大洲市9年計画に意見を出したのは5人。反映されたのは1件だけ

大洲市役所の庁舎入口と「大洲市庁」の銘板
大洲市役所の庁舎入口と「大洲市庁」の銘板(撮影: OZU LIFE MEMO)
メモう

9年ぶんの市の計画に意見を出した人、たった5人だったんよ。

でもそのうち1件が、目標の人口を1000人動かしたの。

5人でも変わることはある。メモう!

3行でいうと調べた資料 6本

  • 9年間の市の最上位計画への意見募集に、意見を出したのは5人21件だけだった
  • それでも1件が目標人口を1,000人動かした。「国の推計より低い目標はおかしい」という指摘だ
  • 市は回答の中で出生率の現実(1.26)と「産みたくても産めない状況」を公式に認めた

大洲市が「第3次大洲市総合計画」の基本構想(案)についてパブリックコメントを実施した。

2035年までの9年間、市が何を目指すかを決める、一番大きな計画である。

その結果がこれだ。

  • 募集期間: 令和8年6月2日~7月1日(30日間)
  • 意見提出者: 5人(持参2人、電子メール3人)
  • 意見の件数: 21件
  • 意見の反映件数: 1件

人口3万7,725人の市で、5人。1人あたり平均4.2件を書いた計算になる。

ただ、21件の中身をひとつずつ読んでいくと、印象がかなり変わった。この5人は、相当に鋭いところを突いていた。

反映された1件は、何が変わったのか

唯一計画を動かしたのは、意見番号2だった。質問はこうだ。

「総合計画最終年となる2035年の目標人口が『人口ビジョン』の社人研準拠推計より低くなっているのは、政策効果を反映した積極的な目標となっていないのではないか。」

「市の目標が、国の推計より低いのはおかしい」という指摘である。

目標というのは、何もしないより高い数字を置くものではないのか、と。

市の回答はこうだった。

「人口ビジョン推計値における2035年時点の人口30,671人に基づき、2060年の目標人口を達成するために必要な最低限必要な人口として30,000人と設定していました。ご指摘のとおり、目標人口は各種施策を実施して達成すべき数値を掲げるのが適当であり、令和7年国勢調査の速報集計結果も勘案し、総合計画最終目標人口を31,000人に見直すよう調整を進めます。」

「ご指摘のとおり」で始まっている。2035年の目標人口が30,000人から31,000人へ、1,000人引き上げられた。21件のうち、この1件だけが数字を動かした。

正直に書くと、この変更が意見だけの成果かは分からない。回答にも「令和7年国勢調査の速報集計結果も勘案し」とあり、ちょうど新しい統計が出るタイミングと重なっていた。

それでも、市が公式資料の中で「ご指摘のとおり」と書いて数字を書き換えたことは、記録として残る。

一番刺さった質問は「出生率2.05の根拠は何か」だった

21件の先頭に置かれていたのが、この質問だ。

「合計特殊出生率『2.05』という極めて高い数値を設定した根拠は何か。」

合計特殊出生率2.05とは、女性1人が生涯に2人強の子どもを産む状態を指す。

人口が長期的に減らなくなる水準(人口置換水準)がおよそ2.07なので、ほぼそこに並ぶ数字だ。日本全体では1970年代半ば以降、一度も届いていない。

これに対する市の回答が、この資料で一番読み応えがあった。

「愛媛県が実施した少子化に関する意識調査(令和7年2月)によると、希望する子どもの人数は『2人』の割合が42.0%と最も高く、6割以上の人が『2人以上の子ども』を理想としています。
しかしながら、本市の合計特殊出生率は1.26にとどまっており、この乖離は『産みたくても産めない』状況であることを示しています。」

