大洲の自由研究 #22
大洲市の選挙人名簿登録者数は32,881人。条例の制定・改廃を求める直接請求に要る署名は658人分、議会の解散や市長の解職を求めるには10,961人分になる 10,961人分を集められる期間は1か月しかない。1日あたり365人。2026年4月の市長選で当選した人の得票10,453票より多い数である 住民監査請求は1人でできる。署名も手数料も要らない。ただし全国の市区町村で2年間に1,089件あり、認容されたのは38件だった
大洲で条例を変えてって言うには、署名が658人分いるんよ。
議会の解散や市長の解職やと10,961人分。しかも1か月で集めなあかん。
けど住民監査請求は1人でできる。署名も手数料も要らんのよ。
大洲市を変えたいと思ったとき、市民が制度として使える手は決まっている。
法律に書いてある。数も書いてある。
だからこの記事では、その手をひとつ残らず並べて、大洲の実数で何人になるのかを全部計算した。
先に結論を言う。署名がまったく要らない手がある。しかもそれは、いちばん強い手のひとつだ。
住民監査請求である。地方自治法242条。署名は1人分も要らない。手数料もかからない。
条文はこうなっている。
第二百四十二条 普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは
委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な
公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務
その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測
される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは
徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認める
ときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め……ることが
できる。長い一文だが、要するにお金と財産の話に限られている。道路を直してほしい、学校を残してほしいという話には使えない。使えるのは「そのお金の出し方はおかしい」という話だけである。
そのかわり、条件がとても軽い。ここが決定的に違うところなので、条文の主語だけを並べておく。
| 手段 | 条文 | だれができるか |
|---|---|---|
| 条例の制定・改廃の請求 | 74条 | 「選挙権を有する者」 |
| 事務の監査の請求 | 75条 | 「選挙権を有する者」 |
| 議会の解散の請求 | 76条 | 「選挙権を有する者」 |
| 議員・市長の解職の請求 | 80条・81条 | 「選挙権を有する者」 |
| 住民監査請求 | 242条 | 「普通地方公共団体の住民」 |
そして地方自治法10条1項は、住民をこう定義している。「市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする」。
選挙権とは書いていない。条文の上では、そこが分かれている。
期限もある。請求できるのは、その行為があった日から1年以内(242条2項)。1年を過ぎると原則として受け付けられない。監査委員は60日以内に監査して結果を出さなければならない(242条6項)。
大洲市の監査委員は、地方自治法195条2項により2人である(条例で増やすことはできる)。
この請求は全国でどれくらい使われているのか。総務省の「地方自治月報」が、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの2年分をまとめている。令和3年度は全国の市区町村で589件、令和4年度は500件。合わせて1,089件だ。
そのうち認容(監査委員が勧告を出した)のは、21件と17件で合わせて38件。3.5%である。
愛媛県内の市町では、2年間で5件しかなかった。内訳は今治市1件、新居浜市1件、四国中央市2件、宇和島市1件。大洲市は入っていない。認容されたものも、この5件の中にはない。
同じ表には請求人の数も載っていて、5件のうち3件は請求人1人である。1人でできるというのは、条文の建前ではなく実際にそうなっている。
658人と10,961人である。根拠になる数字から順に出す。
