大洲の自由研究 #23
国のパブリックコメントは、意見が10件以下で終わる案件が8割。7年度分すべてで中央値は「1〜10件」だった。大洲市の5人は、少なすぎるどころか真ん中にあたる 643人・645件が集まって案が1文字も変わらなかった例と、27人・67件で17か所が書き換わった例がある。数と結果に、単純な関係はない 制度の建前は「量ではなく内容」。だが実証研究では、案が変わるかどうかに効いていた唯一の要因が「意見の数」だった
大洲市の計画に意見を出したんは5人。少なすぎるように見えるやろ。
けど国のパブリックコメントは、8割が10件以下で終わっとるんよ。
643人集まって1文字も変わらんかった例と、27人で17か所変わった例がある。
2024年、横浜市が条例の改正案について意見を募集した。集まったのは4人・17件だった。
その1件目に、こう書かれている。
この人の疑いは、当たっていた。市が公表した結果には、こうある。
4人が17件出して、案は1文字も変わらなかった。「形式的にやっているだけではないか」という意見に対して、案を変えないという形で答えが返ったことになる。
パブリックコメントは効くのか。効くとしたら、何件から効くのか。数を集めた側が勝つ制度なのか。
条文と、全国の統計と、実際に変わった記録を並べて調べた。結論を先に書くと、数では決まっていなかった。ただし「数は関係ない」とも言い切れない。そのねじれが、この制度のいちばん面白いところだった。
大洲市には平成19年4月1日施行の「大洲市パブリックコメント制度実施要綱」がある。市が計画や条例の案を出し、市民が意見を出し、市が「考え方」を返す。
結果が公表されている案件のうち、内容を1件ずつ確認できたのは9件だった。そのうち、市が「意見を反映して案を変えた」と書いているのは1件だけである。
第3次大洲市総合計画基本構想の案で、市はこう書いている。
提出者は5人、意見は21件。そのうち1件が通り、2035年の目標人口が1,000人増えた。もとの30,000人に対して3.3パーセントの引き上げになる。
大事なのは、大洲市が「変えた」だけでなく「変えなかった」もはっきり書いていることだ。幼稚園・保育所再編計画の素案では、こう明記されている。
つまり「反映1件」は例外的な書き方ではない。同じ様式で書かれた9件のうち、変わったのが1件だったということである。
過去にさかのぼると、いちばん意見が多かったのは平成20年5月の小学校統廃合計画案で107件・100人超。市自身が議会で「最も御意見の多かった計画」と答弁している。近年で最も多いのはパートナーシップ宣誓制度の案で37人・1団体だった。
いちばん少なかったのは、ゼロである。市は議会でこう答えている。
市がシステムに記録を持っている32件の平均は、1件あたり7.2件。平均アクセス数は266件だった。これは市が自分で計算して議会で述べた数字である。
「たった5人」と読むかどうかは、比べる相手による。
国のパブリックコメントについて、総務省が毎年度、施行状況を調べている。意見が何件集まったかを階級別に集計した表が載っている。7年度分を並べた。
| 年度 | 案件数 | 意見0件 | 1〜10件 | 10件以下の累計 |
|---|---|---|---|---|
| 平成18 | 761 | 47.0% | 36.1% | 83.2% |
| 平成20 | 931 | 47.8% | 36.5% | 84.3% |
| 平成21 | 765 | 45.3% | 39.1% | 84.4% |
| 平成25 | 722 | 30.1% | 52.4% | 82.4% |
| 平成27 | 1,030 | 28.6% | 53.2% | 81.8% |
| 平成28 | 939 | 22.0% | 62.4% | 84.5% |
| 平成29 | 999 | 19.5% | 60.5% | 80.0% |
どの年度でも、8割が10件以下で終わっている。
累計から中央値がどの階級に入るかを計算すると、7年度すべてで「1〜10件」の階級になる。真ん中の案件が集める意見は、10件以下だということである。
