大洲のいま ・ 出典: 総務省ふるさと納税現況調査・市町村決算カード・大洲市議会会議録(情報源日付: 2026-07-31) ・ 約12分で読める
ふるさと納税の話、「いくら集まったか」で終わりがちやろ?
出ていく側を数えたら、大洲市民1,417人が1億879万円をよそに寄付しとった。
ほんでも差し引きすると、大洲はちゃんとプラスなんよ。その計算を見せるけんね。
3行でいうと調べた資料 15本
ふるさと納税の話は、たいてい「いくら集まったか」で終わる。受け取る側の話だ。
では、出ていく側はどうなっているのか。大洲市に住んでいる人がよその自治体に寄付をすれば、その分だけ大洲市の市民税は減る。
減った額は、総務省が毎年7月末に公表している。市区町村ごとに、1円単位で出ている。大洲市の行を探して、11年分を並べてみた。
令和8年7月31日公表の「ふるさと納税に関する現況調査結果」には、大きく2つの表がある。受け取った額の表と、住民税が減った額の表だ。後者の大洲市の行は、こうなっていた。
令和7年1月から12月までの間に、1,417人の大洲市民がよその自治体へ寄付をした。金額は1億879万2,800円である。
その結果、令和8年度に課税される住民税が減った。内訳は大洲市の市民税が4,973万9,813円、愛媛県の県民税が3,315万9,875円。合計8,289万9,688円だ。
ここで注意がいる。減ったのは大洲市の税金だけではない。個人住民税は市民税と県民税に分かれていて、大洲市民が1万円を寄付すると、市の取り分と県の取り分の両方が削られる。比率はおおむね6対4だ。つまり「大洲から出ていった8,290万円」のうち、大洲市の財布から出たのは4,974万円で、残りの3,316万円は愛媛県の財布から出ている。
1人あたりにすると7万6,777円。全国平均は11万580円だった(総務省の全国計から自分で割った)。大洲市民の1回の寄付額は、全国より3割ほど小さいことになる。
大洲市の人口は令和7年1月1日時点で39,040人。単純に割ると、市民27人に1人が使っている勘定になる。子どもも税金を納めていない人も分母に入れた数字なので、実際に寄付できる層のなかでの割合はもっと高い。
市民税の4,974万円がどれくらいの重さかというと、令和8年度当初予算の個人市民税15億9,706万円の3.1パーセントにあたる。
寄付した額から2,000円を引いた分が、そのまま税金から差し引かれるからだ。総務省の説明では、控除は3つに分かれる。
| 控除の種類 | 計算式 |
|---|---|
| 所得税から | (ふるさと納税額 − 2,000円) × 所得税の税率 |
| 住民税の基本分 | (ふるさと納税額 − 2,000円) × 10パーセント |
| 住民税の特例分 | (ふるさと納税額 − 2,000円) × (100パーセント − 10パーセント − 所得税の税率) |
3つを足すと、ちょうど「寄付額から2,000円を引いた額」になる。自己負担は2,000円だけ、と言われるのはここから来ている。
ただし特例分には上限がある。住民税所得割額の2割を超えられない。超えた場合は3つを合計しても寄付額に届かず、自己負担が2,000円を上回る。世間で「限度額」と呼ばれているものの正体はこれだ。
政府はこの制度を、令和4年12月9日の答弁書でこう説明している。「住所所在地の都道府県等に納める個人住民税の一部を他の都道府県等に実質的に移転させる効果を持つもの」。そのうえで、特例控除の上限を所得割額の2割に抑えているため「個人住民税の大半は住所所在地の都道府県等に残る」としている。
ワンストップ特例を使った場合は、所得税からの控除が行われない。その分も含めた全額が、翌年度の住民税から引かれる。使えるのは確定申告が不要な給与所得者で、寄付先が5団体以内の場合に限られる。
大洲市では、令和8年度課税の対象になった1,396人のうち837人がワンストップ特例を使っていた。約6割である。市に届いた申告特例通知書は2,216件あった。1人あたり2.6団体に寄付している計算になる。
