2026/08/17 ・ 大洲と読書
レジー『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』を読みました。
中田敦彦のYouTube大学やホリエモンなど、「ビジネス教養系インフルエンサー」を切り口に、「10分で答えが欲しい」という今の空気を分析した本です。
実ページを写真に撮って貼り付けるくらい、かなり熱心に読み込んでいました。
「古き良き教養(じっくり時間をかけて学ぶもの)」と「ファスト教養(短時間で結論だけを得るもの)」は似て非なるものだ、という整理が印象的でした。
最後に、「このファスト教養を斜に構えて見下そうとしたが、結局すべて読めたわけでもなく、表面的な理解で終わったかもしれない」と自己ツッコミを入れていました。
批判している自分自身も、ファスト教養的に本を消費しているのではないか、という気づきです。
「早く手に入る」ほうを、大洲市は一度きちんと検討して、値段を出したうえで見送っています。
令和3年6月の市議会で、議員が電子図書館の導入を求めました。スマホやタブレットで24時間365日借りられる仕組みです。教育長の答弁は、数字つきでした。公共図書館向けの和書のコンテンツが約9万2,000件しかないこと。紙の新刊が出てから電子で提供されるまで2〜3年かかること。そして、これらを総合すると「10年間で1億円程度必要」になること。
結論はこうでした。「現在のところ、大洲市立図書館におきましては、電子図書館サービスの導入は、予定しておりません」。
その後どうなったか。令和7年12月の決算特別委員会にも、同じ話が出ています。
電子図書の導入についても意見をいただいているが、多額の費用を要することなどから現時点では導入に至っていない。市としては、今はまず本に親しむことを優先して考えていきたい
大洲市議会 令和7年12月定例会 会議録
統計でも確認できます。大洲市立図書館の電子書籍貸出冊数は令和6年度も0冊でした。いっぽう愛媛県内では今治市・宇和島市・新居浜市・西条市・四国中央市・砥部町・伊方町の7市町が貸し出していて、宇和島市は1万8,811冊、砥部町は3万5,953冊を記録しています。
「今はまず本に親しむことを優先」。ファスト教養という言葉に、行政の言葉で答えるとこうなるのだと思いました。
では大洲の図書館は貧しいのか。逆でした。
前に調べたときに出てきた数字を並べます。令和7年度末の蔵書は4館あわせて21万9,473冊。市民1人あたり5.8冊です。全国の市区立図書館は1人あたり3.17冊なので、大洲は全国平均の1.8倍の本を持っています。
館の密度はもっと極端でした。人口3万7,931人に4館なので、1館あたり9,483人。全国は図書館3,318館に対して人口1億2,488万5千人ですから、1館あたり3万7,639人です。大洲は全国のおよそ4倍の密度で図書館を持っています。
本を買うお金も平均以上です。令和7年度予算の資料費は1,063万2千円で、市民1人あたり275円。全国平均は1人234円でした。
ただし、この最後の数字には続きがあります。令和6年度の資料費は1,270万5千円でした。1年で16%減っています。速さには投資しない、と決めた図書館の、量のほうの予算がいま減っている。ここは覚えておきたい数字です。
「早さ」ではなく「積み上がる楽しさ」の側の道具も、一度議題に上がっています。
令和2年3月の市議会で、議員が読書通帳の導入を提案しました。富山県立山町を視察した報告つきです。借りた本の題名と日付が通帳に印字され、子どもが自分で管理する。それが読書意欲につながっている、という話でした。
教育長の答弁は「以前から注目し、導入を研究していた」。そのうえで、県の「みきゃん通帳」を代わりに使っていること、機械の導入に約300万円かかることを挙げ、「効果を見きわめながら検討してまいります」で終わっています。令和8年度版の図書館要覧の沿革に、読書通帳の記載はありません。
1億円は断り、300万円は検討のまま置かれている。速く読む道具にも、ゆっくり読む道具にも、値札は付いていました。
最後に、ひとつ意外だった数字を書いておきます。
いまの図書館ができたときの説明が、平成20年12月の市議会に残っています。開館時間は午前9時半から午後6時まで。ところが、館内に備えたコミュニティーホールについては「利用可能時間につきましては午後10時まで」と述べられていました。最大100人程度が使える多目的なスペースとして計画されたものです。
本を借りる窓口は18時に閉まりますが、人が集まって話す部屋は22時まで開いている。当時の説明では、図書館事業として生涯学習講座の充実に努める場所でもある、とされていました。
10分で答えが欲しい人には、たぶんいちばん向いていない設計です。そしてこの本を読んだあとだと、そこが値打ちに見えてきます。
「10分で答えが欲しい」文化の対極にあるのが、大洲市立図書館のような場所だと思います。
本を借りて、時間をかけて読んで、こうして記事にするまで数日かかる。効率だけで考えたら割に合わない過程です。
それでも、この本を読んで「早く答えを知る」ことと「自分の頭で考える」ことは別物だと改めて思いました。
大洲でゆっくり本を読む時間そのものが、ファスト教養へのささやかな抵抗になっている気がします。