大洲の自由研究 #18
大洲市に空き家が何戸あるかは、もう分かっている。2,065戸だ。 市が人を出して、1軒ずつ外から見て回った数字がある。 分かっていないのは、それがどこにあるかのほうだ。 計画書の巻末近くに、地区別の表が1枚だけ載っている。33行ある。 その表を、同じ日付の世帯数と並べてみた。
大洲の空き家2,065戸が「どこにあるか」を、33地区に割ってみたんよ。
100世帯あたりで見ると、1.3戸の地区と68.6戸の地区がある。
同じ市の中で、濃さがこんなにちがうんよ。
出どころは大洲市空家等対策計画(平成30年8月策定)の9ページ[1]。 「空き家実態調査結果」という見開きに、33地区ぶんの表が印刷されている。 時点は平成29年3月31日。ランクの意味はこうだ。
| ランク | 点数 | 判定内容 |
|---|---|---|
| A | 0〜39点 | 小規模な修繕により再利用が可能 |
| B | 40〜69点 | 管理が行き届いていないが、当面の危険性は少ない |
| C | 70〜99点 | 管理が行き届いておらず、損傷が激しい |
| D | 100〜149点 | 倒壊の危険性があり、修繕や解体などの緊急度が高い |
| E | 150点以上 | 倒壊の危険性があり、緊急度が極めて高い |
| 不明 | ― | 建物に近寄れず、目視による判定ができなかった |
表1: 空き家実態調査のランク[1]
| # | 地区 | A | B | C | D | E | 不明 | 計 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 肱南 | 77 | 39 | 23 | 12 | 15 | 0 | 166 |
| 2 | 久米 | 13 | 16 | 11 | 8 | 4 | 4 | 56 |
| 3 | 肱北 | 33 | 28 | 29 | 17 | 6 | 0 | 113 |
| 4 | 若宮 | 12 | 5 | 6 | 5 | 3 | 0 | 31 |
| 5 | 五郎 | 10 | 1 | 2 | 2 | 2 | 0 | 17 |
| 6 | 田口 | 3 | 1 | 0 | 3 | 1 | 0 | 8 |
| 7 | 平 | 12 | 7 | 2 | 3 | 0 | 0 | 24 |
| 8 | 平野 | 49 | 26 | 29 | 9 | 2 | 4 | 119 |
| 9 | 南久米 | 9 | 24 | 18 | 16 | 6 | 2 | 75 |
| 10 | 菅田 | 41 | 26 | 16 | 11 | 3 | 0 | 97 |
| 11 | 大川 | 4 | 15 | 23 | 16 | 9 | 2 | 69 |
| 12 | 柳沢 | 4 | 15 | 26 | 20 | 3 | 8 | 76 |
| 13 | 新谷 | 49 | 29 | 28 | 10 | 4 | 1 | 121 |
| 14 | 三善 | 16 | 13 | 16 | 15 | 1 | 3 | 64 |
| 15 | 八多喜 | 27 | 25 | 27 | 10 | 5 | 9 | 103 |
| 16 | 上須戒 | 5 | 5 | 6 | 3 | 2 | 7 | 28 |
| 17 | 長浜(青島含む) | 50 | 25 | 18 | 22 | 35 | 3 | 153 |
| 18 | 沖浦 | 14 | 5 | 10 | 6 | 3 | 0 | 38 |
| 19 | 今坊 | 6 | 7 | 9 | 4 | 5 | 4 | 35 |
| 20 | 櫛生 | 23 | 21 | 11 | 7 | 2 | 4 | 68 |
| 21 | 出海 | 23 | 11 | 7 | 3 | 3 | 0 | 47 |
| 22 | 大和 | 16 | 3 | 5 | 9 | 2 | 7 | 42 |
| 23 | 豊茂 | 6 | 7 | 9 | 7 | 2 | 1 | 32 |
| 24 | 白滝 | 13 | 14 | 17 | 12 | 3 | 9 | 68 |
| 25 | 肱川中央 | 11 | 22 | 13 | 16 | 2 | 1 | 65 |
