大洲の自由研究 #01
「OZU 555 PROJECT」という新しい構想を調べていたら、その土台になっている大洲城下町再生スキームの 全体像に行き着いた。誰が、何のために、いくらのお金を動かしているのか。政治的な立場は取らず、 公開資料だけを頼りに、じっくり追ってみた。
大洲城下町の再生に、12億円が動いとるんよ。
誰が、何のために、どこから出しとるんか。公開資料だけで追いかけた。
きっかけは「うさんくさい」いう、自分の直感やった。
発端は、以前紹介した「OZU 555 PROJECT」という構想だった[1]。
2030年までに「5つの先行事例・50の新規事業・500人の雇用創出」を掲げる、地域DMO(キタ・マネジメント)、ホテル事業者(バリューマネジメント)、金融機関(伊予銀行)の3者による構想だ。
記事にする過程で、「この構想、なんで急に出てきたんだろう」「大洲の会社がやってるんじゃないの?」という疑問が湧いた。
調べていくと、この構想は単独で存在しているのではなく、2017年ごろから積み上げられてきた官民連携の「城下町再生スキーム」の延長線上にあることが分かった。
今回はその土台部分——お金と組織の流れ——を、公開資料だけを頼りに掘り下げてみる。
なお、この記事は通常の記事(大洲ノート)よりも長く、専門的な内容を含む。
「大洲の自由研究」は、そういう「1本の記事に収めるにはもったいない」題材を、時間のあるときに読んでもらうためのコーナーだ[2]。
話は2017年6月に遡る。キタ・マネジメントが後にまとめた資料によると、当時の大洲市は10個の課題を抱えていたという[3]。
人口減少・少子高齢化・若者流出、地域経済の縮小、財政力の縮小、そして特に強調されていたのが「地域資源(歴史的資源)の保全の限界」。
大洲城下町には明治~昭和初期に和紙・製蝋・養蚕製糸業で栄えた時代の町家・古民家が数多く残っていたが、維持が困難になり、老朽化した空き家が増えていた。
実際にこの資料には、2017年6月時点で城下町の歴史的な建物のうち、複数棟がすでに「取り壊しや新築・改築予定」とマークされた地図が載っている。
つまりこの時点で、「放っておけば町並みが失われる」という危機感が、行政・民間双方に共有されていたことになる。
同じ2017年、地域の若者を中心にNPO法人YATSUGI(やつぎ)が結成され、空き家所有者への聞き取りや簡単な修繕活動を始めていた[4]。
この時期の泥臭い交渉の様子は、別の取材記事でも「綺麗事では進まない」現実として紹介されている[12]。
「城下のMACHIBITO」という町屋活用型イベントも開かれ、「100年前の大洲を再現」というコンセプトで、着物姿の人々が古い町並みを歩く光景が資料の写真に残っている。
制度が整う前に、まず人が動いていた、というのがこの物語の出発点のようだ。
ここから先を理解するには、名前が似ている組織を先に整理しておく必要がある。
特に「キタ・マネジメント」と「バリューマネジメント」は、大洲の人でも混同しやすい。
大洲市が資本金2,000万円を出資して2018年7月2日に設立した「官製法人」。市の観光地域づくり法人(DMO)。名前の由来は旧地名「喜多郡大洲町」の「喜多(キタ)」[9]。
2018年10月設立、代表取締役・井上陽祐氏。大洲市大洲649番地1に拠点を置く、キタ・マネジメントの関連会社。町家・古民家の改修・賃貸・管理という「実務」を担う[10]。
2017年設立。地域の若者が中心となり、空き家所有者への聞き取りや町家再生イベントを担う。制度が整う前段階から動いていた民間の担い手。
2005年設立、大阪市北区梅田に本社を置くホテル運営会社。従業員240人。全国8都市以上でNIPPONIA HOTELブランドの分散型ホテルを展開する、大洲の外から来た事業者。
兵庫県篠山発の団体・会社。エリア計画のコンサルティングと、古民家活用のノウハウ、「NIPPONIA」の商標を大洲側に提供している。
資金提供・出向者派遣を担う。大洲まちづくりファンドやMINTO機構(国の都市開発推進機構)とあわせて、改修資金の融資・社債を引き受ける。
整理すると、「古民家を見つけて改修し、貸し出す」という地域側の実務は大洲の組織(キタ・マネジメント/KITA/YATSUGI)が担い、それを実際にホテルとして運営する専門ノウハウは、篠山発のNOTEの技術供与を受けつつ、大阪のVMCが提供する——という役割分担になっている。