地方自治法74条5項は、分母を「選挙人名簿の登録が行われた日において選挙人名簿に登録されている者」と定めている。人口ではない。有権者でもなく、選挙人名簿の登録者数だ。
大洲市選挙管理委員会が公表している直近の定時登録は、令和8年6月1日現在で32,881人。地区別では大洲26,237人、長浜4,697人、肱川1,487人、河辺460人である。
ここから割り算をする。
・50分の1 … 32,881 ÷ 50 = 657.62 → 658人
・3分の1 … 32,881 ÷ 3 = 10,960.33 → 10,961人
いずれも「以上」なので、端数は切り上げになる。なお3分の1という割合が緩む特例は有権者40万人超の団体の話(76条1項ほか)なので、大洲市には関係がない。
集められる期間も法律で決まっている。地方自治法施行令92条3項は、政令指定都市以外の市町村では1か月以内と定めている(都道府県と政令指定都市は2か月)。
つまり、こうなる。
| 手段 | 条文 | 必要な割合 | 大洲での人数 | 出す先 | 集まったらどうなるか |
|---|---|---|---|---|---|
| 条例の制定・改廃の請求 | 74条 | 50分の1 | 658人 | 市長 | 20日以内に議会を招集し、意見を付けて議会にかける |
| 事務の監査の請求 | 75条 | 50分の1 | 658人 | 監査委員 | 監査委員が監査し、結果を公表する |
| 議会の解散の請求 | 76条 | 3分の1 | 10,961人 | 選挙管理委員会 | 住民投票にかけ、過半数の同意で解散(78条) |
| 議員の解職の請求 | 80条 | 3分の1 | 10,961人 | 選挙管理委員会 | 住民投票にかけ、過半数の同意で失職(83条) |
| 市長の解職の請求 | 81条 | 3分の1 | 10,961人 | 選挙管理委員会 | 住民投票にかけ、過半数の同意で失職(83条) |
| 副市長・監査委員などの解職の請求 | 86条 | 3分の1 | 10,961人 | 市長 | 議会にかける |
| 住民監査請求 | 242条 | 署名不要 | 1人 | 監査委員 | 60日以内に監査。理由があれば勧告 |
| 住民訴訟 | 242条の2 | 署名不要 | 1人 | 裁判所 | 監査請求を経ていることが条件 |
| 請願 | 憲法16条・法124条 | 署名不要 | 1人(議員の紹介が要る) | 議会 | 委員会に付託され、本会議で採決 |
| 陳情 | 規定なし | 署名不要 | 1人 | 議会 | 大洲市議会では請願と同じように扱われている |
| 情報公開請求 | 大洲市情報公開条例 | 署名不要 | 1人 | 実施機関 | 15日以内に公開・非公開を決定 |
| パブリックコメント | 大洲市の実施要綱 | 署名不要 | 1人 | 担当課 | 意見の概要と市の考え方を公表 |
| 市民ポスト | — | 署名不要 | 1人 | 企画情報課 | 市長まで回覧され、回答が作られる |
| 傍聴・会議録の閲覧 | — | 署名不要 | 1人 | — | だれでも本会議を傍聴できる |
| 選挙・投票 | 公職選挙法 | 署名不要 | 1人(立候補には供託金30万円・100万円) | 投票所 | 4年に1度、議員18人と市長を選ぶ |
74条だけ、もう1つ条件がある。地方税の賦課徴収、分担金・使用料・手数料の徴収に関する条例は請求の対象から外されている。税を下げる条例をつくれ、という直接請求はできない。
1か月で10,961人分を集めるということは、1日あたり365人になる。日曜も雨の日も休まずにこの人数だ。50分の1のほうでも1日22人ずつになる。
署名は請求代表者だけで集めなくてもよい。選挙権を持つ人に委任して集めてもらえる(施行令92条2項)。仮に1人が1日10人分ずつ集められるとすると、37人が30日間毎日動いて、ようやく届く計算になる。
658人は市議1人分の票、10,961人は市長1人分の票より多い。大洲の選挙の実数と並べると、そうなる。
いちばん下の棒は、本当は線にならない。1人は32,881分の1である。
2025年9月7日の市議会議員選挙は、定数18に21人が立候補した。有効投票は19,547票。得票を並べると、18位で当選した人が688票、19位で落選した人が678票だった。差は10票である。
条例の制定を求める直接請求に要る658人分は、この688票と30人しか違わない。議席を1つ動かすのに要る票の数と、条例案を議会の議題に上げるのに要る署名の数が、大洲ではほぼ同じ大きさになっている。