| 26 | 正山 | 6 | 11 | 14 | 11 | 0 | 3 | 45 |
| 27 | 大谷 | 8 | 9 | 10 | 3 | 5 | 2 | 37 |
| 28 | 岩谷 | 5 | 5 | 17 | 8 | 2 | 2 | 39 |
| 29 | 予子林 | 2 | 6 | 10 | 2 | 0 | 0 | 20 |
| 30 | 植松 | 6 | 11 | 14 | 4 | 2 | 3 | 40 |
| 31 | 坂本 | 7 | 15 | 22 | 15 | 4 | 7 | 70 |
| 32 | 大伍 | 5 | 12 | 11 | 7 | 1 | 4 | 40 |
| 33 | 北平 | 4 | 18 | 23 | 6 | 2 | 6 | 59 |
| 合計 | 569 | 477 | 482 | 302 | 139 | 96 | 2,065 |
33行を足し合わせると、A569・B477・C482・D302・E139・不明96、合計2,065戸。 計画書の集計欄とぴたり合う。転記の途中で数字は落ちていない。
ランクごとの戸数が何を意味するか、D・E判定の441戸をどう見るかは、別の記事で扱った。 この記事が引き受けるのは、その先のどこにあるかである。
図1: 地区別の空き家戸数(多い順)。色はランク別の内訳[1]
戸数の1位は肱南の166戸。2位が長浜153戸、3位が新谷121戸、4位が平野119戸、5位が肱北113戸。 どれも人が多い場所だ。ここまでは、たぶん誰が見てもそう思う。
ただ、この表だけを見ていても、地区の大きさが分からない。 肱南の166戸は、そもそも肱南に家がたくさんあるからかもしれない。
そこで分母を探した。同じ大洲市が、同じ平成29年3月31日現在で、 住民基本台帳の人口と世帯数を地区別に公表している[3][5]。日付が1日もずれていない。 これを重ねれば、「100世帯あたり何戸の空き家があるか」が出せる。
ところが、並べようとして引っかかった。2つの表は、地区の切り方が違う。
空き家の表は33行。人口の表は40行ある。名前も完全には一致しない。 空き家の表にあって人口の表にないのが、若宮・五郎・田口・大和の4つ。 逆に人口の表にしかないのが、喜多・仁久・青島・黒田・須沢・下須戒・穂積・上老松・戒川・大越・柴の11。
調べてみると、空き家の表の33地区は、市の公民館(現・コミュニティセンター)の区域だった[6]。 市が公表しているコミュニティセンター一覧は、肱南・久米・肱北・若宮・五郎・田口・平…と続く。 空き家の表とまったく同じ順番で並んでいる。一方の人口の表は「行政区」で、こちらは40。 公民館の区域より細かく割られている。
つまり、同じ市が、同じ日に、2つのちがう地区割りで数字を出しているわけだ。 片方は公民館の単位、片方は行政区の単位。どちらが正しいという話ではないが、そのままでは割り算ができない。 そこで、次の4つの手がかりで対応表を作った。
1つ目は、コミュニティセンターの分館の所在地。白滝コミュニティセンターには戒川分館と柴分館がある。 つまり白滝の区域は、行政区でいう白滝・戒川・柴をまとめたものになる。 同じように、河辺コミュニティセンターには植松・坂本・大伍・北平の4分館があり、これは行政区の4つとそのまま一致した。
2つ目は、コミュニティセンターの住所そのもの。大和コミュニティセンターの住所は「長浜町下須戒」である。 大和の区域に下須戒が入ることは、これで確かめられる。
3つ目は、旧村の組み合わせ。長浜町は昭和30年に、旧長浜町・喜多灘村・櫛生村・出海村・大和村・白滝村の 1町5村が合併してできた。喜多灘村は今坊と黒田の2村が明治22年に合わさったもので、 櫛生村には枝村として沖浦と須沢が付いていた。仁久は明治22年に上老松村から分かれて長浜町に入っている。 公民館の区域は、この旧村の形をかなり引きずっていた。
4つ目は、消去法。大洲地域は、空き家の表が16地区、人口の表が14地区。うち13は名前が一致する。 残るのは空き家側の若宮・五郎・田口と、人口側の喜多だけになる。 どちらの表も大洲地域を過不足なく覆っているのだから、喜多という行政区が、 若宮・五郎・田口という3つの公民館区に分かれている、と考えるしかない。
