大洲の自由研究 #06
「大洲城に泊まると1泊160万円」という数字を以前紹介した。あの記事を書いたあと、 ずっと引っかかっていたことがある。なぜその値段なのか。誰が泊まっているのか。 そして、そのお金はどこへ行くのか。平戸城・福山城・丸亀城と並べながら、 価格の内側を分解してみる。
大洲城に1泊160万円。なんでその値段になるんやろか。
分解したら、1人あたり単価制やった。平均は193万円。
平戸城・福山城・丸亀城と並べて、中を見てみたんよ。
以前の記事で、大洲市の官民連携まちづくりを分析した東京都立大学大学院の修士論文(2023年3月)に、 キャッスルステイの平均支払額が約160万円前後と書かれていたことを紹介した[1]。 その当時の料金体系はこうだった。
つまり「160万円」は定価ではなく、実際に支払われた金額の平均値だった。
基本の2名分110万円に、体験プログラムや人数の追加が乗った結果の数字ということになる。
ここを取り違えると、「大洲城は160万円で泊まれる」という誤解が生まれる。
そして重要なのは、この料金体系はすでに過去のものだということだ。 現在の料金は、まったく違う考え方で組まれている。
2026年8月時点で運営元のVMG HOTELSが公表している大洲城キャッスルステイの料金は、「1名308,000円~」という表示になっている。
定員は6名、1日1組限定[2]。一方、別の情報源では2名利用時に1人66万円(税込)、つまり2名1泊132万円という表示も確認できる。
一見矛盾しているようだが、これは人数が増えるほど1人あたりの単価が下がる仕組みだと考えると説明がつく。
天守と櫓をまるごと貸し切る商品なので、建物を開けるコスト、スタッフを配置するコスト、演出のコストは人数にあまり左右されない。
だから2人で泊まっても6人で泊まっても、総額はそこまで大きくは変わらない。
結果として、1人あたりの単価は人数に反比例して下がっていく。
図1: 大洲城キャッスルステイの料金構造(推定を含む)。VMG HOTELSおよび公式サイトの公表値をもとに作成
正直に書いておくと、「308,000円が6名時の単価である」という部分は推定だ。
公式サイトには「~」としか書かれておらず、人数別の料金表を確認することはできなかった。
ただ、2名で66万円、下限が30.8万円、定員が6名という3つの数字を突き合わせると、この解釈がいちばん無理がない。次の章で見る実績の平均額とも整合する。
キタ・マネジメントが公表している令和7年度実績報告に、 キャッスルステイの販売実績が載っていた[3]。
| 事業 | 件数 | 金額 | 1件あたり |
|---|---|---|---|
| 大洲城キャッスルステイ | 12件 | 23,201,818円 | 約193万円 |
| OZU STORIES | 52件 | 約125万円 | 約2.4万円 |
| 大洲城ナイトツアー | 7件 | 約10.8万円 | 約1.5万円 |
1組あたりの平均支払額は約193万円。修士論文の時代の約160万円から、3割ほど上がっていることになる。
そして注目したいのは、この193万円という金額が、先ほど推定した6名利用時の総額約184.8万円に近いということだ。
ここから読み取れるのは、キャッスルステイを利用しているのがカップルや夫婦ではなく、定員いっぱいに近い人数のグループだろう、ということだ。
家族や親族、あるいは企業の招待といった使われ方が想像できる。
2名132万円という価格だけを見ると「富裕層のカップル向け」に見えるが、実際の平均額はそれより60万円以上高い。
1人66万円を2人で払うより、1人30万円台を6人で払うほうが、心理的にも実際にも成立しやすい——という商品設計になっているように見える。
実績の推移も追っておきたい。
| 期間 | 利用組数 | 備考 |
|---|---|---|
| 2020年7月~2022年11月(約2年4か月) | 14組 | 修士論文に記載 |
| 令和7年度(1年間) | 12組 | キタ・マネジメント実績報告 |
最初の2年4か月で14組ということは、年6組ペース。それが令和7年度には年12組になっている。
単純計算で約2倍だ。集計の期間も方法も違うので厳密な比較はできないが、少なくとも「話題になっただけで終わった企画」ではないことは分かる。