大洲が完全に蚊帳の外というわけではない。むしろ、次の章で見るように、行政のトップ自身がこの仕組みの中心にいた時期がある。
文章だけでは追いづらいので、図にした。キタ・マネジメントが政府の有識者会議に提出した 資料に載っていたスキーム図をもとに、この記事用に描き直したものだ[3]。
出典: キタ・マネジメント「大洲城下町再生の物語」(内閣官房 有識者会議提出資料)をもとに作成
資料に明記されている総事業費は約12億円[3]。その資金源を 表にすると次のようになる。
| 出し手 | 使途 | 形式 |
|---|---|---|
| 内閣府 | 地方創生推進交付金 | 国費1/2 |
| 国土交通省 | 社会資本整備総合交付金 | 国費1/2 |
| 経済産業省 | 地域未来投資促進法(地域経済牽引事業者の指定) | 税制優遇等 |
| 大洲市 | 地域DMO設立・各種補助金 | 補助金 |
| 金融機関5行+大洲まちづくりファンド | 改修資金 | 融資・社債 |
| MINTO機構 | 改修資金 | 融資 |
注目したいのは、この12億円が伊予銀行や大洲市単独の負担ではなく、内閣府・国土交通省・経済産業省という3つの中央省庁の制度を組み合わせて成り立っている点だ。
「地方創生」「社会資本整備」「地域未来投資」という、それぞれ別の法律・交付金の枠組みを、1つの城下町再生プロジェクトのために束ねている。
これは大洲市の担当者が、複数の補助制度を巧みに組み合わせて資金を引っ張ってきた、ということでもある。
キタ・マネジメントの組織概要(2024年4月1日時点)を見ると、興味深い記載がある[3]。
設立時(2018年)の代表理事は、二宮隆久・大洲市長本人だった。
「官民連携」「民間主導」という言葉が使われがちだが、少なくとも立ち上げの瞬間は、行政のトップが自ら組織のトップも兼ねていたことになる。
2021年4月からは2代目代表理事(非常勤)として、高岡公三氏が就任している。
高岡氏の経歴を見ると、1984年に伊予銀行へ入行し、大分東支店長、倉敷支店長、愛媛県庁支店長、公務営業部長、地域創生部長を歴任した、生え抜きの伊予銀行マンだった。
しかも2021年5月からは「伊予銀行営業本部参与(嘱託)」という肩書きも持っており、キタ・マネジメントの代表理事と伊予銀行の役職を、現在も兼務している。
地元金融機関と官製DMOのトップが、組織としてだけでなく、人としてもつながっている、という実態が見えてくる。
キタ・マネジメントの資料には「大洲城下町の分散型ホテル開発構想(モデル:丹波篠山市)」という スライドがあり、大洲の計画が兵庫県丹波篠山市の事例をそのまま参照して作られたことが 明記されている[3]。
篠山での取り組みを主導したのは、兵庫県職員・篠山市副市長を経て2009年に一般社団法人ノオトを設立した金野幸雄氏[5]。
2015年に「篠山城下町ホテルNIPPONIA」を開業し、2026年で10周年を迎えるという、分散型ホテルという業態そのもののフラッグシップになっている[6]。
2015年6月にはノオトから篠山市関連業務部門が分社独立し、2016年5月に株式会社NOTEが設立された。
この「一社ノオト・(株)NOTE」が、2018年4月の連携協定を通じて、大洲側に計画策定サポートと古民家活用ノウハウ、そして「NIPPONIA HOTEL」という商標そのものを提供している。
つまり大洲城下町再生は、ゼロから発明されたものではなく、篠山という「本家」の型を輸入したものだった。
この経緯は観光庁・国土交通省の検討会資料でも「官民連携による歴史的資源を活用した観光まちづくり」の好事例として取り上げられており[11]、キタ・マネジメントの取り組みは事業構想を扱う専門メディアでも紹介されている[13]。
官民連携協定は2018年4月5日に締結された。当時の役割分担は資料に明記されている[3]。
| 締結者 | 役割 |
|---|---|
| バリューマネジメント(株) | 宿泊施設の運営等を展開し、観光による地域経済を牽引 |
| 一社ノオト・(株)NOTE | 計画策定サポート及び古民家・空き家活用ノウハウの提供、NIPPONIA HOTELの商標貸与 |
| 伊予銀行 | 資金提供・出向者派遣等により地域経済の成長発展に貢献 |
| 大洲市 | 地域DMOの設立、および地域未来投資促進法による各種支援(補助金獲得等)の実施 |
「大洲だけがうまくいっているのか、それとも他の街でも同じことをしているのか」も調べてみた。