総務省は同じ調査を毎年やっている。過去の分もすべてExcelで公開されているので、大洲市の行を1年ずつ拾って並べた。
| 課税年度(寄付した年) | 適用者数 | 寄付額 | 住民税控除額 |
|---|---|---|---|
| 平成28年度(平成27年中) | 115人 | 1,284万円 | 866万円 |
| 平成29年度(平成28年中) | 190人 | 2,207万円 | 1,477万円 |
| 平成30年度(平成29年中) | 258人 | 2,715万円 | 1,858万円 |
| 令和元年度(平成30年中) | 323人 | 3,484万円 | 2,240万円 |
| 令和2年度(令和元年中) | 359人 | 3,888万円 | 2,624万円 |
| 令和3年度(令和2年中) | 505人 | 4,636万円 | 3,247万円 |
| 令和4年度(令和3年中) | 744人 | 6,233万円 | 4,500万円 |
| 令和5年度(令和4年中) | 938人 | 7,190万円 | 5,361万円 |
| 令和6年度(令和5年中) | 1,101人 | 8,606万円 | 6,418万円 |
| 令和7年度(令和6年中) | 1,268人 | 9,539万円 | 7,190万円 |
| 令和8年度(令和7年中) | 1,417人 | 1億879万円 | 8,290万円 |
11年で控除額は9.6倍、人数は12.3倍になった。途中で前年を下回った年が1度もない。
受入額のほうは、同じ11年のあいだに平成29年度・令和元年度・令和4年度の3回、前年を割っている。ずっと右肩上がりなのは、出ていく側だけだ。
そして表のいちばん上の行、平成28年度課税の年を見てほしい。このとき大洲市はマイナスだった。
平成27年度に市が受け取ったふるさと納税は451万2千円。一方、平成28年度課税(平成27年中の寄付)の控除額は865万7千円である。差し引き約414万円のマイナス。大洲市も、はじめは取られる側だった。
流れが変わったのは平成28年度だ。市はこの年、ふるさと納税の推進業務を外部に委託し、インターネット受付とクレジット決済を導入し、返礼品を4品目から57品目へ増やした。平成28年6月13日の定例会では、それまで伸びなかった理由が「謝礼品が4品目と少なく他市町に比べて魅力に乏しかったこと」「銀行等での振り込みが主であったために寄附をされる方にとって利便性が悪かったこと」だったと説明されている。
その年の受入額は3,642万7千円。前年の8倍に跳ね上がった。そこからマイナスに戻ったことは一度もない。
面白いのは1人あたりの寄付額である。平成28年度課税は11万1,665円だったのが、令和8年度課税では7万6,777円まで下がっている。総額は増えているのに、1人あたりは小さくなっている。使う人が一部の高額所得者から広い層へ広がったということだと思われるが、ここは推測である。
では、市はこの数字をどう見ているのか。会議録を平成20年から令和8年まで全文検索したところ、表に出たのは2回だけだった。
1回目は令和2年12月15日の定例会。総務企画委員会の委員長報告に「大洲市民が他の自治体へふるさと納税を行うことにより市税の歳入が減少するが、他の自治体へのふるさと納税額の状況はどうなっているか」という質疑が記録されている。答えは「令和元年度中の他の自治体へのふるさと納税額は約3,790万円であった」。
2回目は令和5年3月7日の定例会。議員が「大洲市より他の市町へ流出しているふるさと納税の金額はどのくらいあるのか」と質問し、市長が「令和3年中の申告状況によりますと、727名の大洲市民の方が、約5,800万円他の自治体へふるさと納税をされている」と答えている。