もう1つ、地区で見るとこうなる。河辺地区の選挙人名簿登録者は460人。658人は、河辺地区の有権者を全員足しても198人足りない。肱川地区(1,487人)なら44%の人が署名すれば届く。
10,961人のほうはどうか。
2026年4月26日の市長選挙は、当日有権者32,399人、投票者18,344人、投票率56.62%。有効投票は18,275票で、当選した人の得票は10,453票だった。
解職の請求に要る10,961人分は、これより508人多い。選挙で市長を選ぶときに必要だった票より、その職を住民投票にかけるための署名のほうが多い。しかも署名が集まった時点ではまだ何も決まらず、そこから住民投票をして過半数の同意が要る(83条)。二重の門になっている。
一方で、こういう見方もできる。同じ市長選で投票所に行かなかった人は14,055人いた。10,961人は、その78.0%にあたる。2025年の市議選のほうでも棄権は13,241人だった。必要な署名数より、投票に行かなかった人の数のほうが多い。
大洲地区(26,237人)だけで集めきろうとすると、その41.8%の署名が要る。
全国の実数を見ると、集まった後で否決されるほうがふつうである。
総務省の地方自治月報第61号が、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの2年間を集計している。市区町村の「条例の制定又は改廃の直接請求」は、全国で27件あった。
その内訳がこうだ。
| 段階 | 件数 |
|---|---|
| 請求代表者証明書は交付されたが、署名簿が出されなかった | 8件 |
| 却下 | 0件 |
| 議会に付議された | 19件 |
| うち否決 | 16件 |
| うち修正可決 | 2件 |
| うち可決 | 1件 |
27件のうち、原案どおり可決されたのは1件だけである。8件は署名を集める段階で終わっている。請求事項の内訳では、住民投票に関するものが17件でいちばん多い。
同じ2年間で、事務の監査の直接請求(75条)は全国で1件しかない。大分県の市町村の1件だけで、都道府県分は該当なしである。議会の解散の直接請求(76条)にいたっては0件。この2年間に議会の解散をめぐって記録されているのは7団体で、内訳は特例法による解散2件、特例法による解散議案の否決2件、全議員の辞職1件、市長の不信任議決を受けた解散2件。直接請求によるものは1件もなかった。解職の直接請求は5件で、全部が「長」に対するものだった。
議会の解散をめぐっては、この2年間の表に愛媛県八幡浜市が出てくる。市長選と市議選を同じ日にするために特例法で議会を解散する決議案が出され、令和3年6月18日に否決された、という記録である。直接請求ではなく、議会自身が出した議案だ。
大洲と近い規模の自治体で、実際に何人分の署名が集まったのかも見ておく。
| 自治体 | 有権者 | 法定署名数 | 集めた署名 | 有効と認められた署名 | 結果 |
|---|---|---|---|---|---|
| 長崎県時津町 | 23,883人 | 478人 | 2,593人 | 2,464人 | 否決 |
| 奈良県五條市 | 25,804人 | 517人 | 807人 | 558人 | 否決 |
| 山口県柳井市 | 26,467人 | 530人 | 1,628人 | 1,564人 | 否決 |
| 徳島県東みよし町 | 11,925人 | 239人 | 2,055人 | 1,153人 | 否決 |
| 高知県室戸市 | 11,095人 | 222人 | 1,828人 | 1,729人 | 修正可決 |
大洲市の658人は、この表の法定署名数(222〜530人)の少し上に来る。
効いてくるのは有効署名数の列である。東みよし町では2,055人分を集めて、有効と認められたのは1,153人分だった。902人分が落ちている。署名は名簿の登録と照らして審査され、住所や自署の要件を満たさないものは無効になる。集めた数がそのまま数えられるわけではない。
五條市は有効558人分。法定の517人分をわずか41人分だけ上回っている。署名総数807人分のうち249人分が無効になり、そこまで薄くなっても議会には届いた。そして否決されている。請求代表者は1人だった。
なお、2年間で唯一「可決」まで行った1件は鳥取県倉吉市である。学校の設置条例を改正した条例を廃止せよ、という請求だった。有権者38,158人、法定署名数764人分に対して、有効署名は4,815人分あった。