こうして作った対応表を使うと、40の行政区は33の公民館区にきれいに収まった。 人口44,634人・世帯20,119という市の合計も、地域ごとの小計も、すべて一致する。
正直に書いておくと、須沢を櫛生に、大越を白滝に入れたところは推定である。 旧村の並びと、市の資料での掲載順から判断した。市全体の合計には影響しないが、 櫛生と白滝の密度は、この判断次第で少し動く。
なお、若宮・五郎・田口の3地区は人口側で1つにまとまってしまう。 そのため以下の計算では、この3つを合算した1行として扱う。33地区が31行になる理由はこれだ。
出た数字がこれである。 密度の列は、どの出典にも載っていない。空き家の表と世帯数の表を割って、自分で計算した。
| 地区 | 空き家 | うちD・E | 世帯 | 空き家/100世帯 | 人口 H29→R7 | 人口増減率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 坂本 | 70 | 19 | 102 | 68.6 | 203→139 | −31.5% |
| 北平 | 59 | 8 | 98 | 60.2 | 165→118 | −28.5% |
| 大伍 | 40 | 8 | 80 | 50.0 | 145→77 | −46.9% |
| 岩谷 | 39 | 10 | 106 | 36.8 | 154→112 | −27.3% |
| 植松 | 40 | 6 | 118 | 33.9 | 219→140 | −36.1% |
| 柳沢 | 76 | 23 | 240 | 31.7 | 514→364 | −29.2% |
| 櫛生 | 68 | 9 | 272 | 25.0 | 566→417 | −26.3% |
| 出海 | 47 | 6 | 209 | 22.5 | 458→350 | −23.6% |
| 大谷 | 37 | 8 | 175 | 21.1 | 399→282 | −29.3% |
| 正山 | 45 | 11 | 226 | 19.9 | 602→494 | −17.9% |
| 肱川中央 | 65 | 18 | 356 | 18.3 | 819→575 | −29.8% |
| 大川 | 69 | 25 | 389 | 17.7 | 810→602 | −25.7% |
| 長浜(青島含む) | 153 | 57 | 895 | 17.1 | 1,828→1,408 | −23.0% |
| 予子林 | 20 | 2 | 121 | 16.5 | 296→220 | −25.7% |
| 豊茂 | 32 | 9 | 200 | 16.0 | 414→279 | −32.6% |
| 三善 | 64 | 16 | 411 | 15.6 | 898→739 | −17.7% |
| 八多喜 | 103 | 15 | 738 | 14.0 | 1,738→1,437 | −17.3% |
| 平野 | 119 | 11 | 904 | 13.2 | 1,990→1,849 | −7.1% |
| 上須戒 | 28 | 5 | 217 | 12.9 | 460→303 | −34.1% |
| 南久米 | 75 | 22 | 596 | 12.6 | 1,344→1,084 | −19.3% |
| 白滝 | 68 | 15 | 548 | 12.4 | 1,188→917 | −22.8% |
| 今坊 | 35 | 9 | 298 | 11.7 | 617→450 | −27.1% |
| 沖浦 | 38 | 9 | 337 | 11.3 | 675→504 | −25.3% |
| 肱北 | 113 | 23 | 1,216 | 9.3 | 2,482→2,174 | −12.4% |
| 大和 | 42 | 11 | 461 | 9.1 | 1,110→895 | −19.4% |
| 肱南 | 166 | 27 | 1,837 | 9.0 | 3,907→3,447 | −11.8% |
| 新谷 | 121 | 14 | 1,464 | 8.3 | 3,470→3,110 | −10.4% |
| 菅田 | 97 | 14 | 1,532 | 6.3 | 3,549→3,082 | −13.2% |