この2つの数字を総務省の表と突き合わせてみた。市長の言う「727名・約5,800万円」は、令和4年度課税の表にある「都道府県等に対する寄附金(特例控除対象)」欄の727人・5,765万4,900円とぴたり一致する。令和2年12月の「約3,790万円」も、令和2年度課税の同じ欄の3,790万4,950円と一致した。市は総務省の調査票に自分で記入した数字を、そのまま議場で答えていることになる。この記事の数字がやや大きいのは、総務省が全国計に使っている「ふるさと納税に係る寄附金税額控除」欄を取っているためだ。こちらには複数の種類の寄付をあわせて申告した人の分などが含まれる。
質問した議員はこの答弁を受けて、「余裕のある人しかできないんです、よその他市町に対しては」と発言している。
その後はどうなったか。令和6年から令和8年の会議録を全文検索したが、控除額や流出額に触れた質疑も答弁も見つからなかった。この3年で控除額は6,418万円から8,290万円へ増えているが、議場では話題になっていない。
結論から書くと、約2億2,032万円のプラスである。そこにたどり着くまでに3回の引き算がいる。
1回目。令和7年度に大洲市が受け取ったふるさと納税は4億6,079万3,300円(17,770件)。ここから控除額8,290万円を引くと、3億7,789万円が残る。
なお受入額は令和7年4月から令和8年3月まで、控除額は令和7年1月から12月までの寄付が対象で、期間はぴたりとは重ならない。総務省自身が上位20団体の表でこの組み合わせを使っているので、同じ揃え方にした。
2回目。集めるには経費がかかる。返礼品代や事務費で2億2,804万2,734円、受入額の49.49パーセントだ(経費の中身は「大洲市のふるさと納税4.6億円。そのうち2.2億円は経費で消えていた」に書いた)。差し引くと手元に残るのは2億3,275万566円。ここからさらに控除額を引くと1億4,985万円になる。
3回目。ここだけ逆向きの引き算になる。減った市民税の75パーセントは、地方交付税で戻ってくるからだ。
仕組みはこうだ。普通交付税は「基準財政需要額 マイナス 基準財政収入額」で決まる。そして基準財政収入額は、標準的な地方税収入に75分の100を掛けて算出される。つまり市税が1円減れば基準財政収入額は0.75円減り、その分だけ普通交付税が0.75円増える。大洲市の令和6年度決算を見ると、基準財政需要額145億2,987万円、基準財政収入額50億4,764万円、その差額94億8,224万円がそのまま普通交付税として交付されている。財政力指数は0.35。まぎれもない交付団体である。
だから市民税の減収4,974万円のうち、3,730万円は交付税で戻る。市が実際に負担するのは1,243万円にすぎない。
2億3,275万円から1,243万円を引いて、約2億2,032万円。これが差し引きの答えである。
この75パーセントの補填については、参議院事務局の『立法と調査』がはっきり書いている。「地方公共団体がふるさと納税の受入額相当額について地方交付税が減少することはなく、控除額分(税金の減少分)についてもその75パーセントは地方交付税で補填されるが、東京都区部のような不交付団体については税収の純減となる」。受け取った寄付は交付税を減らさない。取られた分は4分の3が戻ってくる。交付団体にとっては、どちらの方向にも有利な設計になっている。裏を返せば、不交付団体では取られた分がそのまま消える。
総務省の2つの表から、県内20市町の「令和7年度受入額 マイナス 令和8年度課税の控除額」を自分で計算した。
| 順位 | 市町 | 受入額 | 控除額 | 差引 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 八幡浜市 | 47億7,766万円 | 9,693万円 | プラス46億8,073万円 |
| 2 | 今治市 | 36億2,269万円 | 5億1,091万円 | プラス31億1,177万円 |
| 3 | 愛南町 | 26億358万円 | 3,976万円 | プラス25億6,382万円 |
| 4 | 四国中央市 | 20億3,745万円 | 2億9,752万円 | プラス17億3,993万円 |