2.05という数字は、予測でも願望でもなく「市民が理想としている子どもの人数」から逆算されたものだった。

市民の6割以上が2人以上を望んでいるのだから、それが叶えられれば2.05になる、という組み立てである。

そして、市は自分の現在地が1.26だとはっきり書いている。理想の2.05と現実の1.26。

この差を市は「産みたくても産めない状況」と表現し、原因を「経済的不安と心理的・肉体的不安」としている。

目標値の非現実性を突かれて、市が「これは達成できる予測ではなく、市民の希望が叶った場合の数字です」と正面から答えている。

この受け答えは誠実だと思う。同時に、目標と現実に0.79の開きがある計画を9年間の指針にする、ということでもある。

2060年の目標人口は、10年で3万人から2万人に下がっていた

21件の中で、一番驚いたのが意見番号3だった。

「2060年の目標人口『20,000人』に、受動的な推計以外の根拠はあるか。」

2060年の目標人口が、20,000人になっている。

これは大きな変更だ。10年前の平成28年3月に市が作った「大洲市人口ビジョン」を開いて確かめた。そこには4パターンの推計が並んでいる。

推計パターン2060年の人口
パターン1(社人研準拠。今の傾向がそのまま続いた場合)19,842人
パターン327,665人
パターン430,172人
パターン2(県準拠。出生率が回復し社会移動が均衡した場合)30,695人

市はこのうち高いほうを目標に置き、「2060年に30,000人」を掲げていた。

国立社会保障・人口問題研究所の推計より約1万人多い数字である。

その目標が、第3次総合計画では20,000人になった。社人研準拠の19,842人と、ほとんど同じ水準だ。

10年かけて、市は「国の推計より1万人多く」という目標を事実上取り下げたことになる。

しかも20,000人という数字ですら、控えめな見積もりではない。

市の回答によれば、これは「合計特殊出生率2.05と社会増減の均衡を条件に推計を行い」出したものだという。

出生率が1.26から2.05まで回復し、転出と転入が釣り合うという前提を置いて、ようやく2万人ということになる。

根拠として市が挙げているのは、市民アンケートで8割以上が「大洲に愛着があり、これからもずっと住み続けたい、当分は住み続けたい」と答えたこと、高校生アンケートで75.2%が「大洲に愛着がある」、30.4%が「将来的には大洲に戻りたい」と答えたことだ。

この30.4%という数字は、そのまま読むと厳しい。7割の高校生は、戻ってくるつもりがないと答えている。

市の回答も「高い転出意向がある一方で」と、そこを隠さずに前置きしている。

実際のところ、どちらの推計に近く進んでいるのか

せっかく人口ビジョンを開いたので、答え合わせをしてみた。

人口ビジョンには、第2次総合計画の目標年である2026年(=今年)の推計値も4パターン載っている。

2026年の大洲市人口。10年前の推計と、実際
パターン2(県準拠)
40,010人
パターン4
39,471人
パターン3
39,409人
パターン1(社人研準拠)
37,321人
実際(令和8年7月末)
37,725人
推計は大洲市人口ビジョン(平成28年3月)。実績は住民基本台帳人口で、推計の基礎となる国勢調査人口とはものさしが異なる