VMCが運営する「NIPPONIA HOTEL」は、大洲以外にも函館(北海道)・秩父(埼玉)・佐原(千葉)・伊賀上野・伊勢川崎(三重)・竹田(兵庫)・竹原(広島)と、全国8都市以上で展開されている[7]。
いずれも城下町・在郷町・商家町といった、歴史的な町並みが残る中小規模の都市が選ばれている。
正直に書くと、今回の調査ではVMCの分散型ホテル事業が特定の都市で撤退・失敗したという具体的な事例は見つけられなかった。
フラッグシップである篠山は10周年を迎え、業界内では「不可能だと思われていたビジネスを可能にした」という評価すら見られる[6]。
各地のNIPPONIA HOTELも、それぞれ受賞歴や地域観光資源データベースへの掲載があり、少なくとも表向きは運営が継続している。
ただし、これは「失敗していない」ことの証明であって、「すべての都市で財務的に成功している」ことの証明ではない。
各施設の収益性や地域経済への実際の波及効果までは、公開資料からは確認できなかった。この点は今回の調査の限界として、正直に書いておく。
確認できた事実として言えるのは、「地域の歴史的建築をホテルに再生し、まちごと観光資源にする」という手法自体が、VMCにとって大洲だけの特別な挑戦ではなく、8都市以上で繰り返してきた確立済みの事業モデルだということだ。
「555」のような具体的な数値目標を掲げたビジョン構想を他の都市でも同様に展開しているかどうかは確認できなかったが、大洲が「モデル都市第1号」というより、「このモデルの8番目以降の適用例」である可能性の方が高いように見える。
大洲市には別に「第2期大洲市まち・ひと・しごと創生総合戦略」という、よく似た響きの計画がすでにある。
この2つは性質がまったく違う。総合戦略は「まち・ひと・しごと創生法」という国の法律に基づき、大洲市自身が策定する法定計画で、審議会での議論やパブリックコメントといった手続きを経て市が正式に決定するもの[8]。
一方でOZU 555 PROJECTは、キタ・マネジメント・VMC・伊予銀行という3つの民間主体が独自に策定したビジョンで、法律上の位置づけを持たない。
大洲市議会でこの構想が審議・報告された記録がないか探してみたが、今回の調査では見当たらなかった。
市が主体となって作る「総合戦略」と、民間3者が主体となって作る「555 PROJECT」は、似た言葉を使っていても、決める人も手続きも別物だと理解しておく必要がある。
ここまで見てきた12億円規模のスキームは、VMC自身のプレスリリースで「まちづくり1.0」と呼ばれているものにあたる[1]。
城下町の空き家を再生し、NIPPONIA HOTELという宿泊事業として観光客を呼び込む——という、ここまで説明してきた仕組みそのものだ。
「まちづくり2.0」と位置づけられるOZU 555 PROJECTは、この土台の上に、観光の枠を超えて事業・雇用そのものを生み出すフェーズを重ねようとしている。
その受け皿が「大洲カンパニー」というバーチャルコミュニティで、観光・ものづくり・教育・健康ウェルネス・AIという5つの分科会と、法人・個人向けの「パートナー」制度、「大洲第二市民制度」、「大洲アンバサダー(仮称)制度」という3つの参加の入口が用意されている。
1.0が「歴史的建築×宿泊」という分かりやすい事業モデルだったのに対し、2.0は「関係人口づくり」というより輪郭のつかみにくい領域に踏み出している、というのが率直な印象だ。
公開資料だけで追いかけてきたが、届かなかったところがある。正直に書いておく。
1つ目。12億円の「誰がいくら出したか」は分からなかった。
さきほどの表に金額の欄がないのは、省いたからではない。元の資料に内訳が書かれていないからだ。
ただし、大洲市が出した分だけは市議会の会議録から拾える。令和元年6月の一般質問で、その年度の予算に計上された関連経費が読み上げられている[14]。
| 市が出したもの(令和元年度・一部前年度) | 金額 |
|---|---|
| (一社)キタ・マネジメントへの出資金(前年度分1,000万円を含む) | 2,000万円 |
| 同 負担金 | 55万円 |
| 同 DMO運営費補助 | 300万円 |
| (株)KITAへの町家改修事業費補助金 | 1億6,460万円 |
| 松井家住宅整備事業 | 1億7,128万3,000円 |
| 同 実施設計委託料(前年度) | 約1,422万円 |
| 大洲城キャッスルステイ等の実証実験費用 | 500万円 |