そして2年間で唯一、直接請求から住民投票まで通しでたどり着いたのが室戸市だった。請求代表者は1人。集まった有効署名は1,729人分で、法定の222人分の7.8倍にあたる。議会は原案を修正して可決し、市庁舎の整備について賛否を問う条例が令和4年11月29日に施行された。住民投票は翌年2月19日に行われている。投票率46.43%。選択肢は「移転・建替え」と「耐震補強・改修」で、それぞれ1,506票と3,478票だった。
つまり全国を見渡しても、署名を集めて条例をつくらせ、住民投票までいった例は2年に1件という頻度である。
住民監査請求と住民訴訟のほかに、署名なしで使える手が6つある。それぞれ入口も出口も違う。
請願(憲法16条・地方自治法124条)。法律の条文はたった一行だ。
第百二十四条 普通地方公共団体の議会に請願しようとする者は、議員の紹介により
請願書を提出しなければならない。署名は要らないが、議員の紹介が要る。大洲市議会は「議会のしくみ」のページで、こう書き添えている。「ただし、大洲市議会では議長、副議長及び当該事項を所管する委員会の正・副委員長は紹介議員にならないよう申し合わせています」。
議員は18人。ここから議長、副議長、その案件を所管する委員会の委員長と副委員長が外れる。役職の重なりがなければ4人が抜けるので、紹介を頼める相手は14人ということになる。市議会のサイトには請願書と陳情書の書式見本(Word)が置かれている。
陳情。地方自治法に陳情の規定はない。市議会のページは「陳情はその内容において請願と差異はありませんが、議員の紹介は不要です」と説明している。実際の扱いも同じで、大洲市議会では陳情も委員会に付託され、委員長報告を経て本会議で採決されている。
では、出したものはどうなるのか。市議会の会議録307回分(平成20年3月〜令和8年6月)から、本会議での採決の結果を機械的に拾ってみた。
| 結果 | 請願 | 陳情 |
|---|---|---|
| 採択 | 8件 | 3件 |
| 趣旨採択 | 7件 | 2件 |
| 不採択 | 44件 | 7件 |
| 継続審査のまま記録が途切れたもの | 5件 | 1件 |
決着がついた分でみると、請願は59件のうち採択8件で13.6%。趣旨採択まで含めても25.4%である。陳情は12件のうち採択3件で25.0%、趣旨採択を含めて41.7%になる。件数が少ないので確かなことは言えないが、紹介議員が要らないほうが通っていないわけではない。
出された数そのものも数えた。会議録に出てくる請願番号と陳情番号は、市議選のたびに1番から振り直される。任期ごとの最大番号を数えるとこうなる。
| 任期 | 請願 | 陳情 |
|---|---|---|
| 2009年10月〜2013年9月 | 28件 | 1件 |
| 2013年9月〜2017年9月 | 48件 | 1件 |
| 2017年9月〜2021年9月 | 18件 | 5件 |
| 2021年9月〜2025年9月 | 11件 | 4件 |
| 2025年9月〜(1年目) | 2件 | 1件 |
48件から11件へ、4分の1以下に減っている。内容を見ると、請願の大半は「国に意見書を出してほしい」という形のもので、大洲市自身の施策を求めるものは少ない。労働団体や政党の関係団体が全国一斉に出しているものが多く、大洲市固有の話は陳情の側に寄っている。
その陳情の側で、直近に1件通っている。令和7年12月定例会で、「愛の森トンネル」と「敷水トンネル」の中で携帯電話がつながるようにしてほしいという陳情が全会一致で採択され、議会はそのまま意見書を提出する議案を可決した。同じ日、学校給食の無償化を求める請願は起立少数で不採択になっている。
情報公開請求。大洲市情報公開条例(平成17年1月11日条例第10号)が根拠になる。第1条は「市民の知る権利を明らかにし」と書いている。
ただし「誰でも」ではない。第5条が請求できるものを5つに限っている。市内に住所がある人、市内に事務所か事業所がある個人と法人、市内の事務所や事業所に勤めている人、市内の学校に在学している人、そして実施機関の事務や事業に利害関係がある個人と法人。市外に住み、通勤も通学もしていない人は、利害関係を示さないと請求できない。
閲覧は無料(16条1項)。写しをもらうときだけ実費がかかる。決定は請求から15日以内、やむを得ない場合は60日を限度に延ばせる(12条)。実施機関は市長だけでなく、議会、教育委員会、選挙管理委員会、監査委員など9つある(2条1項)。