実績は、一番低いパターン1(社人研準拠)のすぐそばにある。市が目標にしていたパターン2~4の推計からは、1,700人から2,300人ほど下振れしている。

ここは物差しの違いに注意が要る。人口ビジョンの推計は国勢調査人口をもとにしたコーホート要因法によるもので、実績として挙げた37,725人は住民基本台帳の人口だ。

住民基本台帳のほうが一般に多めに出るため、国勢調査ベースで比べればさらに下振れしている可能性が高い。

それでも、市の独自推計に届いていないという方向は変わらない。

10年前に置いたベストケースの目標は、10年で外れた。2060年の目標が3万人から2万人に下がったのは、その答え合わせの結果でもあるのだと思う。

ここまでが、5人の意見のうち1件が計画を動かしたという話。
ここからは、残りの20件が何を言っていたのかを見ていくよ。

残り20件は何を言っていたのか

反映されなかった意見も、内容は幅広い。実際に出ていたものをいくつか挙げる。

  • 「基本政策が全国共通の内容となっており、大洲市ならではの特色(肱川、城下町等)を活かした戦略が見えない」(意見8)
  • 「第2次総合計画でも人口減少を重要課題としているが、計画期間中における検証について示されていない」(意見7)
  • 映画館やアクトピアがなくなり、若い子育て世帯が楽しく住める環境が少なくなっており、若者が県外へ流出する要因となっているのではないか」(意見10)
  • 廃校となった小学校校舎を現状のまま維持する必要があるのか。維持のみではなく、取捨選択の明確化が必要ではないか」(意見18)
  • 鹿野川湖漕艇場を1500m~2000mに整備すれば、世界大会や合宿の誘致が可能ではないか」(意見15)
  • 「まちづくりの方向性として『日本型ダーチャ』(ロシアで親しまれている、郊外の別荘や菜園付き住宅を利用する生活文化)の考え方を採用できないか」(意見13)
  • 「流域自治体を含めた広域的な『肱川清流ルネッサンス協議会』を設立し、水質管理などの科学的なアプローチができないか」(意見14)
  • 勾配3/100以下を利用可能な平坦地とすると、市内の平坦地分布や海抜などの物理的条件を分析しているか」(意見17)
  • 香害や化学物質過敏症などの新たな社会課題に配慮するとともに、農業との共生を図る持続可能なまちづくりを基本構想に位置付けてほしい」(意見19)
  • 「行政も民間企業の手法を活用し、予算を確保するための『お金を集める仕組み』を計画すべきである」(意見20)
  • 大学や企業の研究機関を誘致し、地域外からの資金と人材を流入させるべきである」(意見21)

ダーチャ、漕艇場の国際大会、勾配3/100の平坦地分析、香害。

5人しかいないのに、視野の幅が広い。普段から市政を見ている人でなければ出てこない具体性がある。

これらへの回答の多くは、「基本計画に位置付ける」「今後の施策を検討する上での参考とさせていただきます」という言い回しだ。

基本構想は方向性を示すもので、具体策は次に作る基本計画に書く、という整理になっている。

形式上は筋が通っているが、意見を出した側から見れば「先送り」と読めなくもない。

なお意見20への回答には、「ふるさと納税や公民連携の手法を活用した民間資金の活用など、多様な財源の確保に取り組むことが重要」という一文が入っていた。

市も財源確保の主力としてふるさと納税を意識していることが読み取れる。

この点は大洲市のふるさと納税4.6億円。そのうち2.2億円は経費で消えていたのほうで詳しく書いた。

「5人」は、本当に無関心の証拠なのか

5人という数字だけを見て「市民は無関心だ」と書くのは、たぶん早い。パブコメが市民参加の唯一の窓口ではなかったからだ。

意見5(「共創のビジョンとするなら、市民や事業者はどう参画するのか」)への回答に、こう書かれている。

「計画策定に当たっては、市民公募によるワークショップや分野別ワークショップを実施し、いただいたアイデアやご提案を踏まえ、基本構想(案)を作成しました。」

パブコメの前に、市民公募のワークショップと分野別ワークショップが行われていた。

そこで出た意見はすでに案の中に取り込まれているので、パブコメ段階では新たな指摘が出にくくなる。

実際、令和8年度当初予算には「市民参画型合意形成支援業務委託料55万5千円」が計上されていて、市民参加そのものにお金がかけられている。

それでも、比較すると寂しい数字ではある。同じ大洲市が令和6年に実施した「長浜港内港埋立事業」のパブリックコメントには、29人から64件の意見が集まった。人数で約6倍、件数で約3倍だ。

市全体の9年間を決める計画より、港ひとつの埋立事業のほうが多くの人を動かした。

ここには一般論がありそうで、「自分の生活が具体的に変わる話」でないと、意見を書こうという気持ちにはなりにくいということなのだと思う。基本構想は抽象的で、読むだけでも骨が折れる。

ちなみに、第3次総合計画の策定には令和8年度当初予算で「総合計画策定事業1,966万2千円」が計上されている(策定支援業務委託料1,702万8千円ほか)。

2,000万円近くをかけて作る計画の、最後の意見募集に集まったのが5人という対比になる。

それでも、この5人がいなければ

調べ終えて、最初とは逆の感想になった。

5人しか出さなかったパブコメで、目標人口が1,000人動いた。

そして、その1件がなければ「2035年の目標人口が国の推計より低い」というねじれは、そのまま9年間の計画に載っていたことになる。

さらに言えば、意見が出されなければ、市が「合計特殊出生率1.26」「産みたくても産めない状況」と公式資料に書くこともなかった。

回答は質問があって初めて生まれる。この21件の質疑応答は、それ自体が計画の一部として公開されている。

パブコメは、たいてい誰にも読まれずに終わる。それでも、A4で3ページのこのPDFは、大洲市が自分の目標の非現実性を認めた記録として残った。5人が書かなければ、存在しなかった記録である。