意見が0件の割合は47.0パーセントから19.5パーセントへ下がっている。減ったぶんは1〜10件の階級に移った。意見が入るようにはなったが、入る量は10件以下のままだ。
愛媛県でも同じことが起きている。県が公表している実施結果の一覧を数えた。
| 年度 | 実施案件 | 意見がゼロだった案件 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 令和5年度 | 38件 | 17件 | 44.7% |
| 令和7年度 | 24件 | 16件 | 66.7% |
令和7年度は、3件に2件が意見ゼロだった。
大洲市の5人・21件は、この分布の中では珍しい数字ではない。むしろ平均より上である。
同じ「総合計画」という最上位の計画で、県内をそろえて比べた。
| 提出者 | 人口 | 何人に1人 | 案の修正 | |
|---|---|---|---|---|
| 大洲市 | 5人 | 36,152人 | 約7,200人に1人 | 1件 |
| 今治市 | 3名 | 139,392人 | 約46,500人に1人 | 記載なし |
| 宇和島市 | 1人 | 61,836人 | 約61,800人に1人 | 記載なし |
| 愛媛県 | 5人 | 1,244,782人 | 約249,000人に1人 | 4か所 |
人口で割ると、大洲がいちばん多い。宇和島の8.6倍、愛媛県の34.6倍の密度になる。
さらに言えば、人口が34倍ある愛媛県も、提出者は同じ5人だった。人口とは連動していない。
募集期間にも差がある。大洲は要綱で30日以上を確保しているが、今治と宇和島の総合計画は14日間だった。
制度の形も違う。大洲市・松山市・愛媛県は要綱、つまり役所内部の取り決めで運用している。県内で条例にしているのは伊予市である。条例は議会の議決を経るので、市長が替わっても勝手には変えられない。
数が結果を決めているのかを見るには、両端を並べるのが早い。横浜市は、案件ごとに「提出者数・意見件数・案修正の有無」を一覧で公表している。
左から右へ人数が増える。◯と✕が並ばない。643人で✕、27人で◯が出ている。
| 案件 | 提出者 | 意見 | 修正 |
|---|---|---|---|
| 開発事業の調整等に関する条例の骨子案 | 4人 | 17件 | 無 |
| 新型インフルエンザ等対策行動計画 | 27人 | 67件 | 有(17件反映) |
| 公園を禁煙にすること | 643人 | 645件 | 無 |
| 第5期教育振興基本計画の素案 | 9,737人 | 36,697件 | 有 |
643人が集まっても案が変わらず、27人で17か所が書き換わっている。
公園の禁煙のほうは、反対が多かったから通したわけではない。645件の内訳は、全面禁煙を望む意見が404件、分煙環境の整備を望む意見が146件、否定的な意見が57件だった。賛成が多数派だったのに、案は1文字も変わっていない。案がすでにその方向だったからである。
一方の27人のほうは、何が変わったのか。市が「御意見を踏まえ、原案に反映するもの」と分類したのが67件中17件、25.4パーセント。具体的には、こういうものだった。
・「抗ウイルス薬だけでなく、対症療法用の医薬品の備蓄も必要ではないか」という1行の意見で、計画の2か所に医薬品の備蓄が書き足された
・「『サーベイランス』なんて一般的に使われていない言葉を使わないでください」という意見で、用語集に解説が足された
・「分かりやすい表現を用いる」という一文が計画本文に加わった
大洲でも同じことが確かめられる。第2期の幼稚園・保育所等再編計画では、地域が署名活動までしたうえで8名・21件の意見が集まった。「やめるべきです」という反対を含んでいる。だが計画の記述は変わっていない。
数を集めても変わらないし、少なくても変わることがある。
では何で決まるのか。制度の側は、はっきり答えている。
e-Govのパブリック・コメント制度の説明ページには、こう書いてある。
総務省の説明も同じである。
同じ文面を100通送っても、1通と同じ扱いになる、と政府が明言していることになる。根拠は行政手続法43条2項で、同一の趣旨の意見が多数あるときは、その総数と代表的な内容を示せばよいと定められている。実際、平成29年度は提出意見のあった795件のうち571件(71.8%)が「整理・要約」した形で公示されている。