そして条例30条により、市は毎年その運用状況を公表している。令和5年度の公文書公開請求は9件だった。全部公開1件、部分公開8件、非公開決定0件、却下0件、審査請求0件。
32,881人の有権者に対して、1年で9件。単純に割ると3,653人に1件である。個人情報の開示請求のほうは18件(市長3件、病院事業管理者15件)あった。
パブリックコメント。大洲市は条例ではなく「大洲市パブリックコメント制度実施要綱」で運用している。対象は総合計画などの基本的な計画と、市民に義務を課し権利を制限する条例の制定・改廃。募集期間は1か月程度で、郵便・電子メール・ファクスでも受け付ける。原則として住所と氏名を明らかにすることが求められ、電話での受付はできない。
集まる意見の数は、案件によって極端に違う。
| 案件 | 募集期間 | 集まった意見 |
|---|---|---|
| 大洲市復興計画≪暫定版≫ | 平成30年12月13日〜平成31年1月11日 | 2名から8件 |
| 大洲市パートナーシップ宣誓制度(案) | 令和4年12月20日〜令和5年1月19日 | 37人・1団体(ほかに市外3人) |
| 大洲市立地適正化計画の変更 | 令和7年10月10日〜11月10日 | 0件 |
立地適正化計画の変更は、水害のリスクを分析して防災指針を加えるものだった。説明会も大洲地区と長浜地区の2回開かれている。それでも意見は1件も出ていない。市のページの見出しにも「〈募集終了しました(意見なし)〉」とそのまま書かれている。
市民ポスト。市役所本庁、各支所、そして21のコミュニティセンターに置かれている。若宮・五郎・田口・肱川中央・正山・大谷・岩谷・予子林・河辺の9つのコミュニティセンターには置かれていない。
流れは市が説明している。企画情報課で受け取り、内容に応じて関係部局から市長まで回覧・共有される。回答は担当者が案を作り、部局内の承認を経て返される。
そしてここが大事なところだ。市の回答にこう書いてある。「なお、市議には共有しておりませんが、公表しても可となっている意見については、市公式ホームページで誰でも閲覧可能としております」。
市民ポストは行政に届く回路であって、議会に届く回路ではない。議会に届けたければ請願か陳情になる。公表されている回答は、2018年から2025年までで75件。1年あたり9.4件になる。公表を承諾したものだけなので、実際に投かんされた数はこれより多い。
傍聴と会議録。本会議はだれでも傍聴できる。開会中は本庁1階ロビーと各支所でモニター放映があり、ケーブルネットワーク西瀬戸に加入していれば録画放送を自宅で見られる。委員会は委員長の許可があれば傍聴できる。会議録は図書館と議会事務局で閲覧できるほか、市のサイトに全文が載っている。定例会は年4回、3月・6月・9月・12月である。
住民監査請求は0円。住民訴訟は印紙代13,000円。そして大洲の実例では、訴訟が終わるまでに8年半かかっている。
住民監査請求に手数料の規定はない。かかるのは書面をそろえる手間と郵送代くらいだ。結果は60日以内に出る。
その結果に納得できないとき、次の段が住民訴訟(242条の2)になる。監査請求をしていないと訴えられない。これを監査請求前置という。しかも期限が短い。監査の結果の通知があった日から30日以内(242条の2第2項)。この30日は不変期間で、延ばせない。
費用はこう計算する。民事訴訟費用等に関する法律4条2項は、財産権上の請求でない訴えの目的の価額を160万円とみなすと定めている。別表第一の一の項は、100万円までの部分は10万円ごとに1,000円、100万円を超え500万円までの部分は20万円ごとに1,000円としている。
160万円なら、10,000円 + 3,000円で13,000円。控訴すればその1.5倍で19,500円、上告は2倍で26,000円になる。
さらに242条の2第12項に、こういう規定がある。訴えた住民が勝訴(一部勝訴を含む)して弁護士に報酬を払うべきときは、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を、市に請求できる。
では時間はどれだけかかるのか。大洲市に実例がある。
平成19年11月、図書館用地の取得をめぐる住民監査請求が却下された。翌12月、住民訴訟が提起されている。一審の判決が出たのは平成24年5月30日。市は「主張が一部認められなかった判決には承服しがたく、上級審の判断を仰ぐため控訴する」として、控訴の議案を6月定例会に提出した。訴訟が結審したのは平成28年6月である。