足すと約3億7,865万円になる。
ただ、これがそのまま「12億円のうちの市の負担分」かというと、そうとは言い切れなかった。松井家住宅の整備のように、城下町再生と地続きではあっても、12億円のスキームに含まれるのかどうかが資料から読み取れないものが混ざっているからだ。
金融機関5行・MINTO機構・バリューマネジメントがそれぞれいくら出したのかは、探した範囲では公開されていなかった。
2つ目。「OZU 555 PROJECT」が市議会で議論されたのかどうかは、まだ確かめようがなかった。
「総合戦略」と何が違うのかの章で「見当たらなかった」と書いた部分を、あらためて確かめた。市が公開している定例会の会議録を2017年から2026年まで153ページ分ダウンロードして、全文を検索した[15]。
「555」「大洲カンパニー」「第二市民」は、ゼロ件だった。
ただし、このゼロにはあまり意味がない。会議録が公開されているのは令和8年3月定例会(3月3日〜19日)までで、555 PROJECTのプレスリリースが出たのは、その閉会から1週間後の3月26日だからだ[1]。
発表後に開かれた定例会の会議録は、この記事を書いた時点では、まだ1本も公開されていなかった(2026年8月末時点で404が返る)。
つまり「議会で議論されていない」のではなく、「議論されたとしても、まだ読める形になっていない」。ここは会議録が出てから確かめ直したい——と書いていた。
【2026年9月3日追記】確かめ直した。発表後最初の定例会である令和8年6月定例会の会議録(全5日分)が9月はじめに公開されたので、同じ4つの言葉で全文を検索した。結果は、「555」「大洲カンパニー」「第二市民」「バリューマネジメント」のいずれもゼロ件のままだった。プレスリリースから2か月あまりの時点で、この構想が議場で取り上げられた記録は確認できない。民間3者の構想が議会を通らないこと自体は制度上おかしなことではないが、12億円スキームの土台(キタ・マネジメント)が同じ6月定例会で言及されたのは、ライドシェア導入をめぐる観光連携の文脈だけだった。次は9月定例会の会議録(公開は年末ごろの見込み)で確かめる。
いっぽうで「キタ・マネジメント」は196か所、「バリューマネジメント」は76か所に出てくる。土台にあたる1.0のほうは、出資金の額から「どうなったら成功と言えるのか」まで、議場で繰り返し問われてきた。2.0がそこに並ぶかどうかは、これからの話だ。
3つ目。投じたお金がどれだけ返ってきているのかは、分からなかった。
効果として市が示した数字で見つかったのは、令和4年3月の答弁にある「本事業により15人の正規雇用者が生まれております」というものだけだった[16]。
宿泊事業そのものの売上や利益、市が出した補助金がどれだけ税収や使用料として戻っているのかを示す資料には、たどり着けなかった。
他の街のNIPPONIA HOTELについても同じで、他の街でも成功しているのかを見た章に書いたとおり、各施設の収益性までは公開資料から確認できていない。
最後に、政治的な立場を取らずに、事実として言えることを整理しておきたい。
①大洲城下町の再生は、大洲市長自らが初代代表理事を務める形で始まり、地元の官製DMO・地元不動産会社・地元金融機関という「大洲側」の主体と、篠山発のノウハウ・大阪のホテル運営会社という「外部」の主体が組んで進められてきた。
どちらか一方だけの手柄と言い切るのは正確ではない。②総事業費約12億円は、大洲市単独の財源ではなく、内閣府・国交省・経産省という3省庁の制度を組み合わせて成り立っている。
③このモデル自体は大洲オリジナルではなく、篠山を筆頭に全国8都市以上で展開されている、VMCにとって確立済みの事業手法である。
④「OZU 555 PROJECT」は、この確立済みの1.0モデルの上に乗る、法的な裏付けのない民間発のビジョンであり、総合戦略のような公式な計画とは性質が異なる。
「うさんくさい」という最初の直感は、半分当たっていて半分外れていたと思う。
VMCという外部の民間企業の存在感が大きいのは事実だが、それを大洲市長自身が2018年に自ら招き入れ、複数の国の制度を使って資金を引っ張ってきた、というのも同じくらい事実だ。
2030年という期限まで、555 PROJECTが本当に「5事例・50事業・500人雇用」を実現できるのか、そしてそれが大洲市民の暮らしにどう還元されていくのか——数字だけを鵜呑みにせず、今後も定点観測していきたい。
出典