一方で、年間の実施可能日数は30日程度に限定されている。12組ということは、実施可能な枠の4割程度が埋まっている計算になる。
これを高いと見るか低いと見るかは、判断が難しい。1泊200万円近い商品で年12組が成立していること自体は相当なことだと思う一方、枠の6割が空いているとも言える。
大洲城の位置を測るために、全国の城泊事例を集めて表にした。 「城に泊まる」と一口に言っても、実は中身がかなり違う。
| 城 | 所在地 | 開始 | 形態 | 料金の目安 | 定員 |
|---|---|---|---|---|---|
| 大洲城 | 愛媛県大洲市 | 2020年7月 | 天守・櫓を貸切(年30日程度限定) | 2名132万円 6名 約185万円 | 6名 |
| 平戸城 懐柔櫓 | 長崎県平戸市 | 2021年4月1日 | 櫓を常設の宿泊施設に改修 | 1室66万円 (食事等別) | 5名 |
| 福山城 | 広島県福山市 | 2024年6月 | 月見櫓に宿泊・1日1組 | 4名 約158万円 | 4名 |
| 丸亀城 | 香川県丸亀市 | 2024年7月1日 | 1日1組限定 | 4名 約153万円 | 4名 |
| 白石城 | 宮城県白石市 | 2021年5月~ | 本丸でのキャンプ(期間限定) | — | 20組 |
| 島原城 | 長崎県島原市 | — | 本丸駐車場での車中泊(RVパーク) | 4,000円 | — |
| 小倉城 | 福岡県北九州市 | — | 天守閣貸切(宿泊なし) | 6万円~(税抜) | — |
| 津山城 | 岡山県津山市 | 2026年11月予定 | 準備中 | — | — |
表にして初めてはっきりしたのは、「城泊」という言葉が指すものが、1泊4,000円の車中泊から1泊200万円の天守貸切まで、500倍近い幅を持っているということだった。
島原城のRVパークと大洲城のキャッスルステイを同じ「城泊」として並べるのは、正直かなり無理がある。
高価格帯に絞ると、大洲城・平戸城・福山城・丸亀城の4つになる。
福山城(4名約158万円)と丸亀城(4名約153万円)は、VMGが運営している点で大洲城と同系列だ。
公表されている1人あたりの下限価格は、大洲城308,000円、丸亀城382,250円、福山城396,000円で、大洲城がいちばん安い。
定員が6名と多いぶん、1人あたりの単価が下がっているからだと考えられる。
調べていて、はっきりした食い違いに出くわした。 「日本初の城泊」を名乗っている城が、2つあるのだ。
木造復元天守と重要文化財の櫓を客室として貸し切る形。日本で最初に始まった城泊として紹介されることが多い。ただし天守を常設の宿泊施設にしたわけではなく、年30日程度の限定運営。
櫓そのものを改修して常設の宿泊施設にした形。業界メディアでは「日本初の城泊『平戸城懐柔櫓』が開業」と報じられている。運営は株式会社狼煙。
時系列で見れば、大洲城のほうが約9か月早い。 では平戸城の「日本初」は間違いなのかというと、そう単純でもないと思う。 2つは、そもそも別の種類のものだからだ。
平戸城の懐柔櫓は、119.76平方メートル・2階建ての櫓を改修し、リビングダイニング、寝室、和のコーナー、ウッドデッキ、浴室を備えた常設の宿泊施設にしている。
年間を通じて泊まれる建物として作られた。一方の大洲城は、天守と櫓に手を加えず、閉館時間だけを使って宿泊体験を提供する形だ。
建物は宿泊施設ではなく、あくまで文化財のまま運用されている。
おそらく、大洲城が「日本初の城泊(体験)」で、平戸城が「日本初の城泊(常設の宿泊施設)」ということなのだろう。
どちらの主張も、それぞれの定義のなかでは成立している。ただ、この区別を説明せずに「日本初」とだけ書く記事が多いので、混乱の原因になっている。
「常設か、限定か」という違いは、単なる運営スタイルの差ではない。
ビジネスとしての性格がまったく変わるので、少し掘り下げておきたい。
| 観点 | 常設型(平戸城) | 限定型(大洲城) |
|---|---|---|
| 建物の扱い | 櫓を宿泊施設に改修する。水回りや空調を入れる | 文化財を改変しない。閉館後の時間だけ使う |
| 年間の稼働可能日数 | 原則、通年 | 大洲城で年30日程度 |
| 初期投資 | 改修費が必要 | 建物への投資は最小限。演出とオペレーションが中心 |