| 久米 | 56 | 12 | 1,259 | 4.4 | 2,746→2,415 | −12.1% |
| 若宮+五郎+田口 | 56 | 16 | 2,812 | 2.0 | 6,594→6,255 | −5.1% |
| 平 | 24 | 3 | 1,902 | 1.3 | 4,274→3,960 | −7.3% |
| 市全体 | 2,065 | 441 | 20,119 | 10.3 | 44,634→38,198 | −14.4% |
順位が、戸数の表とまるごと入れ替わった。 1位は河辺の坂本地区。102世帯に対して、空き家70戸。 人が住んでいる家3軒に対して、空き家が2軒ある勘定になる。 2位も河辺の北平で60.2、3位も河辺の大伍で50.0。 市内の上位5地区のうち4つを、河辺地域の4地区が占めている。
一方、戸数1位だった肱南は9.0で26位。新谷は8.3で27位。 最下位は平の1.3で、その1つ上が若宮・五郎・田口の2.0だった。 平と坂本の差は、52倍ある。同じ市の中の話だ。
危険な空き家に絞ると、坂本はさらに際立つ。D・Eランク19戸を102世帯で割ると、 5世帯に1戸近くが「解体が必要」と判定された空き家という計算になる。 市全体では100世帯あたり2.2戸なので、その8倍以上だ。
4つの地域に束ねると、構図がはっきりする。 大洲地域7.5、長浜地域15.0、肱川地域20.9、そして河辺地域52.5。 河辺地域が抱える空き家は209戸で市全体の10.1%だが、世帯数は398で市全体のわずか2.0%しかない。 空き家の重さが、そこだけ市の平均の5倍になっている。
ここで1つ、この計算の弱点も書いておきたい。分母の「世帯」には、アパート住まいも入る。 令和5年の住宅・土地統計調査では、大洲市で人が住んでいる住宅16,640戸のうち、 共同住宅が3,010戸、長屋建が1,010戸あった[8]。 集合住宅が多い中心部ほど分母がふくらむので、密度は低めに出る。 肱南や肱北の9前後という数字は、そのぶん割り引いて読む必要がある。
図3: 戸数と密度は別物。右下(多いが薄い)と左上(少ないが濃い)に分かれる
次に知りたいのは、この地図が人口減少の地図と重なるのかどうかだ。 同じ地区割りで、平成29年3月31日と令和7年12月31日の人口を比べてみた[3][4]。8年9か月ぶんである。 表3の右2列も、どの出典にも載っていない。地区別の人口の表を2つ突き合わせて自分で計算した。
市全体では、人口44,634人が38,198人になった。14.4%減。 ところが世帯数は20,119から19,252で、4.3%しか減っていない。 人は減るが、世帯の数はあまり減らない。1つの家に住む人数が減っていく形だ。
地域別では、大洲地域−11.4%、長浜地域−23.9%、肱川地域−25.9%、河辺地域−35.2%。 空き家の密度が高い地域ほど、その後よく減っている。
図4: 人口の減り方(平成29年3月→令和7年12月)。図2とほぼ同じ場所が濃く染まる
図5: 空き家の密度と、その後の人口増減率。相関係数は−0.66(独自計算)
31地区について、「100世帯あたりの空き家戸数」と「人口増減率」の相関係数を出してみた。 −0.66である。かなりはっきりした右下がりの関係だ。 空き家が濃い地区は、その後の8年9か月でよく人が減った。2枚の地図は、おおむね重なる。
もっとも、重なるからといって、どちらが原因とは言えない。 人が減ったから空き家が増えたのか、空き家が多い地区がもともと衰退の局面にあったのか、 この2つのデータだけでは分けられない。ここは相関があるという事実までにとどめておく。
面白いのは、ずれた地区のほうだ。世帯数が増えた地区が4つある。 若宮・五郎・田口(+6.3%)、平野(+4.9%)、平(+1.9%)、新谷(+1.9%)。 若宮・五郎・田口と平は、密度が最下位と最下位から2番目。ここは分かりやすい。
引っかかるのは平野だ。空き家119戸は市内4位で、密度も13.2と平均より高い。 それなのに世帯は増え、人口の減りは7.1%で市内2番目に小さかった。 ランクの内訳を見ると理由が見える。平野の119戸は、Aが49戸、Bが26戸。 再利用できるほうが75戸で、全体の63%を占める。D・Eは11戸しかなく、 100世帯あたりのD・Eは1.2戸で市内31地区中30位だった。 平野には空き家が多い。ただし、傷んでいない。数だけを見ていると、この差は見えない。
