2026/08/17 ・ 大洲と読書
石井まこと・宮本みち子・阿部誠『地方に生きる若者たち』を読みました。
2006年から2016年にかけて、地方の若者に行われた継続的なインタビュー調査がもとになっている、学術寄りの一冊です。
「地方消滅」論(いわゆる増田レポート的な議論)を、若者の実態からもう一度検証しようとしている本でした。
少子化の背景には雇用の不安定さがある、という指摘に丁寧な図解でメモを取りながら読みました。
印象に残ったのは、「若者が軽く集まれる場」の必要性という指摘です。
青年会議所のような重い組織ではなく、もっと気軽な集まりの場。
それから、「都市に出たが、家族の介護を理由に地元へ戻る」という若者のUターンの実例も紹介されていました。
本が指摘していた「若者が軽く集まれる場」は、大洲にちゃんとありました。過去形です。
平成26年9月の市議会で、ある議員が自分の体験としてこう述べています。昭和53年ごろ、旧大洲地区ではほとんどの地域に青年団があり、13地区あわせて約330名が大洲市連合青年団に所属していた、と。長浜・肱川・河辺の青年団は、喜多郡連合青年団のほうで活動していたそうです。
そして同じ答弁の中に、こう書かれています。「青年団、現在はほとんどの地域で青年団はありませんが」。
同じ定例会で、別の議員が青年団のもう一つの機能に触れていました。青年団は地域活性化の組織であると同時に、男女が出会う場所でもあった、と。その組織が弱体化・廃止になったことが、いまの未婚・晩婚の問題に拍車をかけている、という見立てです。
青年会議所のような重い組織ではない、もっと軽い集まり。本が必要だと言っていたものは、40年ほど前の大洲に実在していて、そのあと消えました。
本が検証しようとしていた「地方消滅」論は、大洲にとって一般論ではありませんでした。
平成26年(2014年)5月、日本創成会議の人口減少問題検討分科会が推計を出します。市議会で紹介された数字はこうでした。2040年に大洲市の人口は2万6,182人、そのうち20歳から39歳の若年女性は1,724人。愛媛県内では大洲市を含む5市8町が「消滅可能性都市」に分類されました。
このときの市長の答弁は、率直でした。「余りにも想定以上のことで、私どものみならず、各自治体とも大きなショックを受けられたのではないか」。
本の議論の出発点になった推計が、大洲市の名前を挙げていた。それが会議録に残っています。
「介護や家庭の事情で地元に戻ってくる人は、実際どのくらいいるのか」。ここは追えるところまで追ってみました。
令和7年6月の市議会の答弁によれば、令和2年度から令和6年度までの5年間で、本市への移住者は375人でした。年あたり75人です。空き家バンクは平成29年度の本格運用以降に296件が登録され、うち165件(売買150件・賃貸15件)が成約しています。
内訳の年もあります。令和5年9月の答弁では、県外からの移住者が令和元年度56世帯70人から令和4年度72世帯100人へ、県内からの移住者が令和元年度72世帯93人から令和4年度125世帯185人へ増えています。同じ時期に転出者数は令和元年1,398人から令和4年1,224人へ減りました。
近隣と並べた年もありました。令和3年度の移住者数は、宇和島市171人、八幡浜市166人、西予市122人、大洲市88人、内子町45人。人口規模が近い市の中で、大洲は多いほうではありません。
ただし、Uターンの理由の内訳は見つけられませんでした。 市は転入手続の窓口アンケートで転勤等を除いた移住者を集計していますが、公開されている答弁では「介護のために戻った人が何人か」までは分けられていません。ここは調べても出てきませんでした。
「少子化の背景には雇用の不安定さがある」という本の指摘に、大洲市は文書で答えています。
第3次総合計画のパブリックコメントの回答です。市は、市民が理想とする子どもの人数から逆算した合計特殊出生率2.05を目標に置きつつ、本市の実績は1.26にとどまっていると書き、その差を「産みたくても産めない状況」と表現しました。原因として挙げたのは「経済的不安と心理的・肉体的不安」です。
インタビュー調査の本を読んだあとにこの回答を読むと、若者一人ひとりの選択の話と、行政の計画書の一文が、同じことを別の言葉で言っているのが分かります。
大洲市は、いわゆる過疎地域に指定されています。過疎地域自立促進計画の記事 でも書いた通りです。
この本を読んで、大洲にも「気軽に集まれる場」はどのくらいあるだろうと考えました。
介護や家庭の事情で地元に戻ってくる人は、実際どのくらいいるのか。
データとしては追えていませんが、この本のような研究があると、印象論ではなく実態から考えられそうです。
「地方消滅」という言葉だけが独り歩きしがちですが、そこに暮らす若者一人ひとりの選択を丁寧に 見ていく視点を、この本から借りたいと思いました。