危険空き家の除去が産廃処分費で進まないという指摘 大洲市議会 令和7年12月定例会 会議録(3日目)— 空き家バンクに現在49件を掲載、附帯物件として農地や山林をセットにした紹介、耕作放棄地は令和6年度に約894ヘクタールで増加傾向 新しい地方経済・生活環境創生会議(第4回)議事要旨(内閣官房) — 令和7年2月22日開催・2026年9月12日確認 / キタ・マネジメント代表理事が、YATSUGIの発端、総額12億円の内訳、15年契約と賃料、規制への対応、市役所の人事について説明している NIPPONIA HOTEL 大洲城下町 官民連携による歴史的資源を活用した観光まちづくり(一般社団法人キタ・マネジメント、日本銀行サイト掲載) — 2023年作成・2026年9月12日確認 / オソウジダイサクセンの活動実績16回13棟、サブリース方式の図、改修方針ミニマムインターベーション、2023年7月時点の成果 空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について(国土交通省住宅局) — 令和5年6月14日公布・2026年9月12日確認 / 空き家にしておく理由の調査、空家等管理活用支援法人、空家等活用促進区域、市区町村のマンパワー不足 「空家法」と「2023改正空家法」(国土交通省住宅局) — 2023年12月13日施行・2026年9月12日確認 / 特定空家等と管理不全空家等の措置、住宅用地特例の解除 大洲市議会 平成30年12月定例会 会議録(2日目) — 平成30年12月開会・2026年9月12日確認 / 地方創生推進交付金と各種ファンドを使って4年間で町家・古民家を改修しサブリースする事業として説明されている 大洲市議会 令和3年6月定例会 会議録(2日目) — 令和3年6月開会・2026年9月12日確認 / 所有権は所有者に残るため固定資産税の納税義務も所有者に残り、借り上げ料に固定資産税分が見込まれるという答弁 既存の戸建て住宅などを旅館等に用途変更する際の注意点(新潟県) — 2023年1月12日更新・2026年9月12日確認 / 2019年6月25日施行の改正建築基準法で200平方メートル以下は建築確認が不要になったが、法への適合は引き続き求められる 空家等活用促進区域の設定に係るガイドライン(国土交通省) — 令和5年12月公表・2026年9月12日確認 / 接道規制と用途規制の合理化の要件 古民家・築古物件を民泊・宿泊施設に改修する方法(raumus) — 2026年5月3日公開・同年7月10日更新・2026年9月12日確認 / 建築・保健所・消防の3窓口と並行協議する実務の順番、検査済証がない物件の調査費用の目安。民間の実務解説であり法令の根拠ではない 空き家の再生を通じて尾道の景観を守り、新たな人々とのつながりを生み出す(日経BP 新・公民連携最前線) — 2018年9月18日掲載・2026年9月12日確認 / 尾道空き家再生プロジェクトの設立年、法人として再生20軒、空き家バンク成約約100軒この記事をサイトに掲載した日: 2026/08/01