ところが、実際に何が効いているかを調べた研究は、逆のことを言っている。
行政学の研究者が、平成21年度に意見が提出された全412件のデータを情報公開請求で入手し、案が修正されたかどうかを統計的に分析している。結果は明快だった。規制政策でも給付政策でも、そろって有意だったのは「提出意見の数」だけである。周知の有無も、意見を募集した期間の長さも、効いていなかった。規制政策では、意見の数が増えると修正の起こりやすさが4.8倍になっていた。
建前は「量ではない」。データは「量が効いている」と言っている。
この矛盾は、こう解ける。この研究を引く別の論者は、意見の数は意見の質の代わりの物差しとして使えると述べている。意見が100件来れば、その中に説得力のある1本が混ざっている確率が上がる。行政は数に従っているのではなく、数が多い山からは良い意見が出やすいというだけかもしれない。
ただし、総務省自身の運用にも数は入っている。平成27年の運用改善の通知では、提出意見が100件を超える案件は大臣まで上げて確認することになっている。建前は「量ではない」のに、運用は件数で扱いを変えている。
「内容」で決まるとして、どういう内容なら通るのか。ここは、実際の結果公表を読むといちばんはっきりする。
金融庁が2025年に監督指針を改正したとき、結果の公表資料が44ページ分ある。同じ資料の中で、通った意見と通らなかった意見が並んでいる。
通ったのは、こういう形だった。ある提出者は、案の記述の矛盾を指摘したうえで、「〜という記載に変えたほうがよいのでは」と直した文案をそのまま書いて出した。金融庁の回答はこうである。
別の意見は、変更前と変更後を並べて提出していた。回答はこうだった。
一方、同じ資料の中で、根拠を示さない反対意見や一般論に返っているのは、この一文だけである。
通ったのは、案の文章の矛盾を指摘して、直した文案を添えたものだけだった。
消費者庁でも同じ形が見られる。いわゆるステルスマーケティングの運用基準を定めたとき、判例を引いて用語の意味を説明した意見によって定義の柱書きが書き直され、変更前後の対照表が19ページ分公表されている。
国が林業労働力の基本方針を作ったときは、50人・86件で「趣旨を踏まえ修正するもの5件」。ハラスメント防止対策の一文と、技能実習法の条文についての一文が、本文に追加された。厚生労働省は「御意見を踏まえ、ハラスメント防止対策を記述」と、どこを直したかを明記している。
横浜の「対症療法用の医薬品の備蓄も必要ではないか」も、同じ型である。具体的で、短く、その通りにすれば直せる形をしていた。
なお、意見によって計画そのものが撤回・中止されたと行政が公表している例は、探した範囲では見つけられなかった。報道ではそう説明されるものがあるが、一次資料に「意見を踏まえて取り下げた」と書いてあるものには行き当たらなかった。
意見が集まらない理由については、市議会に手がかりが残っている。
令和8年6月の定例会で、実際にパブリックコメントを出した人から聞き取った内容として、こう紹介されている。
大洲市の要綱は、意見を出すときに氏名・住所を書くことを原則としている。案件によっては連絡先まで求めている。提出された意見を公表するときに個人情報は除かれるが、出す時点では名乗る必要がある。
これは大洲だけの決まりではなく、国の制度でも同じである。匿名では出せない。
その代わりに、答えは返ってくる。行政手続法43条1項は、意見公募手続をとった場合に「提出意見を考慮した結果及びその理由」を公示しなければならないと定めている。総務省の調べでは、平成27年度に提出意見のあった727件のうち、これを公示していたのは717件、98.6パーセントだった。
案が変わらなくても、なぜ変えなかったかは文章で残る。横浜の4人の例で言えば、「形式的にやっているだけではないか」という問いに対して「修正はありません」という回答が公文書として残り、この記事がそれを引用できている。その意味では、あの4人の意見は無駄になっていない。
