2026/08/17 ・ 大洲と読書
阿部真大『地方にこもる若者たち 都会と田舎の間に出現した新しい社会』を読みました。
タイトルを見た瞬間、「はよこれ読まな」とペンで丸をつけたくなるくらい、他人事に思えない本でした。
地方の若者が地元に残る(こもる)現象を分析した本です。時給の低さや、「今の地域活性化とやらも、 そんな効果があるのだろうか」という懐疑的な視点が印象に残りました。
「地元の人間関係」についての指摘も面白かったです。地元だけで完結する生活は人間関係が密になる 一方、選べる相手の幅は狭まる。良い面と苦しい面、その両方を正直に書いている本でした。
大洲では、この二択が18歳ではなく15歳のところにあります。数字が残っていました。
令和7年6月の市議会の答弁です。市内の中学校を卒業して県内の高校へ進学したのは349人。そのうち大洲市内の高校へ進んだのは195人で、55.9%でした。残りの4割強は、中学を出た時点でもう市外へ通っています。
逆から見ると、もっと面白い形になります。同じ年、市内の県立高校に入学したのは281人で、市内の中学から入った割合は65.5%。ところが内子町・八幡浜市まで広げると302人になり、86.5%に上がります。市内の高校のほうも、周辺の町から生徒を集めて成り立っています。
市が挙げた理由は、意欲の話ではありませんでした。工業科や総合学科など市内の高校にない学科があること、そして交通事情が改善されて市外への通学が容易になったこと。道がよくなったから出ていける、という話です。
その分岐が、いちばん大きく動いたのが令和8年でした。
大洲高校普通科の最終志願倍率は0.51倍。前年の0.94倍から0.43ポイント下がりました。同じ年の県の平均倍率は0.89倍なので、県内でも際立って低い数字です。
市の答弁が挙げた要因は2つでした。市内の中学3年生が前年度より40人ほど少なかったこと。そして高校授業料無償化の拡充で、中予の私立高校を専願受験する生徒が増えたことです。
ここが、この本の懐疑と重なるところだと思います。動いたのは若者の意欲でも、学校の努力でもありませんでした。授業料の制度が変わった年に、40人分の人口減と一緒に、倍率が半分になった。「こもる」か「出る」かは、本人が選んでいるように見えて、選択肢の値段のほうが先に動いていました。
ちなみに令和5年に市内の高校で行われた学校給食のニーズ調査では、保護者の8割以上が給食を希望していました。魅力化の材料として議会に出てきた話です。
本のいちばん厳しい視線は、地域活性化そのものへの懐疑でした。大洲市はこれに、自分の手で答えを出しています。
令和4年12月、市はまち・ひと・しごと創生総合戦略を検証して議会に報告しました。目標を達成したのは、新規創業数、ふるさと納税の額と件数、補助対象移住者数など。観光客数は目標60万人に対して半数程度。そして出生率は令和元年までの5か年平均より低下し、令和3年度の婚姻届受理数と母子健康手帳交付者数は平成30年度を2割から3割下回っていました。
伸びたものは、ちゃんと伸びています。令和7年12月の質問で並べられた数字がそれです。ふるさと納税は令和2年度の8,446件・2億3,802万2,000円から、令和6年度は1万5,464件・4億4,143万4,000円へ。市ホームページの訪問数も93万5,037回から122万7,138回へ、3割ほど増えました。
それでも、令和5年に対して令和6年は827人減っています。質問者はこう続けていました。職員の地道な努力で兆しは見えているが、「最終目標である人口減少阻止への決定的な歯止めにはなっていない」。
効果はあった。ただし人口には効いていない。本の懐疑に、大洲の数字はほぼそのとおりだと答えていることになります。
「地元の人間関係は密になるが、選べる相手の幅は狭まる」。この両面が、大洲では制度の形で見えます。
空き家取得費などの移住補助金には「区入り」、つまり自治会に入ることが要件として付いています。市は地域自治推進条例で区入りを促進すると定めていて、令和7年6月の答弁でも「区入りという要件を設けているところでございます」とはっきり述べていました。令和7年4月には、県宅地建物取引業協会など4団体と協定を結び、不動産の売買や賃貸の契約時にチラシを渡して加入を呼びかける仕組みも作っています。
では、入るといくらかかるのか。令和6年12月の議会で、ある自治会の実額が挙げられていました。自治会活動費700円、盆踊り大会の寄附金300円、消防団活動協力金1,000円で年2,000円。これに赤い羽根や緑の羽根の募金、社会福祉協議会の会費などを足すと、年間2,000円以上が別にかかるという説明でした。
金額そのものは大きくありません。ただ、地元に入っているかどうかが、住宅の補助金という現金の形で線引きされている。密であることに値段がついている町で「残る」を選ぶのは、たしかに単純な二択ではないと思います。
大洲市の人口は減り続けていて、若い世代の流出も長年の課題です。
以前まとめた人口の記事や、人口ビジョンの記事でも触れた通りです。
この本を読みながら考えていたのは、「地元に残る」か「出ていく」かは、単純な二択ではないということでした。
地元に残ることで得られる安心感と、それによって狭まる選択肢。どちらも本当のことです。
「地域活性化に本当に効果があるのか」という本の懐疑的な視線は、大洲市の各種計画・事業を追いかけて いる自分にとっても、他人事にはできない問いだと思いました。