| 売上の上限 | 稼働日数が多いぶん、理論上の上限は高い | 日数の上限が売上の上限を決める |
| 文化財としてのリスク | 改修によって価値が変わる可能性がある | 建物そのものは変わらない |
| 一般公開との両立 | 宿泊施設なので、日中の公開とは別枠 | 一般公開を継続したまま実施できる |
大洲城が選んだのは、売上の上限を自ら30日に縛るかわりに、文化財を一切いじらないというモデルだ。
年30組が満室になっても、単価200万円として年6,000万円が理論上の天井になる。商売としては相当に窮屈な設計だと言える。
それでもこのモデルを選んだ理由は、次の章に書く。
大洲城キャッスルステイが事業化されるまでのプロセスは、かなり慎重だった[1]。
図2: 大洲城キャッスルステイの事業化プロセス
2019年5月に市が「文化財観光施設を活用した歴史体験検討委員会」を設置し、同年11月に実証実験を実施。
安全性や文化財への影響を検証したうえで、30回を超える地元説明会を重ねて事業化にこぎつけている。
そして「一般公開は継続する」「文化財の改変はしない」「年間実施回数を30日程度に限定する」という3つのルールを決めた。
この慎重さの背景には、大洲城という建物の来歴があると思う。2004年に復元された木造天守は、総工費13億円のうち5億円が住民の寄付で賄われ、天守を支える柱の多くに住民が寄付した檜などの木材が使われている。
文字どおり、地域住民が自分たちのお金と木で建てた天守だ。それを外部の事業者に開放して1泊200万円の商品にするというのは、説明会を30回重ねなければ通らない話だっただろうと想像がつく。
「年30日限定」という制約は、事業の都合ではなく、この建物が誰のものかという合意の結果として設定された数字なのだと思う。
売上の上限を自ら縛る設計は、経営効率だけを見れば非合理だが、その非合理さこそがこの事業の正統性を支えている、という見方もできる。
では、稼いだお金はどこへ行くのか。
城泊を紹介する記事では、大洲城について「売上の一部を文化財の維持保全と無形文化財の継承に充当している」と説明されている[4]。
キャッスルステイでは、初代藩主・加藤貞泰の入城シーンの再現や火縄銃の祝砲、伝統芸能の披露といった演出が行われる。
これらの担い手は地域の保存団体で、演出への出演が活動資金になるという循環が想定されている。
ただし、「一部」が具体的に何%で、いくらが誰に渡っているのかは公表されていない。
令和7年度の売上23,201,818円のうち、文化財の維持保全に回った額も、伝統芸能の団体に支払われた額も、確認できる資料は見つけられなかった。
「売上の一部を地域に還元する」という説明は、金額の裏づけがないと評価のしようがない部分でもある。
規模の感覚として補助線を引いておくと、2,320万円という金額は、大洲市の一般会計308億7,000万円の約0.0075%にあたる[5]。
市の財政という尺度で見れば、ほとんど誤差の範囲だ。この事業の意味は金額ではなく、「大洲城に泊まれる」という物語が生む発信力のほうにあると考えるべきだと思う。
実際、令和7年度のメディア露出換算額は約15.9億円で、前年の約2.7倍に伸びている[3]。
2020年以降、城泊が急に増えた理由もはっきりしている。国の政策だ。
観光庁は2020年から「城泊・寺泊による歴史的資源の活用事業」を進めている[4]。
城や社寺といった日本独自の歴史的資源を使った体験型の宿泊コンテンツを開拓し、訪日外国人の誘致につなげるという政策だ。
大洲城(2020年7月)、平戸城(2021年4月)、福山城(2024年6月)、丸亀城(2024年7月)、そして津山城(2026年11月予定)という開業の並びは、この政策の流れとほぼ重なっている。
ここで、このシリーズの1本目で見た構図が繰り返されていることに気づく。
大洲城下町の再生が内閣府・国交省・経産省の3省庁の制度を組み合わせて成り立っていたように、キャッスルステイもまた、国が用意した政策の枠組みの上に乗っている。
大洲が特別に独創的だったというより、国の制度が動き出したタイミングで、いち早く手を挙げた自治体の1つだった、というのが実態に近いのだと思う。
ただし、いち早く手を挙げること自体が簡単なわけではない。2019年5月の検討委員会設置は、観光庁の事業が始まる前だ。