市の側がこの制度をどう見ているかも、議会に残っている。平成26年6月の定例会で、財政課長がこう述べている。
行政は最初から、多数決の道具としては見ていない。
最後に、制度の土台を確かめておく。ここが分かると、これまでの数字の見え方が変わる。
行政手続法の第6章が意見公募手続を定めている。だが同法3条3項によって、地方公共団体の命令等については、この第6章は適用されない。46条で「必要な措置を講ずるよう努めなければならない」という努力義務になっているだけである。
つまり、大洲市のパブリックコメントは、法律で義務づけられたものではない。市が自分で要綱を作ってやっている。
この結果、2つのことが起きている。
ひとつは、やっていない自治体があること。総務省の調べ(平成29年10月1日現在)では、都道府県は97.9パーセント、指定都市・中核市は100パーセントが制度を持っているが、その他の市区町村は892団体・54.5パーセントにとどまる。半分近くが制度そのものを持っていない。しかも制度の形が条例なのは全国で237団体だけで、残りは要綱などの内部の取り決めである。大洲市も要綱である。
もうひとつは、全国の統計が存在しないこと。総務省の地方公共団体向けの調査には、意見公募手続の項目が入っていない。理由も明記されている。
だから「自治体のパブリックコメントの反映率は何パーセントか」という問いには、日本のどこにも答えがない。この記事で国の数字と自治体の数字を並べているのは、そうするしかないからである。
もうひとつ、国と自治体では対象そのものが違う。国の意見公募手続の対象は政令や省令などの「命令等」であって、計画は入っていない。自治体のパブリックコメントは総合計画のような計画が中心である。性質としては、国の任意の意見募集のほうが近い。
分かったことを、順に並べる。
数では決まっていない。 643人で変わらず、27人で17か所が変わった。4人で変わらず、50人で5件が変わった。大洲でも、署名活動を伴った8名・21件で計画は変わっていない。
5件は少なくない。 国のパブリックコメントは8割が10件以下で、中央値の階級は7年度すべて「1〜10件」だった。愛媛県は令和7年度、24件のうち16件が意見ゼロである。大洲の5人は、人口で割れば県内でいちばん多い。
通るのは、直せる形をした意見である。 案の矛盾を指摘し、直した文案を添えたものが「御指摘のとおり修正いたします」を引き出していた。判例を引いた指摘が定義の書き換えにつながっていた。「対症療法用の医薬品の備蓄も必要ではないか」という1行が、計画の2か所を動かしていた。逆に、根拠を示さない賛否には「貴重な御意見として承ります」しか返っていない。
制度の建前と、実際に効いている要因はずれている。 政府は「量ではなく内容」と明言しているが、412件を分析した研究では、案の修正に効いていた唯一の要因が意見の数だった。総務省自身の運用も、100件を超えると大臣確認に上げる形になっている。
分からなかったことも書いておく。
大洲市の平成19年度から29年度までの案件別の内訳は、見つけられなかった。 議会答弁に合計値は残っているが、どの案件に何件来たかの一覧は、市のサイトにもインターネットアーカイブにも無かった。平成20年の小学校統廃合計画案に107件が来たことは分かるが、そのうち何件が反映されたかは分からない。
自治体のパブリックコメントの反映率は、全国のどこにも数字が無い。 上に書いたとおり、法律の適用がないため調査自体が行われていない。
意見によって計画が撤回された例は、行政の公表資料の中には見つけられなかった。 探し方が足りない可能性は残る。
代案を添えた意見が通りやすいという実務上の傾向は、この記事では実例からしか言えていない。 そう定めた通知も、統計的に検証した研究も見つからなかった。金融庁・消費者庁・横浜市・厚生労働省の4件でその形が揃っていた、というところまでが確かめられた範囲である。
最後にもう一度、横浜の4人の1件目に戻る。「形式的に行っているだけ、という印象を受けます」という意見に、市は案を変えないという答えを返した。だがその問いと答えは公文書に残り、2年後に大洲市の非公式サイトがそれを引用している。制度が答えたのは、案の中身ではなく、記録のほうだった。
出典