なぜ河辺や肱川に、これほど濃く残るのか。3つ調べた。
1つ目は、都市計画のかかり方だ。大洲市には「大洲都市計画区域」があるが、 その面積は4,296ヘクタールしかない[10]。 市の面積は432.12平方キロメートル、つまり43,212ヘクタールなので[7]、 都市計画がかかっているのは市域のちょうど1割ほどである。
愛媛県が作った大洲都市計画区域マスタープラン(平成30年3月)によると、 平成27年の時点で、用途地域内に15.4千人、用途白地地域内に19.2千人、 そして都市計画区域の外に9.5千人が住んでいた[10]。 市民のおよそ5人に1人が、都市計画の枠の外で暮らしている計算になる。 河辺・肱川・長浜の山間部や海沿いは、この「外」に当たる部分が大きい。
2つ目は、線引きがないことだ。大洲都市計画区域には、市街化区域と市街化調整区域を分ける 「区域区分」がない。マスタープランははっきりこう書いている。 「本区域は、平成37年の大洲市の行政人口予測がおおむね37.9千人と減少傾向であり、 世帯数及び産業、都市的土地利用も減少傾向であることから、市街地拡大の可能性は低い」 「『区域区分の有無の判断基準』にしたがい本区域には区域区分を定めない」[10]。 市街地が広がる心配がないから、線を引く必要もないという判断である。 実際、人口集中地区の面積は平成22年の239ヘクタールから平成27年の232ヘクタールへ縮んでいた。 広がるどころか、中心部そのものが小さくなっている。
3つ目は、家の余り方だ。計画書は、平成25年時点で大洲市の1世帯あたり住宅数が 1.25戸だったと書いている[1]。世帯の数より住宅の数が2割以上多い。 1つの世帯が引っ越しても、前に住んでいた家は残る。相続しても住む人がいなければ、そのまま残る。 だから空き家は、人口が減る速さより速く増える。
なお、この実態調査の現地調査は平成27・28年度、集計時点は平成29年3月末である。 平成30年7月豪雨の、1年4か月前だ。ここに載っている地図は、あの水害より前の写真になる。 肱南・東大洲・長浜が浸水したあと、この分布がどう変わったのかは、公表資料からは分からなかった。
国の統計とも突き合わせておく。 総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、大洲市の総住宅数は21,490戸、空き家は4,470戸、 空き家率は20.8%だった[8]。前回・平成30年は22.2%だったので、下がっている。 愛媛県の概要も「前回と比べ、内子町、松前町及び大洲市において空き家率は低下」と名指ししている。
ただし、これは全体の話だ。中身を割ると逆になる。
図6: 空き家4,470戸の中身(令和5年)。「その他」=賃貸・売却用でも別荘でもない、いわゆる放置空き家[8]
賃貸でも売却用でも別荘でもない空き家が、3,660戸。空き家全体の82%を占める。 これが総住宅数に占める割合は17.0%で、前回の15.9%より上がっている。 アパートの空室と別荘が減ったぶん全体の率は下がったが、放置された家は増えている。
この17.0%を県内で並べると、西予市24.7%、愛南町20.4%、宇和島市19.4%に次いで大洲市は4位。 全国平均は5.9%なので、その約3倍にあたる[8]。 愛媛県自体も12.2%で全国4位(前回6位)である。南予は県内でも上位に固まっている。
ちなみに市の実態調査(2,065戸)と国の統計(4,470戸)で数が倍ちがうのは、 数えているものが違うからだ[9]。 国の統計はアパートの空室や売り出し中の家も空き家に数える。 市の調査は自治会と水道の閉栓情報から入るので、管理されずに残った一戸建てが中心になる。
最後に、手が入っているのかを調べた。ここがいちばん引っかかった部分だ。
大洲市には危険空き家除却事業補助金がある。解体費用の8割・上限80万円を出す制度で、 平成28年度に創設された。会議録で実績を追うと、令和3年度は14件・1,120万円[14]、 令和5年度は19件・1,510万円が交付されている[13]。 どちらも20件分の予算に対しての数字だ。令和8年度は募集戸数が30戸(先着順)に増えている。