制度ができてから動いたのではなく、動いていたところに制度が追いついた、という順番だった可能性もある。この点は資料からは確定できなかった。
この記事を書くにあたって、愛媛県内のもう1つの有名な城である今治城でも城泊が行われているのではないかと考え、調べてみた。
結論から書くと、今治城で城泊が実施されているという情報は見つけられなかった。
全国の城泊をまとめた複数の記事(2025年版・2026年版)を確認したが、今治城の名前はどのリストにも登場しなかった。
検討中・準備中として挙げられているのは、津山城(2026年11月開業予定)、中津城、岸和田城、臼杵城などで、今治城は含まれていない。
したがって、愛媛県内で城泊が実施されているのは、現時点では大洲城のみということになる。
藤堂高虎が築いた海城として全国的に知られる今治城が城泊をやっていないのに、大洲城が全国で最初に始めた——という事実は、それ自体が今回の調べもので分かったことの1つだった。
この記事の穴を正直に列挙しておく。
1つ目。人数別の正確な料金表を確認できなかった。公式サイトは「1名308,000円~」という下限表示のみで、2名・3名・4名…と人数ごとの単価がいくらになるかは公表されていない。
図1の料金構造は、確認できた2つの数字(2名時66万円/下限30.8万円)と定員6名という情報から組み立てた推定を含んでいる。
2つ目。売上の配分が分からなかった。「売上の一部を文化財維持保全と無形文化財継承に充当」という説明はあるが、その割合も金額も公表されていない。
キタ・マネジメント、VMG、大洲市の間で収益がどう分配されているのかも確認できなかった。
3つ目。初期投資額が分からなかった。 大洲城の場合は建物を改変していないので大規模な改修費はかかっていないはずだが、 演出の準備、什器、実証実験、説明会にかかった費用が どこから出てどれくらいの規模だったのかは追えなかった。 平戸城についても、懐柔櫓の改修費用は確認できなかった。
4つ目。利用者の属性が分からなかった。令和7年度の12組が、国内客なのか訪日客なのか、何名で泊まったのか、どういう目的だったのかを示す資料は見つけられなかった。
第3章で書いた「定員に近い人数のグループだろう」というのは、平均額から逆算した推測にすぎない。
5つ目。他の城泊の実績(組数・売上)は、ほとんど公表されていなかった。
大洲城については、キタ・マネジメントが実績報告のなかで件数と金額を公表しているため数字を追えたが、平戸城・福山城・丸亀城について同様のデータは見つけられなかった。
価格は比較できても、実際にどれだけ売れているかの比較はできていない。
最後に、分かったことを整理する。
①「160万円」は定価ではなく、2020~2022年ごろの平均支払額だった。
現在の実績はさらに上がっていて、令和7年度の1組あたり平均は約193万円になっている。
②高価格帯の城泊のなかでは、大洲城の1人あたり単価はいちばん安い。
公表されている下限価格は、大洲城308,000円、丸亀城382,250円、福山城396,000円。
定員が6名と多いぶん、頭割りにすると安くなる構造になっている。
③大洲城は「日本初」だが、平戸城とは種類が違う。 大洲城が体験としての城泊の第1号(2020年7月)で、 平戸城が常設の宿泊施設としての第1号(2021年4月)。どちらの主張も定義の上では成立する。
④年30日という制約は、売上の天井を自ら決めている。 文化財を改変せず、一般公開も続けるという条件を選んだ結果であり、 30回を超える地元説明会を経て決まった数字でもある。
では、この価格は高いのか。1泊200万円という数字だけを見れば、普通の感覚では手が届かない。
ただ、これは「宿代」ではなく、年に30日しか存在しない、1日1組だけの体験の値段だと考えると、見え方が変わってくる。
市場が受け入れているかどうかで言えば、年12組が成立している以上、受け入れられている。
個人的にいちばん引っかかっているのは、価格ではなく配分のほうだ。
13億円のうち5億円を住民の寄付で建てた天守が、年間2,320万円を生む商品になっている。
そのお金がどこへ行っているのかが分からないままだと、「文化財の維持保全に還元している」という説明も、確かめようがない。
次にこの事業について書くときは、そこの数字を追いかけたいと思う。
出典