提訴から結審まで、8年半。この間、市は土地開発公社の解散手続きを「訴訟事件の審議も見守りつつ」進めていた、と平成29年6月の議会で説明している。
選挙に出る側のお金も並べておく。公職選挙法92条1項が供託金を定めている。政令指定都市以外の市の議員は30万円、市長は100万円。93条1項は、得票が一定に届かないと供託金が市に帰属すると定めている。
大洲の実数で計算するとこうなる。市議会議員選挙の没収ラインは「有効投票の総数 ÷ 定数 ÷ 10」なので、2025年の選挙なら19,547 ÷ 18 ÷ 10 = 108.6票。市長選挙は有効投票の10分の1なので、2026年なら18,275 ÷ 10 = 1,827.5票。
2025年の市議選は21人全員がこのラインを大きく超えている。いちばん少ない人でも496票だった。
直接請求の記録は、見つからなかった。
市議会の会議録307回分(平成20年3月〜令和8年6月)を「直接請求」「事務監査」「解散請求」「代表者証明」といった語で全文検索したが、大洲市で直接請求が行われたことを示す記録は1件も出てこなかった。「リコール」という語のヒットは自動車のリコールとがん検診の受診勧奨の話だった。
住民監査請求のほうは、記録がある。ただし多くはない。総務省の調べでは、令和3年度と令和4年度に愛媛県内であった5件に大洲市は含まれていない。会議録から確認できるのは、前の節で書いた平成19年11月の1件である。これは却下され、住民訴訟につながった。
住民投票については、議会で何度も話題になっている。平成21年12月、平成24年12月、平成25年12月の定例会で、山鳥坂ダムの建設や伊方原発の再稼働について住民投票を行う考えはないかという質問が出た。答弁はいずれも否定的で、平成21年12月には「住民投票にはなじまない課題である」と述べられている。大洲市の例規集を五十音順の目次で引いても、常設の住民投票条例は見当たらなかった。
つまり大洲で住民投票をしようとすれば、74条の直接請求で条例をつくらせるところから始めることになる。658人分の署名を集めて議会に付議させ、そこで可決されて初めて投票ができる。全国で2年に1件の道筋である。
一方で、署名の要らない手のほうは動いている。請願と陳情はこの18年で77件が採決され、そのうち11件が採択、9件が趣旨採択された。情報公開請求は年に9件出ている。市民ポストの回答は8年で75件公表されている。パブリックコメントには37人が意見を出した回もあれば、0件の回もある。
並べた手は15ある。署名が要る6つは、大洲で動いた記録が見つからない。残りの9つは動いている。これがいまの姿だ。
・大洲市の直接請求の有無を、会議録以外で確かめられなかった。総務省の地方自治月報は令和3年度以降しかまとめて公開されておらず、それ以前について愛媛県内の市町ごとの記録を見つけられなかった。会議録に出てこないというだけで、「一度もなかった」と断定はできない。
・平成19年の住民監査請求の詳しい中身と、平成28年6月に結審した住民訴訟の結論。議会の会議録には「結審した」という事実までしか出てこない。判決の内容にたどり着けなかった。
・市民ポストに実際に何件投かんされているか。公表されているのは投稿者が公表を承諾したものだけで、総数は公表されていない。
・請願・陳情の採決結果は、本会議の会議録から機械的に拾ったものである。委員会限りで処理されたものや、会議録の言い回しが違うものは拾えていない可能性がある。任期ごとの件数も、番号の最大値から数えたものだ。
・大洲市の監査委員の実際の構成。地方自治法195条2項が2人と定めていることは条文で確かめたが、大洲市が条例で増やしているかどうかは、市の例規集にアクセスできず確かめられなかった。
658人という数の小ささだった。
10,961人はさすがに遠い。1日365人を1か月というのは、組織のない個人にはほぼ無理な数字だと思う。
でも658人は、市議1人を当選させる票(688票)とほとんど変わらない。五條市は有効558人分で議会に届いている。1人が1日10人ずつ集められるなら、3人が30日動けば足りる計算になる。
そして住民監査請求は、1人でできる。署名も要らないし、お金もかからない。使えるのはお金の話に限られていて、1年という期限があって、認容率は3.5%だ。それでも、入口の高さがゼロである制度が1つだけ用意されているというのは、条文を並べてみるまで自分でも分かっていなかった。
数えてみると、制度の側は思ったより開いていた。動いていないのは入口の外側だった。
出典