問題は要件のほうである。令和8年3月定例会の委員長報告に、こう書かれている[12]。
建物が2戸以上立ち並んでいる道路の沿道にあること、倒壊すれば前面の道路を塞ぎ避難等に支障を来すおそれがあるもの、1年以上使用している者がいない空き家住宅であるなどのほかに細かい要件が複数ある
「2戸以上立ち並んでいる道路の沿道」。これが効く。 坂本や北平や大伍のように、家が斜面に点々と散らばっている地区では、 この条件に当てはまる空き家のほうが少ないのではないか。
そう思って会議録を検索したら、まさにそれを質した質問が見つかった。 令和7年6月定例会で、議員が「補助の要件を見直し、全ての危険空き家に対し助成できるものにする必要がある」と 質問している。都市整備課長の答弁は、こうだった[11]。
この補助制度につきましては、国及び県の補助金を財源としており、制度の根拠となる補助要件は、県が定めた要綱に基づいております。そのため、補助対象となる空き家の条件は愛媛県内の全市町で統一されており、本市独自の判断で補助対象を拡大することは、現時点で困難であります
そして、はっきりこう続く。
したがいまして、避難路となる道路に面していない老朽危険空き家につきましては、現行制度の下では補助対象にならないものでございます
空き家がいちばん濃い地区ほど、家は散らばっている。散らばっているほど、補助は届かない。
制度が悪いという話ではない。この補助金は「倒壊して避難路を塞ぐこと」を防ぐための制度で、 その目的からすれば筋は通っている。ただ、目的が違う以上、 「空き家が多い場所を減らす制度」としては働かない。数字を並べてみて、そこがはっきりした。
もう一方の「活かす」側はどうか。空き家バンクは平成29年度の本格運用開始から令和7年6月までに 296件が登録され、うち165件(売買150・賃貸15)が契約に至っている[11]。 令和7年12月時点の掲載物件は49件だった[15]。
この登録物件が、どの地区のものかも調べてみた。市の空き家バンクの物件ページには 「地域名」と「地区名」が付いていて、しかも空家等対策計画と同じ地区割りを使っている[16]。 Wayback Machineに保存されている個別物件ページを集めたところ、107件ぶんの地区名が取れた。 地域別に束ねると、大洲地域90件、長浜地域14件、肱川地域3件、河辺地域0件。 空き家の密度が市内で断然1位の河辺地域から、1件も出てこなかった。
ここは慎重に書きたい。107件は登録296件の一部でしかなく、 たまたま保存されていたページを拾っただけの偏った標本である。 これをもって「河辺の物件が登録されたことはない」とは言えない。 それでも、大洲地域が9割近くを占めるという傾向自体は、動かないだろうと思う。
正直に3つ挙げておく。
平成30年7月豪雨のあと、この分布がどう変わったか。 実態調査は8年以上更新されていない。市の計画ページは、更新日が2018年8月31日のままだった(2026年8月30日に確認)。 第2期の計画も、新しい実態調査も、公表資料の中には見つからなかった[2]。
須沢と大越がどの公民館区に入るか。櫛生と白滝に入れたのは、旧村の並びからの推定である。
空き家バンク登録296件の地区別の全数。取れたのは107件の偏った標本だけだった。
いちばん意外だったのは、「空き家が多い場所」と「空き家が濃い場所」が、市内でまったく別の場所だったことだ。
肱南の166戸は市内最多で、たしかに目につく。けれど1,837世帯が住んでいる地区の166戸である。 坂本の70戸は、たった102世帯の地区の70戸だ。同じ「空き家」という言葉で数えているが、 そこで起きていることの意味は、まるで違う。
そしてもう1つ。濃い場所ほど、制度が届きにくい形になっていた。 補助金の要件は「2戸以上立ち並ぶ道路の沿道」で、空き家バンクの登録も9割近くが大洲地域に寄っている。 散らばって建っている家は、どちらの網にもかかりにくい。
計画書の9ページの表は、ただの33行の数字だった。 分母をあてがうまで、そこに52倍の差が隠れているとは思わなかった。
出典