| 5 | 宇和島市 | 9億1,223万円 | 1億7,133万円 | プラス7億4,090万円 |
| 6 | 西条市 | 10億3,154万円 | 3億6,120万円 | プラス6億7,035万円 |
| 7 | 西予市 | 6億6,856万円 | 6,369万円 | プラス6億487万円 |
| 8 | 大洲市 | 4億6,079万円 | 8,290万円 | プラス3億7,789万円 |
| 9 | 伊予市 | 2億8,199万円 | 1億442万円 | プラス1億7,757万円 |
| 10 | 砥部町 | 1億4,206万円 | 4,631万円 | プラス9,575万円 |
| 11 | 伊方町 | 1億509万円 | 1,123万円 | プラス9,386万円 |
| 12 | 鬼北町 | 9,241万円 | 1,471万円 | プラス7,770万円 |
| 13 | 上島町 | 8,091万円 | 920万円 | プラス7,170万円 |
| 14 | 久万高原町 | 3,510万円 | 834万円 | プラス2,676万円 |
| 15 | 松野町 | 1,798万円 | 312万円 | プラス1,486万円 |
| 16 | 松前町 | 1億2,253万円 | 1億1,295万円 | プラス958万円 |
| 17 | 内子町 | 2,860万円 | 2,171万円 | プラス689万円 |
| 18 | 松山市 | 26億6,242万円 | 26億6,697万円 | マイナス455万円 |
| 19 | 新居浜市 | 3億6,968万円 | 4億8,845万円 | マイナス1億1,877万円 |
| 20 | 東温市 | 2,995万円 | 1億5,015万円 | マイナス1億2,019万円 |
大洲市は8番目。プラス側にいる。
マイナスは3市だけだった。東温市、新居浜市、松山市である。
意外だったのが松山市だ。県庁所在地だから大きく流出しているだろうと思っていたが、受入26億6,242万円に対して控除26億6,697万円。差はわずか455万円のマイナスで、ほぼ引き分けだった。
ただしこの表は経費を引く前の数字である。受入額の半分近くは返礼品や手数料で消えるので、経費まで引くとプラスの幅はどこも半分ほどに縮む。逆にマイナス側の3市は、減収の75パーセントが交付税で戻る。県内20市町は令和6年度決算で全市町が財源不足、つまり全市町が普通交付税の交付団体なので、この補填はどこにも効く。東温市の1億2,019万円のマイナスも、市民税分に限れば実質の負担は4分の1になる。
控除額そのもので順位をつけると、大洲市は県内11位である。松山市26億6,697万円、今治市5億1,091万円、新居浜市4億8,845万円と続いて、大洲市は8,290万円。人口では県内7番目なので、順位を4つ落としていることになる。大洲市民のふるさと納税の使い方は、県内では控えめなほうだ。
1人あたりの寄付額でも大洲市は目立たない。県内で最も高いのは東温市の9万8,488円、次いで松山市の9万6,049円。大洲市の7万6,777円は20市町中12番目だった(いずれも総務省の表から自分で計算した)。
一番意外だったのは、松山市がほぼ引き分けだったことだ。県庁所在地は流出超過だろうという思い込みがあったが、実際は返礼品でしっかり取り返していた。
交付税の75パーセント補填を知ってからは、この制度の見え方が変わった。取られた分の4分の3が戻り、もらった分は交付税を減らされない。交付団体にとっては、参加しないほうが損をする設計になっている。全国の自治体が経費5割ぎりぎりまで使って集めにいく理由が、少し腑に落ちた。
一方で、戻ってくる交付税の原資は全国から集めた税金である。誰かの負担がどこかで薄く広がっている構図は、補填があっても消えない。
大洲市民が出している1億879万円は、278億円の一般会計から見れば小さな額だ。それでも、11年間ずっと増え続けて一度も減っていないという事実のほうが、額そのものより気になった。
この記事をサイトに掲載した日: 2026/09/03